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慢性腎炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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慢性腎炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 腎臓そのものにおこった炎症によって、たんぱく尿や血尿などの尿の異常や高血圧が1年以上続いている状態を慢性腎炎といいます。

 むくみや全身倦怠感などの症状がみられることもありますが、多くの場合は自覚症状は乏しく、集団健診で高血圧を指摘されたことをきっかけに発見されることも少なくありません。むくみなどの症状がなく、軽度のたんぱく尿や血尿がみられる場合は、無症候性たんぱく尿・血尿と診断されることもあります。

 こうした状態が数十年にわたって続いても腎臓の働きがあまり低下しない場合、あるいは症状が現れたり、消えたりをくり返しながら徐々に腎臓の働きが低下していく場合、数年のうちにほとんど腎臓が働かなくなる腎不全に陥ってしまう場合など、経過は患者さんによってさまざまです。ただし、多くの場合、炎症は一生持続しますから、炎症が進行しているかいないかを定期的に検査する必要があります。

 慢性腎炎の原因となりやすい腎臓の病気には、メサンギウム増殖性糸球体腎炎や膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症などがあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 原因は免疫反応の異常がきっかけとなるとされています。体内に入った異物に対する免疫反応の結果、免疫複合体がつくられ、それが腎臓の糸球体に沈着してしまうことが原因の一つと考えられています。

 しかし、急性におこる炎症との違いなど、くわしいことはまだわかっていません。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
塩分とたんぱく質の制限を行う ★2 慢性腎炎に伴う軽症のたんぱく尿についてたんぱく質を制限する効果は、臨床研究によって明らかになっていません。ただし、慢性腎炎の一部であるネフローゼ症候群では、たんぱく質制限が腎不全への進行を遅らせるという臨床研究があります。また食塩の制限が慢性腎炎の進行を遅らせるということについては、この病気の成り立ち(病態生理)から考えて、理にかなっている治療と思われます。 根拠(1)(2)
血圧のコントロールを行う ★5 さまざまな原因による慢性腎炎で、降圧薬のレニンアンジオテンシン系阻害薬(RA系阻害薬;ACE阻害薬やAII受容体拮抗薬など)は病気の進行を遅らせるという非常に信頼性の高い臨床研究があります。カルシウム拮抗薬などほかの降圧薬もRA系阻害薬と併用することで同様の効果が示唆されていますが、単独での効果を比較するとRA系阻害薬よりも弱いため、RA系阻害薬が第一選択薬と考えられます。 根拠(3)(4)
副腎皮質ステロイド薬を用いる ★4 慢性腎炎の一部に対して、副腎皮質ステロイド薬の効果が非常に信頼性の高い臨床研究によって認められていますが、すべての慢性腎炎に対して効果があるわけではありません。 根拠(5)(6)
免疫抑制薬を用いる ★4 一部の腎炎では副腎皮質ステロイドとの併用で腎機能の保持に有効であるという報告があります。 根拠(7)
抗血小板薬や抗凝固薬を用いる ★2 抗血小板薬や抗凝固薬は一部の慢性腎炎においてたんぱく尿を減少させる効果が認められており、専門家の意見や経験から支持されています。ただし、腎機能障害の抑制効果についての有効性は明らかではありません。 根拠(8)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

血圧をコントロールするために降圧薬を使用する(レニンアンジオテンシン系阻害薬)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ACE阻害薬 レニベース(エナラプリルマレイン酸塩) ★5 さまざまな原因による慢性腎炎に対してACE阻害薬はその進行を遅らせるということが、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(3)(4)
エースコール(テモカプリル塩酸塩) ★5
AII受容体拮抗薬 ニューロタン(ロサルタンカリウム) ★5 さまざまな原因による慢性腎炎に対してAII受容体拮抗薬はその進行を遅らせるということが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)
ブロプレス(カンデサルタンシレキセチル) ★5
ディオバン(バルサルタン) ★5
カルシウム拮抗薬 カルスロット(塩酸マニジピン) ★4 カルシウム拮抗薬はACE阻害薬と併用することでたんぱく尿の進行を遅らせることが信頼性の高い臨床研究によって示されていますが、単独での効果はレニンアンジオテンシン系阻害薬に劣ります。 根拠(9)
アムロジン/ノルバスク(アムロジピンベシル酸塩) ★4
副腎皮質ステロイド薬 プレドニン(プレドニゾロン) ★4 慢性腎炎をおこすネフローゼ症候群の微小変化群では、副腎皮質ステロイド薬の効果が信頼性の高い臨床研究によって確認されています。そのほか一部の慢性腎炎に効果があることが報告されていますがすべての慢性腎炎に対して効果があるわけではありません。 根拠(5)(6)

