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逆流性食道炎/食道潰瘍の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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逆流性食道炎/食道潰瘍とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 胃内容物がなんらかの原因で食道に逆流して、食道の粘膜がおもに胃液にさらされることで、食道の表層の粘膜に炎症(傷)が生じる病気のことを逆流性食道炎といいます。また粘膜に生じた炎症による傷が深く、表面粘膜を超えてより深くまで及んだ場合に食道潰瘍といいます。

 代表的な症状は、胸焼け(胸が焼けつくような感じ)です。酸の逆流感(酸っぱいものが上がってくる感じ)・つかえ感・胸痛などもよく認められる自覚症状です。さらには、のどの違和感・咳や喘息様症状・睡眠障害など、胃食道逆流症としての症状とは気付きにくい症状を呈することもありますので、留意が必要です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 食道と胃の境界部(噴門部)にある括約筋(管状部分を閉じる作用をする筋肉)は、胃から食道への逆流を防ぐ役割を果たしています。この筋肉のゆるみなどにより逆流防止の機能が障害される状態がおきると、胃酸が逆流し、逆流性食道炎がおきやすくなります。

 噴門部の逆流防止の機能が障害されやすいのは、①暴飲暴食・高脂肪食・ある種の薬剤による括約筋のゆるみ、②肥満や便秘、腹部の締めつけなどによる腹圧の上昇、③不規則な食生活による胃酸分泌の乱れ、④食道裂孔ヘルニアの存在、などの場合です。また、酸分泌が少ない状態から解放される場合(ヘリコバクター・ピロリ除菌後、酸分泌抑制薬長期服用の中止後など)は、一時的に胃酸の影響を受けやすい状態といえます。胃切除後の人では、胃酸のみならず、肝臓からの消化液(胆汁)や膵臓からの消化液(膵液)を交えた十二指腸液が逆流し、食道炎をおこすことがあります。

病気の特徴

 胃酸逆流などにより内視鏡検査で実際の炎症の所見が存在するものを一般的に「逆流性食道炎」といいますが、実際には、内視鏡検査では食道の表面の傷などの炎症変化が明らかではないにもかかわらず、逆流による胸やけなどの強い自覚症状がある場合があります。この状態を「非びらん性胃食道逆流症」といい、両者をあわせて「胃食道逆流症」(GERD)といいます。日本人では「非びらん性胃食道逆流症」の人が比較的多い傾向にあります。

 わが国では、内視鏡検査による有病率は4~19.9パーセントといわれており、16.7パーセントほどとの全国調査の報告があります。(1)

 男女別では、全体には男性にやや多い傾向がありますが、女性においては年齢とともに重症例が増加し、70歳以上では女性により高率に認められます。

 逆流性食道炎は、いったん治癒しても再度増悪することも多い疾患で、自覚症状に注意することと、日常の食生活をはじめリスク要因の改善に取り組むことが重要です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
食生活の改善をはかる ★2 大食い、早食い、高脂肪食の過剰摂取、炭酸飲料、食事摂取時間の乱れ(就寝前の飲食など)などの食生活は、飲酒とともに、胃食道逆流を誘発する可能性が指摘されており、該当する場合はその改善が望まれることが専門家の意見や経験から支持されています。また、食生活の乱れは肥満にもつながる恐れがあり、逆流性食道炎を引きおこしやすくなると考えられます。
過度の飲酒と喫煙を控える ★2 たばこやアルコールは症状を悪化させる要因となることが臨床研究によって明らかになっています。したがって逆流性食道炎を改善するためには、飲酒や喫煙を控えることは有効であることと考えられ、専門家の意見や経験から支持されています。
体重の減少を図り、肥満を解消する ★5 肥満は腹圧を上昇させ、胃食道逆流を誘発します。体重の減量は症状の緩和に有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。 根拠(2)
腹部を圧迫する姿勢を長時間続けない ★2 長時間の前屈みの姿勢や、コルセット、ガードルによる強い締めつけを避けることは、症状増悪を誘発する可能性が示唆されるため、有症状時は極力避けるべきであると考えられています。このことは専門家の意見や経験から支持されています。
食後の臥位を避け、就寝時はベッドの頭側挙上を図る ★5 食後の臥位、右側臥位は症状を悪化させることが明らかになっており、就寝時は頭側挙上を図ることが症状の緩和に有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。 根拠(2)
胃酸分泌を抑制する薬を用いる ★5 酸分泌抑制薬であるH2受容体拮抗薬とプロトンポンプ阻害薬は、逆流性食道炎に対して有効な薬剤であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)
酸分泌抑制薬で、プロトンポンプ阻害薬はH2受容体拮抗薬より逆流性食道炎治療においてより高い有効性がある ★5 プロトンポンプ阻害薬はH2受容体拮抗薬と比較し、より強力な酸分泌抑制作用を有する薬剤であり、逆流性食道炎患者においてもそのことが当てはまります。プロトンポンプ阻害薬による内服治療は、H2受容体拮抗薬による治療より、より高率に自覚症状の改善と食道炎の治癒をもたらすことが、国内外ともに非常に信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。また治癒状態の維持・再発抑制効果の観点からも、プロトンポンプ阻害薬がもっとも優れていることも信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。 根拠(3)~(9)(4)
内服治療に加えて、生活・食事指導を併用することで上乗せ効果を図る ★3 先に述べたように、プロトンポンプ阻害薬による内服治療は有効性の確立した治療法ですが、わが国の検討でプロトンポンプ阻害薬による治療に加え、生活指導や食事指導をあわせて行うことにより、逆流性食道炎によるQOLの低下がプロトンポンプ阻害薬単独治療と比較して、改善効果が高いとするとの研究報告がなされています。 根拠(10)
ほかの病気での治療薬が関与している可能性がある場合は、薬の変更ができるか検討する ★3 カルシウム拮抗薬(高血圧薬)、ネオフィリン製剤(喘息治療薬)など、下部食道括約筋の緊張をゆるめる作用がある薬剤は、その結果として胃酸逆流を助長する可能性が示唆されています。本邦でも代表的なカルシウム拮抗薬による高血圧の治療との因果関係の報告があり、臨床研究での確認がなされています。もし逆流性食道炎と他疾患治療薬との関係が疑われる場合は、該当する他疾患治療薬変更の利益不利益を考慮し、可能であれば変更を考慮します。 根拠(11)~(13)
外科的手術(逆流防止手術)は、プロトンポンプ阻害薬内服治療と同等以上の効果がある ★5 逆流防止手術には開腹で行う方法と腹腔鏡下で行う方法があり、いずれも胃食道逆流の防止効果の確実性が高く、プロトンポンプ阻害薬内服治療と同等以上の効果があることが、欧米では非常に質の高い臨床研究によって証明されています。したがって内服治療の効果が十分得られない場合には、外科的治療の検討がなされます。 根拠(14)(15)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

