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肥満の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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肥満とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 体脂肪が過剰に蓄積した状態を肥満といいます。

 肥満には皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満があります。皮下脂肪型肥満は皮膚の下に脂肪がつくもので、重い体重が関節や骨に負担をかけます。また、内臓脂肪型肥満は内臓に脂肪がつくため、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の原因になりうる“危険な肥満”です。内臓脂肪型肥満の場合は、できるだけ早期に食生活の改善や適度な運動を中心とした減量を開始することが必要ですが、その際かかっている病気やかつてかかった病気、すでに肥満が原因の病気がないかどうかを検査してもらい、医師とよく相談のうえ、無理のないプログラムを組むほうが安全で効果的です。

 肥満であるかどうかの判定には、体脂肪率を測定するBMI〔ボディ・マス・インデックス=体重(キログラム)÷身長(メートル)の2乗〕指数を用いる方法が一般的です。BMI25以上は肥満と判定されます。

 さらに、次にあげる病気を伴う肥満の場合、治療を行います。

① 2型糖尿病・耐糖能障害

②脂質異常症

 ③高血圧

 ④痛風・高尿酸血症

 ⑤冠動脈疾患:狭心症・心筋梗塞

 ⑥脳梗塞:脳塞栓症・一過性脳虚血発作

 ⑦睡眠時無呼吸症候群・ピックウィック症候群

 ⑧脂肪肝

 ⑨整形外科的疾患:変形性膝関節症・腰椎症

 ⑩月経異常

 このほか、臍の位置で撮影したCTにより内臓脂肪面積が100平方センチメートル以上ある場合は、健康障害をおこすリスクの高い肥満として治療を行います。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 肥満は、消費するエネルギーよりも摂取するエネルギーが多い状態が持続的に続き、体に余分なエネルギーが脂肪として蓄えられた結果おこるものです。おもな原因には次のようなものが考えられています。

 過食/さまざまな理由がありますが、最近の傾向はストレスによって過度に食事をしてしまうというものです。満腹感を覚えない、満腹してもさらに食べてしまうといった精神的なものも影響します。

 不規則な食事や早食いなど/決まった時間に食事をしない、早食いなどの原因によって消化が悪くなり、肥満することがあります。

 運動不足/運動をしないと摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、その結果余分なエネルギーを脂肪のかたちで体にため込むようになります。

 体質・遺伝/ホルモン異常や遺伝性の肥満の場合もあります。

病気の特徴

 厚生労働省の「平成25年国民健康・栄養調査」によると、日本では、男性の肥満者の割合は28.6パーセント、女性の肥満者の割合は20.3パーセントであると報告されています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
減量は標準体重ではなく、現状の5~7パーセント減少程度を当面の目標体重として設定する ★5 最初から理想的な体重を肥満治療の目標とするのではなく、5~7パーセント減少程度の実行可能な目標を設定すべきとされています。5パーセントを超える程度の体重の減少で、心疾患のリスクとなり得るもの(脂質異常や高血圧、耐糖能障害)を改善させることができるとされています。 根拠(1)
肥満であることの弊害を本人に理解させ、動機づけを行う ★3 治療についての動機づけを十分に行うことが、肥満治療を成功させる重要な要因であるという臨床研究があります。 根拠(2)
生活習慣の改善を行う 行動療法を行う ★5 肥満の患者さんは、肥満しやすい生活習慣をもっていることが多いので、生活実態、食事、運動について記録をとり、問題点を洗いだし、生活習慣の改善に取り組むという行動療法を行うことが有効です。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)
食事療法、運動療法を行う ★5 生活習慣の改善の一環として食事療法、運動療法は肥満の中心的な治療法で有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3)~(5)
超低エネルギー食療法を行う ★2 1日約400キロカロリー程度の超低エネルギー食は、体重を減らすのに有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によりわかっています。しかし、長期的には従来の低エネルギー食と効果は変わらないとする研究もあります。 根拠(2)(6)
薬物療法を行う ★2 いくつかの薬物が肥満の治療に有用であることが非常に信頼性の高い臨床研究により知られています。しかし、薬物治療はあくまでも補助的なもので、食事、運動療法が治療の中心となります。 根拠(2)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

