膀胱炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
膀胱炎とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
膀胱に細菌が感染することによっておこる病気です。排尿痛、頻尿、尿の濁りが初期症状となります。排尿痛は排尿を終えたときにつーんとくる独特の痛みがあります。
放置すると排尿時だけでなく、ふだんも下腹部に痛みを感じるようになります。
尿に血が混じることもあり、排尿の終わりごろになって、とくに血尿の色が濃くなるのが特徴です。膀胱炎で熱がでることはありませんが、細菌が膀胱からさらに腎臓にまで達すると、腎盂腎炎をおこし、発熱や腰痛といった症状も現れます。
一般的に基礎疾患のない単純性膀胱炎と、何らかの基礎疾患があり、感染が起こりやすい状況でおこる複雑性膀胱炎に分けられます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
原因となる細菌はほとんどがブドウ球菌か大腸菌です。この病気が成人の男性でみられることは非常にまれで、多くが女性の患者さんです。女性は男性に比べて尿道が短いため、細菌が侵入しやすくなっています。肛門やその周囲にすみ着いている菌が膣に移行して、さらに尿道、膀胱へと侵入し、そこで増殖するため炎症がおこります。長時間尿意をがまんしたり、疲労や月経で体の抵抗力が衰えたりしているときにかかりやすくなります。細菌によって膀胱の粘膜が傷つけられると血尿がでます。また、腎臓の病気や糖尿病、免疫抑制状態にあって感染症をくり返しおこしている人などもかかりやすくなります。その場合、原因となる細菌は大腸菌やブドウ球菌に加えて、クレブシエラ菌、プロテウス菌などが考えられます。
病気の特徴
乳児では男の子が多く、2~3歳を過ぎると女の子に多く、とくに20~30歳代の女性に多くみられます。疲労、性交渉、妊娠、分娩、月経などが感染のきっかけになると考えられます。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
水分を多くとる | ★2 | 水分を多めにとって尿量を多くし、侵入してくる、あるいは膀胱内にいる細菌を洗い流すことは病態生理学的には理にかなっており、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
抗菌薬を用いる | ★5 | 膀胱炎に対する抗菌薬の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1) | |
冷えや過労を避ける | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。 | |
性交渉のあとに排尿する | ★2 | 性的な活動期の女性に多い病気であり、性交渉後の排尿が予防につながるとの説が専門家の意見や経験から支持されています。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗菌薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
バクタ(スルファメトキサゾール・トリメトプリム) | ★5 | スルファメトキサゾール・トリメトプリム、ノルフロキサシン、オフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン、レボフロキサシン水和物については非常に信頼性の高い臨床研究によって有効性が確認されています。ほかの薬についてもその作用から考えて同等の効果があると思われ、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(1) | |
バクシダール(ノルフロキサシン) | ★5 | ||
タリビット(オフロキサシン) | ★5 | ||
シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン) | ★5 | ||
クラビット(レボフロキサシン水和物) | ★5 | ||
オゼックス/トスキサシン(トスフロキサシントシル酸塩水和物) | ★2 | ||
ジスロマック(アジスロマイシン水和物) | ★2 | ||
メイアクトMS(セフジトレンピボキシル) | ★2 | ||
オーグメンチン(アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
基礎疾患の有無で異なる治療方針
同じ膀胱炎でも、もともと膀胱や尿管、腎臓に先天的あるいは後天的な異常(奇形、結石、閉塞など)があったり、膀胱カテーテルを装着していたり、糖尿病や免疫抑制状態などのため感染症をくり返していたりする人(複雑性膀胱炎)と、それらの要因(基礎疾患)がまったくない人(単純性膀胱炎)では、原因菌の種類が異なります。したがって、治療の基本的な方針もまったく異なってきます。
基礎疾患がなければスルファメトキサゾール・トリメトプリム、ニューキノロン系の抗菌薬を
基礎疾患のない人では、ほとんどが大腸菌かブドウ球菌を原因とする膀胱炎であり、バクタ(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)、バクシダール(ノルフロキサシン)、タリビッド(オフロキサシン)、シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン)などニューキノロン系の抗菌薬のうち、どれかを最低3日間、経口で服用します。
基礎疾患があれば多くの細菌に有効な抗菌薬を
基礎疾患のある人では、大腸菌、ブドウ球菌に加えて、クレブシエラ菌、プロテウス菌、セレチア菌、緑膿菌、腸球菌など、さまざまな原因菌を考えなくてはなりません。したがって、尿培養で原因菌が明確になるまでは、多くの種類の菌に有効な抗菌薬を用いる必要があります。単純性膀胱炎よりも長期の治療(5~10日)が必要となります。
予防的な抗菌薬の服用も
性的に活動的な女性で、頻繁に膀胱炎をくり返すときには、予防的な抗生剤の内服が効果的なこともあります。
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根拠(参考文献)
- (1)Gupta K, Hooton TM, et al. International clinical practice guidelines for the treatment of acute uncomplicated cystitis and pyelonephritis in women: A 2010 update by the Infectious Diseases Society of America and the European Society for Microbiology and infectious Diseases. Clin Infect Dis. 2011; 52: 103-120.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)