免疫抑制薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
エンドキサン(シクロホスファミド水和物) ★4 一部の腎炎では副腎皮質ステロイドとの併用で有効であるという報告があります。 根拠(7)
サンディミュン/ネオーラル(シクロスポリン) ★4
リツキサン(リツキシマブ) ★4

抗血小板薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
コメリアンコーワ(塩酸ジラゼプ) ★2 ジピリダモールとアスピリンの組み合わせが、慢性腎炎をおこす膜性増殖性糸球体腎炎の進行を抑制するという効果が、信頼性の高い臨床研究によって示されています。このように血栓塞栓症の予防、血流の改善を目的に使われる抗血小板薬や抗凝固薬は、一部の慢性腎炎にのみ効果があることが臨床研究によって示されています。 根拠(8)
ペルサンチン(ジピリダモール)+バイアスピリン(アスピリン) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

検査で原因疾患を知ることが大切

 慢性腎炎の治療は、どのようなタイプの異常が腎糸球体におこっているのかにより大きく異なってくるため、成人、子どもを問わず、腎生検を行って正しい診断を下す必要があります。

病気の原因によって、より効果的な薬剤を選択

 巣状糸球体硬化症の治療では、副腎皮質ステロイド薬が第一選択薬になりますが、副腎皮質ステロイド薬治療に対して抵抗性を示す場合が少なくありません。

 ネフローゼ症候群の場合であれば、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬を使用します。

 膜性腎症(メサンギウム増殖性糸球体腎炎・膜性増殖性糸球体腎炎など)で、ネフローゼ症候群ではない場合、抗血小板薬の使用などで経過観察すると、20~30パーセントは自然に腎機能が回復します。メサンギウム増殖性糸球体腎炎には副腎皮質ステロイド薬や抗凝固療法を行うのが基本となっています。膜性増殖性糸球体腎炎には副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬、抗血小板薬、抗凝固薬の多剤併用療法を行います。

 以上は、一般的な治療方針であって、開始した治療への反応の度合いをみながら、一人ひとりのケースに合わせて治療方針を考えます。

 もちろん、食事中の塩分とたんぱく質の制限、高血圧の治療も同時に進めることが重要です。

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根拠(参考文献)

  • (1)Pedrini MT, Levey AS, Lau J, et al. The effect of dietary protein restriction on the progression of diabetic and nondiabetic renal diseases: a meta-analysis. Ann Intern Med. 1996;124:627-632.
  • (2)慢性腎臓病に対する食事療法基準 2007 年度版.日本腎臓学会誌2007;49;871-878.
  • (3)Reid S, Cawthon PM, et al. Non-immunosuppressive treatment for IgA nephropathy.
  • Cochrane Database Syst Rev. 2011; CD003962
  • (4)Kunz R, Friedrich C, et al. Meta-analysis: effect of monotherapy and combination therapy with inhibitors of the renin angiotensin system on proteinuria in renal disease. Ann Intern Med. 2008;148:30-48
  • (5)Tomino Y, Suzuki H, et al. Multicenter trial of adrenocorticosteroids in Japanese patients with IgA nephropathy―results of the special study group(IgA nephropathy)on progressive glomerular disease, Ministry of Health, Labor and
  • Welfare of Japan. Curr Top Steroid Res 2004;4:93-98.
  • (6)Hodson EM, Knights JF, et al. Corticosteroid therapy for nephrotic syndrome in children. Chochrane Database Syst Rev 2005: CD001533
  • (7)Ballardie FW, Roberts IS, et al. Controlled prospective trial of prednisolone and cytotoxics in progressive IgA nephropathy. J Am Soc Nephrol 2002;13:142-148.
  • (8)Zauner I, Bohler J, Braun N, et al. Effect of aspirin and dipyridamole on proteinuria in idiopathic membranoproliferative glomerulonephritis: a multicentre prospective clinical trial. Collaborative Glomerulonephritis Therapy Study Group (CGTS). Nephrol Dial Transplant. 1994;9:619-622.
  • (9)Herlitz H, Harris K, Risler T, et al. The effects of an ACE inhibitor and a calcium antagonist on the progression of renal disease: the Nephros Study. Nephrol Dial Transplant. 2001;16:2158-2165.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)