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気管支拡張症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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気管支拡張症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 気管支の内側が広がってしまう病気です。この病気でみられる気管支の拡張は元に戻ることはありません。拡張した部分は浄化作用が低下して痰がたまりやすくなり、慢性気管支炎と似た症状が現れます。せき、痰がでて、ときには血痰や喀血を伴うこともあります。とくに早朝に大量の痰がでます。せきと一緒にでる痰には黄色から緑色の色がついています。大人は自力で痰をだすことができますが、小さい子どもで、自分の力で痰をだせない場合にはさらに拡張部分が広がっていく可能性があります。気管支粘膜が炎症をおこしているため、呼吸器の感染症をなんどもくり返し、きちんと治療しないと徐々に呼吸不全になってしまいます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 気管支が部分的に異常に広がり、そのために気管支の浄化作用が低下して痰がたまりやすくなります。さらに細菌などが繁殖しやすくなるため、気管支炎や肺炎を引きおこしやすくなります。また、拡張した部分には血管が増えます。これが血痰や喀血の原因となります。

 原因には先天性と後天性の二つがあります。先天性のものは原発性線毛機能不全症候群など気管支に生まれつきの異常があり、気道感染をくり返すために気管支拡張が生じるものです。この場合、しばしば慢性副鼻腔炎を合併します。

 後天性のものでは、幼児期に肺炎など重症の呼吸器感染症にかかったことがあると、気道が傷つく場合があり、その部分で感染をくり返すと、気管支が拡張することがあります。ほかに結核などの病気に引き続いて発生する場合があります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
痰の排出を促進する ★5 薬や薬以外の方法で痰の排出を促進することは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。薬以外の方法には体を傾けて痰をだしやすくする体位ドレナージ、胸を叩いて痰をだしやすくする胸部軽叩打法などがあります。とくに自力で痰をだせない幼児などでは積極的に行う必要があります。 根拠(1)~(3)
抗菌薬を用いる ★5 感染症を併発した場合、マクロライド系抗菌薬を使用することは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。また、症状が悪化した場合にはほかの抗菌薬を用いたり、非常に重症化した場合には入院して抗菌薬の点滴静脈注射を行います。 根拠(4)
気管支拡張薬を用いる ★3 喘息のようなせきがでる場合、気管支拡張薬を使用することは臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(5)
止血薬を使用する ★3 血痰を伴う場合、止血薬を使用することは臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(6)
気管支動脈塞栓術を行う ★3 喀血が続くときは、止血薬を使用し、出血にかかわっている動脈を探して、太ももからカテーテルを挿入して、血管をふさぐ気管支動脈塞栓術を行う場合もあります。これらのことは臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(7)~(11)
気管支の切除術を行う ★3 感染をなんどもくり返す場合には、病変が一部のみであることを確認し、切除後も肺機能を維持できるのであれば気管支の切除術を行うこともあります。 根拠(7)~(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

去痰薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ムコソルバン(塩酸アンブロキソール) ★4 信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(12)~(14)(15)(16)
ムコダイン(カルボシステイン) ★4

マクロライド系抗菌薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
エリスロシン(エリスロマイシン) ★5 エリスロマイシン、ロキシスロマイシンは、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。クラリスロマイシンも信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(4)(17)(18)(19)
クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン) ★4
ルリッド(ロキシスロマイシン) ★5

気管支拡張薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
テオドール/ユニコン/ユニフィル(テオフィリン徐放剤) ★3 この薬は臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(5)

急性増悪時に使用する抗菌薬(外来治療)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
クラビット(レボフロキサシン) ★5 感染症を併発し、高度な発熱、激しいせきなど症状が急激に悪化した場合は抗菌薬を用います。レボフロキサシン、塩酸シプロフロキサシンについては、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。そのほかの薬についても、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(20)(21)(22)(23)(24)(25)(26)(27)(28)
シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン) ★5
オゼックス/トスキサシン(トシル酸トスフロキサシン) ★3
スパラ(スパルフロキサシン) ★3
メガロシン(フレロキサシン) ★3
セフゾン(セフジニル) ★3
パンスポリンT(塩酸セフォチアムヘキセチル) ★3

急性増悪時に使用する抗菌薬(入院治療)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
パンスポリン(塩酸セフォチアム) ★3 呼吸不全をおこすほど症状が悪化した場合には入院し、抗菌薬の点滴静脈注射が必要となります。セフォペラゾンナトリウム・スルバクタム配合剤については、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。そのほかの薬についても、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(29)(30)(31)(32)(33)(34)(35)(36)(37)(38)
スルペラゾン(セフォペラゾンナトリウム・スルバクタム配合剤) ★5
イセパシン/エクサシン(硫酸イセパマイシン) ★3
モダシン(セフタジジム) ★3
チエナム(イミペネム・シラスタチンナトリウム配合剤) ★3
カルベニン(パニペネム・ベタミプロン配合剤) ★3
メロペン(メロペネム三水和物) ★3

血痰時に使用する止血薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アドナ(カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム) ★3 いずれの薬も臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(6)
トランサミン(トラネキサム酸) ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

痰の排出は有効な治療法

 この病気でみられる気管支の拡張は元に戻らないものです。拡張した気管支では浄化作用が低下するため、痰がたまりやすく、感染をおこしやすい環境となります。感染をくり返すと拡張部分がさらに広がりますから、感染の予防は非常に大切です。

 痰がたまっていると気道がふさがって呼吸が苦しくなるほか、感染もおこしやすくなります。そこで、気道から痰を排出することが大切です。

 胸部の叩打や身体を傾けて痰をだしやすくする体位ドレナージは、コツを身につければかなり有効な治療法となります。

 とくに自力で痰を排出できない幼い子どもでは積極的に行います。また、痰の排出を促す薬や気管支拡張薬を用いたネブライザー吸入(スペーサーとネブライザー吸入の項)も有効です。

抗菌薬は症状が落ち着いても継続

 感染症を併発した場合は抗菌薬、とくにマクロライド系の抗菌薬が有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。

 また、症状が落ち着いてからも2~3年にわたって抗菌薬を少量服用すると、肺機能の低下や肺炎などの重い合併症をきたす可能性が小さくなることが臨床研究によって示されています。

重症化したら抗菌薬の静脈注射も

 感染症の初期の治療が効果を示さず、重症化した場合には、内服の抗菌薬ではなく、点滴静脈注射を行います。発熱が続いたり、呼吸不全をおこすほど重症になれば入院治療が必要となります。

気管支拡張薬、止血薬も有効

 喘息のようなせきがでるときは気管支拡張薬を使用し、血痰がでているときは止血薬を使用して、症状を抑えることも理にかなっていると思われます。

カテーテル治療や手術が適応のことも

 喀血が続くときは太ももからカテーテルを挿入して、出血の原因箇所をふさぐ治療(気管支動脈塞栓術)を行うほか、気管支拡張部分が限られている場合は手術によって気管支を切除することもあります。

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行