肥満治療薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
サノレックス(マジンドール) ★2 マジンドールには食欲を低下させる効果があり、肥満の治療に有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。しかし、長い目で見ると薬が徐々に効かなくなってきたり、薬を中止するとリバウンドで体重が増えやすいといわれたりしていることなどから、薬物療法のみに頼る治療は慎重に検討すべきでしょう。(2) 根拠(7)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

動機づけが最大の課題

 実行することができさえすれば、効果が確実で安全な肥満の治療法は食事療法と運動療法です。しかし最大の問題は、本人が体重を減らしたいという動機づけができるかどうかにあります。

 残念ながら、肥満状態が続くと、生活習慣病やそれに引き続いて生ずる心臓や血管の病気などいかに重大な健康上の問題がおこるかを医師が説明しても、ほとんどの場合十分な動機づけにつながりません。どのような場面で、どのようなアドバイスをすれば動機づけできるのかは、患者さんと医師とのコミュニケーションが十分とれているということが前提となります。

 体重を減らしたいという強い気持ちさえもっていれば、どれくらいの期間でどれくらい体重を減らすのを目標としたらよいのか、食事内容と量、どのような運動が望ましいのかなどは、それぞれ個人個人に特有の状況(肥満度、性別、動脈硬化危険因子の有無、併発疾患の有無など)を考え合わせて、これまでにわかっているさまざまな研究結果に基づいてアドバイスすることが可能です。

肥満から脱する基本的な方法

 基本的には次のような対策をすることで、肥満を改善することになります。

(1)エネルギー計算を覚える。食品のエネルギー量を理解し、エネルギー制限が正しく実行できるようにします。

(2)規則的な食生活を守る。1日3食を守ることが減量につながっていきます。間食をしないようにします。

(3)食事内容を見直す。炭水化物や脂肪の多い食品を減らしていきます。

(4)ゆっくり食べる。早食いは過食の原因となります。

(5)運動をする。1日の決めた時間に持続できる運動をするようにします。

 肥満度の高い患者さんでは、食事の量を強制的に制限する目的で胃を小さくする手術が有効なことは実証されていますが、欧米と違ってわが国では、非常にまれにしか行われていません。

 薬物療法についても、現在まで、いろいろな薬が開発され、試用されていますが、短期的には減量効果があっても内服中止後のリバウンドによる体重増加や比較的重い副作用の問題が解決されておらず、薬物単独での治療は、安全性という意味で勧められるものではありません。

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根拠(参考文献)

  • (1)Douketis JD, Macie C, Thabane L, Williamson DF. Systematic review of long-term weight loss studies in obese adults: clinical significance and applicability to clinical practice. Int J Obes (Lond). 2005;29:1153.
  • (2)Clinical guidelines on the identification, evaluation, and treatment of overweight and obesity in adults: executive summary. Expert Panel on the Identification, Evaluation, and Treatment of Overweight in Adults. Am J Clin Nutr. 1998;68:899-917.
  • (3)Tsai AG, Wadden TA. The evolution of very-low-calorie diets: an update and meta-analysis. Obesity (Silver Spring). 2006; 14: 1283.
  • (4)Weinstock RS, Dai H, Wadden TA. Diet and exercise in the treatment of obesity: effects of 3 interventions on insulin resistance. Arch Intern Med. 1998;158:2477-2483.
  • (5)Metz JA, Stern JS, Kris-Etherton P, et al. A randomized trial of improved weight loss with a prepared meal plan in overweight and obese patients: impact on cardiovascular risk reduction. Arch Intern Med. 2000;160:2150-2158.
  • (6)Apfelbaum M, Vague P, Ziegler O, et al. Long-term maintenance of weight loss after a very-low-calorie diet: a randomized blinded trial of the efficacy and tolerability of sibutramine. Am J Med. 1999;106:179-184.
  • (7)Walker BR, Ballard IM, Gold JA. A multicentre study comparing mazindol and placebo in obese patients. J Int Med Res. 1977;5:85-90.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)