出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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膀胱損傷
ぼうこうそんしょう

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膀胱損傷とは?

どんな外傷か・原因は何か

 膀胱の損傷は、交通事故、労働災害、スポーツ、手術時によって引き起こされます。

 解剖からみると膀胱は恥骨後面の骨盤内に存在するため、通常は外力を受けにくい状態にあります。ただし、膀胱が尿で充満している時には、予期しない外力で容易に膀胱の破裂が生じます。たとえば、泥酔時に下腹部を蹴られたり、転倒時に鈍器にぶつけたりすることで発生します。この時の損傷では、多くの場合、腹腔内に尿の流出がみられます。

 骨盤の骨折を伴う時には、膀胱の損傷もいろいろな程度で合併しますが、とくに膀胱頸部や後部尿道は断裂しやすい箇所で、注意が必要です。

 泌尿器科で行う内視鏡操作でもまれに起こることがありますが、医療に起因するもので多いのは骨盤内の悪性腫瘍手術時です。癒着などで剥離に困難を伴うことがその一因でもあります。

症状の現れ方

 腹腔内に尿が流出する損傷では、自尿や血尿がなくなることで見当がつきます。腹膜外の損傷では、強い尿意がありますが、排尿ができないうちに下腹部が腫瘤状になることで推定できます。

検査と診断

 カテーテルと呼ばれる管を尿道から挿入して尿が得られるか、または生理食塩水を注入して回収が可能かどうかをみます。尿道から逆行性に造影剤を注入して、造影剤の溢流をみます。腹腔内に造影剤がみられ、腸管像や造影剤の貯留がみられれば診断が確定します。

 また腹膜外の損傷では、骨盤腔内の膀胱周囲に造影剤が観察されます。静脈に造影剤を注射する検査でも診断されることがあります。重症でなければ、内視鏡で損傷の部位、程度を観察することも可能ですが、発症直後では二次的な損傷を引き起こすこともあるので、適応は慎重にします。

治療の方法

 救急処置が必要な重症例では、まずショックの対策や止血などに対する対応を優先します。

 膀胱壁の損傷が軽微な場合には、尿道カテーテルを留置するのみで損傷部位は閉鎖します。

 大きな膀胱壁の損傷や腹腔内と交通するタイプでは、外科的な治療が不可欠であり、できるだけ早期に行うことが要求されます。損傷部の膀胱壁は縫合しますが、溢流した尿と血液の除去とともに、細菌感染予防のために抗菌薬の投与を行います。

応急処置はどうするか

 泌尿器科専門医の診察を受けることをすすめます。

(執筆者:埼玉医科大学名誉教授 出口 修宏)

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コラム膀胱留置カテーテル

埼玉医科大学名誉教授 出口修宏

 尿道を通じてカテーテル(管)を膀胱内に挿入し、持続的に尿を体外に排出させることを指します。

 膀胱内に尿が充満していて自分では排尿できない状態(尿閉)、支配する神経の障害で膀胱壁の筋肉の収縮が不完全な状態(神経因性膀胱)、また、手術後で尿量の管理を行う時など、さまざまな状況でカテーテルを留置することがあります。

 カテーテルは、天然ゴムや高分子化合物で作られ、表面にはシリコンやシルバーを塗布し、細菌の感染を予防する工夫がされています。通常は通路が2本あり、1本は尿を導くものであり、1本は先端部に取り付けてある風船状のもの(バルーン)を滅菌水でふくらませるためにあります。

 バルーンが膀胱内でふくらむと、カテーテルは引き抜くことはできません。人によっては、カテーテルの留置で尿道、膀胱が刺激され、苦痛を伴うこともあります。その場合は、鎮痛薬などで対応します。

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