2003年初版 2016年改訂版を見る

脂肪肝の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

つぶやく いいね! はてなブックマーク

脂肪肝とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 肝臓の細胞に異常な量の脂肪が沈着した状態をいいます。肝臓は正常であっても4~5パーセントの脂質(リン脂質)を含んでいますが、脂肪肝の状態では中性脂肪が多量に蓄積されています。自覚症状はあまりないため、健康診断などの血液検査で肝機能の異常を指摘され、そのために行った精密検査(超音波検査)で見つかることが少なくありません。高度な脂肪肝では腹部の張り、食欲不振、吐き気、全身倦怠感、疲れやすいといった自覚症状もみられます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 脂肪肝のおもな原因は、アルコールの飲みすぎ、肥満、糖尿病などです。アルコールをたくさん飲んだり、脂肪や糖質の多い食事をとりすぎたりしていると、肝臓での脂質代謝に異常をきたし、中性脂肪が必要以上につくられて肝臓に蓄積されます。

 消化管の手術のあとに食事で栄養をとれないため、長期にわたって高カロリーの輸液を行ったことが原因となる場合や、副腎皮質ステロイド薬、テトラサイクリン系の抗菌薬による治療の副作用でおこることもあります。

 このほか、妊娠、ライ症候群(急性脳症の一つで、おもに子どもがかかる)によって急性脂肪肝となることもあり、この場合は黄疸、出血、意識障害などの症状が現れ、重症となります。

 脂肪肝になると肝機能が低下し、AST(GOT)、ALT(GPT)、コリンエステラーゼ、中性脂肪などの検査値が上昇します。

続きを読む

治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
食事療法を行う ★4 高エネルギーの偏った食生活が脂肪肝の大きな原因の一つですので、エネルギー量を制限する食事療法を行います。肥満や糖尿病の食事療法と同様に、脂っこい料理やアルコール、スナック菓子、ジュースなどを制限したものとなります。これらのことは信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)~(3)
全身運動による運動療法を行う ★4 ウォーキング(速歩き)、ランニング、水泳など、呼吸をしながら持続的に全身の筋肉を使うような運動(有酸素運動)が、脂肪を燃やすためには効果的です。1日30分程度でもよいので少なくとも2日に1回行いましょう。これらのことは信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(2)(3)
脂肪の代謝を改善するために薬物療法を行う ★3 通常の脂肪肝のみであれば、食事療法や運動療法が中心となります。それらの生活改善ができない場合などに、ビタミンEやクロフィブラート製剤、ポリエンホスファチジルコリンといった薬によって、肝障害を示す血液データや脂肪肝が改善したという臨床研究があります。高脂血症も合併しているときは、薬で高脂血症の治療を行うこともあります。 根拠(4)~(7)
原因となる病気があればその治療を行う ★4 肥満が原因の脂肪肝なら肥満の解消を、糖尿病なら食事と運動で病気のコントロールを、そしてアルコールが原因の場合は禁酒すれば、脂肪肝は改善します。これらのことは信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(2)(3)(8)
重症化している脂肪肝(妊娠やライ症候群によるもの)では劇症肝炎に準じた治療を行う ★2 非常にまれではありますが、妊娠末期におこる脂肪肝(急性妊娠脂肪肝)やライ症候群に合併する脂肪肝は、黄疸、意識障害など劇症肝炎のような症状をおこし、一度発症するとかなりの人が死亡する恐い病気です。症状に応じて劇症肝炎に準じた治療を行うことは専門家の支持するところです。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

脂質の代謝を改善する

主に使われる薬 評価 評価のポイント
EPLカプセル(ポリエンホスファチジルコリン) ★3 ポリエンホスファチジルコリン、ベザフィブラートについては、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(5)(6)(7)
ベザトールSR(ベザフィブラート) ★3

重症化している場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アンスロビンP(乾燥濃縮人アンチトロンビンIII) ★2 あまりその後の経過に影響しなかったという、少人数の患者さんについての臨床研究がありますが、もっと大規模な臨床研究を待たないと結論はくだせません。 根拠(9)(10)
エフオーワイ(メシル酸ガベキサート) ★2 これらの薬は専門家の意見や経験から支持されています。
新鮮凍結血漿 ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

