C型肝炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
C型肝炎とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
C型肝炎は、C型肝炎ウイルスによって肝臓の細胞が炎症をおこす病気です。C型肝炎ウイルスが血液や体液によって感染することで発症します。母子感染、性交渉による感染、医療従事者の針刺し事故による感染などがおもな感染経路です。ただし、母子感染もほんのわずかですし、性交渉についても、通常の性行為ではほとんど感染はみられませんが、体に傷や炎症がある場合は危険です。潜伏期間は1~6カ月です。
C型肝炎の大きな特徴は、健康な成人が感染した場合でもかなりの確率で慢性化し、ウイルスの保菌者(キャリア)となることです。慢性化すると自然治癒はほとんどなく、キャリアでは長い経過をたどって肝硬変、肝がんへと進展していく場合が少なくありません。
自覚症状はほとんどないことが多く、知らないうちに感染していたということも珍しくありません。まれに、全身の倦怠感、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐、黄疸などがみられることもあります。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
C型肝炎ウイルスがなぜ肝臓の細胞の炎症をおこすかは、はっきりとわかっていませんが、肝細胞に入ったC型肝炎ウイルスを追い出そうとして、体の免疫機能がウイルスの入った細胞そのものを攻撃するためではないかと考えられています。
肝細胞が壊れると、細胞のなかにあるトランスアミナーゼという酵素が大量に出てきます。トランスアミナーゼにはAST(GOT)とALT(GPT)の二つがあります。肝機能検査でAST(GOT)、ALT(GPT)値という項目がありますが、これはこの酵素の血液中の量を示すものです。ですから、AST(GOT)、ALT(GPT)値が高くなるということは、肝細胞の破壊が進んでいることを意味しています。肝細胞の破壊が進むとやがて肝硬変、肝細胞がんへつながっていきます。
病気の特徴
わが国では人口の約2パーセントがC型肝炎ウイルスに感染していると考えられています。ほとんどが輸血によるもので、とくに60~70歳代の人に感染者が多いとされています。
1992年からは検査方法が確立し、輸血用血液に対してC型肝炎ウイルスの検査が行われるようになったので、C型肝炎ウイルスの新たな感染は少なくなっています。
C型肝炎ウイルスはA型、B型などほかの肝炎ウイルスに比べ発見が遅かったため、有効な対策をとることができず、非常に多くの人が感染してしまいました。
1992年以前に輸血を受けた人、また、血液製剤にもC型肝炎ウイルスが混入していた時期があったため、大きな手術を受けたことのある人は、念のため検査を受けたほうがよいでしょう。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
安静にする | ★2 | 急性期のC型肝炎の患者さんにおいて、治癒が早まったり治癒率が向上することを示した臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験や意見により支持されています。 | |
急性期は低たんぱく、低脂肪食にして、肝臓への負担をかけないようにする | ★2 | 急性期のC型肝炎の患者さんに対する低たんぱく、低脂肪食の効果を示した臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験や意見から支持されています。 | |
軽症であれば、特別な薬物療法は行わない。必要に応じて輸液を行う | ★2 | 食欲不振のため食事摂取が不十分な場合は輸液が必要になります。臨床研究で確認されているわけではありませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
慢性化した場合は抗ウイルス療法を行う | ★5 | C型慢性肝炎の患者さんに対するインターフェロンを単独で用いる治療やリバビリンと併用する治療は、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。インターフェロンやリバビリンの適応は肝機能やC型肝炎ウイルスのタイプ、合併症の有無などにより決定されます。 根拠(2)(3) | |
グリチルリチン製剤を用いる | ★5 | トランスアミナーゼの値の異常が続く場合にグリチルリチン製剤を用いることがあります。グリチルリチン製剤によって慢性肝炎によるALT(GPT)の値の上昇が改善(肝臓の機能が向上)するという非常に信頼性の高い臨床研究があります。しかし、肝硬変の進展を抑制するかどうかはわかっていません。 根拠(1) | |
ウルソデオキシコール酸を用いる | ★2 | C型慢性肝炎の患者さんに対して、ウルソデオキシコール酸を用いることによってALT(GPT)値の上昇を改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。ただし、肝硬変への進展を抑制する効果があるかどうかはわかっていません。また、C型慢性肝炎の患者さんでインターフェロンを用いたあと、ウルソデオキシコール酸が有効かどうかを検証した臨床研究で、効果がなかったと報告されています。 根拠(5)(6) | |
肝臓移植を行う | ★3 | C型肝炎ウイルスが原因でおこった劇症肝炎に対して、肝臓移植が有効であるとする臨床研究があります。 根拠(4) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
肝機能改善薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
強力ミノファーゲンシー(グリチルリチン製剤) | ★5 | グリチルリチン製剤の使用によって慢性肝炎によるALT(GPT)値の上昇が改善するという非常に信頼性の高い臨床研究があります。しかし、肝硬変の進展を抑制するかどうかはわかっていません。 根拠(1) |
