出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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染色体異常
せんしょくたいいじょう

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染色体異常とは?

どんな病気か

 設計図のミスプリントが遺伝子異常だったのに対して、染色体異常は設計図の枚数違い(数の異常、倍数体)や破損(構造異常)にあたります。設計図の上には遺伝子情報が書かれているわけですから、設計図が余分になったり破れたりすると膨大な数の遺伝子の異常がまとまって起こります。

情報は多すぎてもいけない

 染色体異常をもったお子さんのお母さんから、「設計図が足りなくなったら異常が起こるのは理解できるが、余分にあってはなぜいけないのか」と質問されることがあります。

 設計図に書かれているのは単に体の材料をつくるための情報だけではありません。物をつくるのを制御するような情報もたくさんあります。情報は多すぎても少なすぎてもいけないのです。

 染色体異常症の各論は他の項目を見ていただくとして、ここではなぜ染色体異常の子が生まれてくるのか、少し詳しく解説します。

染色体異常の発生の仕組み

 染色体異常としてよく知られているダウン症は、高齢出産で生まれやすいということが知られています。ダウン症のなかには転座型といわれるタイプも5%くらいあります。その半数は両親のどちらかが転座保因者であるため遺伝的に生まれてくるのだということを、聞いたことがあるかもしれません。

 学問的には染色体異常の発生機構として、卵の過熟による染色体不分離説、遅延受精説、遺伝子異常説などいろいろな説があります。確かに母親の年齢が40歳を超えると数十分の一の確率でダウン症の子が生まれてきます。

 しかし、そのような高齢出産はわずかなので、実際にはダウン症のほとんどが若いカップルから生まれてきます。染色体異常の発生には遺伝的な背景もありますが、絶対的多数はいわゆる突然変異で生まれてくるのです。

リスクは誰にでもある

 ここで、染色体異常をもった子どもの両親にぜひ理解してほしい事実があります。それは誰でも染色体異常をもった子どもを生むリスクがあるということです。というのは、誰でも精子や卵を調べると10~20%に染色体異常が見つかることがわかっているからです。ですから、どんなカップルでも受精卵の半数近くは染色体異常になります。

 染色体異常以外にも重い遺伝子異常が突然変異でたくさんできるのですが、これらの障害をもった受精卵の大多数は初期に流産してしまいます。その数は受精卵の70%にものぼると考えられています。このごく初期の流産は受精卵が子宮に着床するかどうかの時期に起こるので、生理が少し乱れるだけで、産婦人科医にはもちろん、本人にもわかりません。

 産婦人科医の目にとまる初期流産(妊娠3カ月ころまでの)は、このごく初期の流産を過ぎてからですが、それでも検査をすると半数以上に染色体異常が見つかります。

 このような自然の機構により、多くの染色体異常は生まれるまでに流産してしまいます。結果的に、実際に生まれてくる新生児のなかでは染色体異常は1%前後と減ってしまうのです。

(執筆者:お茶の水女子大学大学院遺伝カウンセリングコース客員教授 千代 豪昭)

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 多因子遺伝性疾患は遺伝子異常と環境との相互作用で発病しますが、どちらの要因が強いか比較的簡単に知る方法があります。一卵性双生児と二卵性双生児の間で発病一致率を比較する方法で、双生児法と呼ばれます。

 一卵性双生児は遺伝学的な背景が同一ですが、二卵性双生児の遺伝学的背景は兄弟と同等です。本文で解説した唇裂・口蓋裂では一卵性双生児の片方が発病していると残りの双生児も35%が発病しています(一致率が100%でないのは環境要因の影響です)。ところが二卵性双生児の一致率は5%にすぎません。この病気は遺伝要因がかなり強いということになります。

 一方、感染症である結核でも一卵性双生児が二卵性双生児の一致率より2・5倍も高くなっています。結核は細菌が感染するかどうかで決まるのだから遺伝は関係ないと思われるかもしれません。しかし、人間の免疫機構は遺伝子の作用を強く受けているので、発病するかどうかは遺伝が関与しているのです。

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 その機構はまだ十分にはわかっていません。遺伝学が扱う進化理論では突然変異に目的がないことがわかっています。しかし、突然変異に対して"甘い"流産機構がさまざまな変異をつくり出し、結果的に変貌する地球環境に適応する個体を生み出すために必要なのだと考えると納得できる面があります。ある意味では先天異常は人類が環境に適応して生き延びていくための"保険"のようなものなのかもしれません。

 また別の見方をすると、生まれてきた染色体異常をもった子どもは幾段階もの流産機構を免れて生き残った特別に運が強い子どもか、あるいは母体との相性が特別に良かった子どもなのかもしれません。キリスト教では子どもは"天からの授かり物"ではなく"神様からの預かり物"です。神様はあなた方を選んでこの子を預けたのだ、だから親として慈しんで育て、天寿を全うしたら神様にお返しするのだと教えます。

 生命の誕生や胎児の発生の神秘的な面をみると、このような宗教的な考え方も受け入れることができるような気がします。

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