禁酒、カロリー制限などが有効

 脂肪肝の原因にはさまざまなものがありますが、もっとも多いのは、アルコールの飲みすぎ、肥満、糖尿病などによるものです。

 したがって、アルコールによる場合には、禁酒が唯一の治療法ですし、肥満や糖尿病による場合には、食事のエネルギー制限をしたり脂肪分の摂取を減らしたりするなどの食事療法が有効です。

代謝を活発にする運動療法もよい

 重症の場合は安静が必要ですが、アルコールや肥満、糖尿病などが原因となっているふつうの脂肪肝の場合は、積極的に適度な運動をすることが治療に役立ちます。

 運動をすることによってエネルギーを消費することができますし、代謝を活発にすることにもなるからです。

 禁酒や食事療法、運動療法などに取り組んで適正な体重に戻せば、1~2カ月で肝臓の細胞に沈着した異常な脂肪が消失すると考えられています。

薬物療法も効果がある

 そのような生活習慣の改善ができないか、肝機能の回復が速やかでない場合に、ビタミンEやクロフィブラート製剤、EPLカプセル(ポリエンホスファチジルコリン)などを試みてもよいでしょう。

重症のときは劇症肝炎の治療に準じる

 まれではありますが、妊娠時の脂肪肝(急性妊娠脂肪肝)やライ症候群による脂肪肝では、黄疸、意識障害、出血傾向などをおこして生命にかかわるような場合も多く、急激に低下している肝機能を補うための人工肝補助療法など劇症肝炎に準じた治療が必要になります。

 人工肝補助療法は体に必要な物質を補充し、老廃物を取り除くものですが、血漿交換や血液透析を応用した血液ろ過透析を行い、それでも肝機能が回復しない場合は肝移植を検討することもあります。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1) Okita M, Hayashi M, Sasagawa T, et al. Effect of a moderately energy-restricted diet on obese patients with fatty liver. Nutrition. 2001;17:542-547.
  • (2) Park HS, Kim MW, Shin ES. Effect of weight control on hepatic abnormalities in obese patients with fatty liver. J Korean Med Sci. 1995;10:414-421.
  • (3) Ueno T, Sugawara H, Sujaku K, et al. Therapeutic effects of restricted diet and exercise in obese patients with fatty liver. J Hepatol. 1997;27:103-107.
  • (4) Lavine JE. Vitamin E treatment of nonalcoholic steatohepatitis in children: A pilot study. J Pediatr. 2000;136:734-738.
  • (5) Saibara T, Onishi S, Ogawa Y, et al. Bezafibrate for tamoxifen-induced non-alcoholic steatohepatitis. Lancet. 1999;353:1802.
  • (6) 石岡達司, 難波次郎, 三浦寛人, 他. ベザフィブレート(ベザトール(R)SR錠)の過栄養性脂肪に対する臨床的検討. 新薬と臨床. 1995;44:59-63.
  • (7) 古賀俊逸, 入佐俊武, 宮田康司, 他. 肝機能検査成績と超音波所見により検討した脂肪肝51症例の臨床経過, EPL (polyenephosphatidylcholine)投与症例における成績. Progress in Medicine. 1991;11:1891-1899.
  • (8) Pares A, Caballeria J, Bruguera M, et al. Histological course of alcoholic hepatitis. Influence of abstinence, sex and extent of hepatic damage. J Hepatol. 1986;2:33-42.
  • (9) Castro MA, Goodwin TM, Shaw KJ, et al. Disseminated intravascular coagulation and antithrombin III depression in acute fatty liver of pregnancy. Am J Obstet Gynecol. 1996;174:211-216.
  • (10) Hellgren M, Hagnevik K, Robbe H, et al. Severe acquired antithrombin III deficiency in relation to hepatic and renal insufficiency and intrauterine fetal death in late pregnancy. Gynecol Obstet Invest. 1983;16:107-118.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行