出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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抗リン脂質抗体症候群(APS)
こうりんししつこうたいしょうこうぐん(APS)

抗リン脂質抗体症候群(APS)とは?

どんな病気か

 動脈や静脈の血栓症または胎盤微小血栓を主な病態とする自己免疫血栓症です。

原因は何か

 自己抗体の一種である抗リン脂質抗体が関係して血栓症を起こします。具体的な抗体としてはβ2-グリコプロテイン1、抗カルジオリピン抗体、ループス抗凝血素(LAC)が主に関与しています。そのほかにも数種類の抗体が関係しているといわれています。

症状の現れ方

 血栓の生じる部位、血管の太さ、動静脈の違い、範囲により、多様な症状を示します。

 重篤なものでは脳梗塞、肺梗塞、冠動脈血栓症などがあり、そのほか各種臓器の血栓症状が現れます。皮膚病変は網状皮斑、白色萎縮症、下腿潰瘍血栓性静脈炎、紫斑、肢端潰瘍、壊死、壊疽などがみられます。

 抗リン脂質抗体症候群には、基礎疾患のない原発性と基礎疾患のある二次性があります。二次性の場合、基礎疾患は全身性エリテマトーデスが合併率40%と圧倒的に多く認められます。重症型として、複数の内臓臓器に重い血栓症を同時に来す劇症型APSも報告されており、注意が必要な病型です。

検査と診断

 臨床的に血栓症を証明することと、抗リン脂質抗体を検出することにより診断します。血液検査で生物学的偽陽性(BFP:梅毒の検査のSTSが、梅毒ではないのに陽性となる現象)、血小板減少、血漿活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)の延長があった場合に本症を疑います。

 APSの診断基準は、1998年の第8回国際抗リン脂質抗体シンポジウムで提唱された診断予備基準が改訂され、現在は2005年のシドニーで決められたものが使われています(表4表4 抗リン脂質抗体症候群の改訂診断基準(Sydney、2005))。

表4 抗リン脂質抗体症候群の改訂診断基準(Sydney、2005)

治療の方法

 抗血小板薬、抗凝固薬を組み合わせて治療します。

 多臓器の重篤な血栓症にはステロイド薬や免疫抑制薬が有用です。基礎疾患に全身性エリテマトーデスなどの膠原病がある場合は、原疾患の治療が第一です。難治の場合や劇症型では十分な抗凝固療法(血液凝固を阻止する治療)と、免疫吸着療法(血液中の悪い成分を取り除く治療)、または血漿交換療法が必要となります。

病気に気づいたらどうする

 皮膚科専門医またはリウマチ膠原病専門医を受診します。

(執筆者:聖路加国際病院皮膚科部長 衛藤 光)

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聖路加国際病院皮膚科部長 衛藤光

 関節リウマチに最も多くみられる関節外症状です。患者さんの20%前後で、病気の活動性の強い時に認められます。

 結節は硬く、球形から卵円形の皮下結節で、大きさは0・5~数cmと大小さまざまです。骨が出っ張っていて、外からの刺激を受けやすい部位にできやすく、肘頭、前腕、膝蓋、手指の関節周囲に、また寝たきりの人では後頭部、仙骨部に好発します。皮膚以外では肺、胸膜、腱、血管壁などにも同様のものが現れます。

 関節リウマチの患者さんの下肢に、静脈に沿って虫食い状の皮膚潰瘍ができることがありますが、これも病理学的にはリウマチ結節に類似する肉芽腫性病変で血管を中心とした病変です。

 時に通風結節、黄色腫、粉瘤、脂肪腫、皮膚がんなどとの区別が困難な場合があり、皮膚生検が必要となることがあります。

抗リン脂質抗体症候群(APS)に関する医師Q&A