酸分泌抑制薬/プロトンポンプ阻害薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
オメプラール/オメプラゾン(オメプラゾール) ★5 これらの薬剤は臨床試験によりその有効性や安全性が確認され、逆流性食道炎に対する治療の効能効果が保険適応上認められています。また、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。さらにH2受容体拮抗薬との比較でもより高い効果が得られることが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(3)~(9)
タケプロン(ランソプラゾール) ★5
パリエット(ラペプラゾールナトリウム) ★5
ネキシウム(エソメプラゾールマグネシウム水和物) ★5

酸分泌抑制薬/H2受容体拮抗薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
タガメット(シメチジン) ★5 これらの薬剤は臨床試験によりその有効性や安全性が確認され、治療の効能効果が保険適応上認められています。また、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(3)~(5)
ガスター(ファモチジン) ★5
ザンタック(ラニチジン塩酸塩) ★5
アルタット(ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩) ★5
アシノン(ニザチジン) ★5
プロテカジン(ラフチジン) ★5

制酸薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
マーロックス(水酸化アルミニウムゲル・水酸化マグネシウム配合剤) ★5 これらの制酸薬の服用にて自覚症状の改善の効果が、非常に信頼性の高い臨床研究で明らかにされています。しかし制酸薬の酸中和作用は短時間であり、また治癒率はプロトンポンプ阻害薬と比較し低いことが知られています。つまり、一時的な自覚症状の緩和を目的とする薬剤です。 根拠(16)(17)
アルサルミン(スクラルファート) ★5

アルギン酸塩

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アルロイドG(アルギン酸ナトリウム) ★5 食道粘膜保護作用があり、症状緩和作用が認められています。また、「食道炎における自覚症状の改善」にて保険適応上の効能効果があります。しかし一時的な症状改善を目的とする薬剤です。 根拠(18)~(20)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

禁煙し、暴飲暴食を控える

 とくに喫煙、飲酒には注意が必要です。まず禁煙をし、過度の飲酒を控えること、また高脂肪食の摂取や大食い、早食いを控えることが大切です。

腹圧を上昇させないようにする

 腹圧による胃食道逆がおきやすくなります。肥満の人では減量により肥満の解消を図ります。また腹圧がかかりやすい姿勢、長時間の前かがみの作業や、腹部を強く締めつける服装を避けるようにします。

就寝中の胃酸逆流を防止する

 就寝前の飲食は避け、すぐに横にならないようにしましょう。就寝時は上半身を高くするとよいでしょう。

プロトンポンプ阻害薬等の酸分泌抑制薬による内服治療を行う

 胃酸の分泌を減らす作用のあるプロトンポンプ阻害薬とH2受容体拮抗薬は、逆流性食道炎に非常に有効な治療薬であり、とくにプロトンポンプ阻害薬は第一選択薬に位置づけられています。これらの薬剤治療に加え、食生活をはじめとする生活習慣の改善を図ることで、逆流性食道炎によるQOLの低下の改善が期待できます。また、一時的な症状緩和目的に、アルギンアンナトリウムや制酸薬を併用するのも有用でしょう。なお、重症例や難治例の逆流性食道炎については、内視鏡検査による治癒確認を受けることも重要です。

以上の治療にて効果が得られない場合に、外科手術をすることもある

 以上の内科的治療にて改善傾向が得られず治療が長期化する場合などは、合併症も考慮して逆流防止手術を行うこともあります。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1)大原秀一, 神津照雄, 河野辰幸, 他. 全国調査による日本人の胸やけ・逆流性食道炎に関する疫学的検討. 日消誌. 2005;102:1010-1024.
  • (2)Kaltenbach T, Crockett S, Gerson LB. Are lifestyle measures effective in patients with gastroesophageal reflux disease? An evidence-based approach.Intern Med. 2006;166:965-971.
  • (3) Chiba N, De Gara CJ, Wilkinson JM, et al.Speed of healing and symptom relief ingradeIItoIVgastroesophagealrefluxdisease:a meta-analysis.Gastroenterology.1997;112:1798-1810.
  • (4) Caro JJ, Salas M, Ward A.Healing and relapse rates in gastroesophageal reflux disease treated with the newer proton-pump inhibitors lansoprazole, rabeprazole, and pantoprazole compared with omeprazole, ranitidine, and placebo: evidence from randomized clinical trials.ClinTher. 2001;23:998-1017.
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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)