利胆薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ウルソ(ウルソデオキシコール酸) | ★2 | C型慢性肝炎の患者さんに対して、ウルソデオキシコール酸を用いることでALT(GPT)値の上昇を改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。ただし、肝硬変への進展を抑制する効果があるかどうかはわかっていません。また、インターフェロンを用いた後、ウルソデオキシコール酸が有効かどうかを検証した臨床研究では、効果がなかったと報告されています。 根拠(5)(6) |
抗ウイルス薬
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
輸血経験者などはウイルス検査を
C型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染します。検査方法が確立するまでは輸血による感染が多くありました。1992年以前に輸血をしたり、大きな手術を受けたりした人は、一度ウイルス検査を受け、感染の確認をすべきでしょう。自覚症状がほとんどないまま、慢性化・重症化することが多いC型肝炎では正確な診断が大切です。
慢性化した場合は積極的な治療が必要
C型肝炎の最大の問題は、比較的慢性化しやすく、慢性化すると自然治癒することは極めてまれで、長年の間に肝硬変、肝がんに移行することです。C型肝炎の原因はウイルスですから、ウイルスを排除することが根治につながります。このため、ウイルスを排除する有効性が確実に証明されているインターフェロンやインターフェロンとレベトール(リバビリン)の併用治療を積極的に行うのが望ましいと思われます。
これまでの研究では、約30パーセントの患者さんでC型肝炎ウイルスが排除され、肝炎が治癒したと報告されています。特別な理由がない限り、副作用に注意しながら積極的に試みるのがよいでしょう。
強力ネオミノファーゲンシー(グリチルリチン製剤)を使うこともある
また、肝機能障害の程度が強いときには、強力ネオミノファーゲンシー(グリチルリチン製剤)を用いて、ALT(GPT)値を低下させることも行われます。グリチルリチン製剤によるALT値の改善効果については非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。
ただし、長期的に肝硬変や肝がんへの移行を抑制する効果があるかどうかは現在のところ不明です。
肝硬変、肝がんへの進行をチェックする
肝硬変へ進展すれば、抗アルドステロン薬や特殊アミノ酸製剤を使用したり、食道静脈瘤に対してβ遮断薬を使用したりします。
現在は肝硬変の治療も進歩していますが、重症化した場合は生命にかかわることもあります。キャリアの人は、肝硬変、肝がんへ進展する可能性がありますので、定期的に専門医による検査を受けることが勧められます。
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根拠(参考文献)
- (1) Miyake K, Tango T, Ota Y, et al. Efficacy of Stronger Neo-Minophagen C compared between two doses administered three times a week on patients with chronic viral hepatitis. J Gastroenterol Hepatol. 2002;17:1198-1204.
- (2) Lindsay KL, Trepo C, Heintges T, et al. A randomized, double-blind trial comparing pegylated interferon alfa-2b to interferon alfa-2b as initial treatment for chronic hepatitis C. Hepatology. 2001;34:395-403.
- (3) Di Bisceglie AM, Conjeevaram HS, Fried MW, et al. Ribavirin as therapy for chronic hepatitis C. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Intern Med. 1995;123:897-903.
- (4) Gane EJ, Portmann BC, Naoumov N, et al. Long-term outcome of hepatitis C infection after liver transplantation. N Engl J Med. 1996;334:815-820.
- (5) Abdelmalek MF, Harrison ME, Gross JB Jr, et al. Treatment of chronic hepatitis C with interferon with or without ursodeoxycholic acid: a randomized prospective trial. J Clin Gastroenterol. 1998;26:130-134.
- (6) Boucher E, Guyader D, Jacquelinet S, et al. Interferon and ursodeoxycholic acid combined therapy in chronic viral C hepatitis: controlled randomized trial in 203 patients. Dig Liver Dis. 2000;32:29-33.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行