全身性エリテマトーデスの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
全身性エリテマトーデスとは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は自分の細胞や組織に対して抗体ができ、多くの臓器で血管炎をおこす自己免疫性の病気です。
もっとも多くみられる症状は関節炎ですが、発病の初期には、発熱、全身の倦怠感、食欲不振、体重減少などの症状が現れます。特徴的なのは、左右の頬に赤い斑点が広がり鼻の上でつながって蝶の形にみえる蝶型紅斑が現れることです。それと同時に、手のひら、胸、足などの皮膚にも赤い斑点が現れることがあります。
寒い場所で手の指が白くなって痛みを伴い、そのあとで赤くなるというレイノー現象もしばしば認められます。ループス腎炎、胸膜炎や心外膜炎、血液の異常(赤血球や白血球、血小板の減少)などを合併することもあります。
病気に気づかず、放置しておくと生命にかかわりかねないこともありますが、適切な治療を続ければ、十分に一般の生活を送ることができます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
自分の体の細胞や組織などに対して免疫機能が攻撃を加えるためにおこる病気です。ただ、なぜ自分の体の一部を外敵と見なしてしまうかの原因はくわしくはわかっていません。
遺伝的素因の一致率は、二卵性双生児での3パーセントに対して、一卵性双生児では25パーセントと高く、いまのところ、この遺伝的な要素とともに、ウイルスに感染したり、紫外線にさらされたりするといった後天的、外的要因が加わって発症するものと考えられています。
病気の特徴
男性に比べて女性の患者さんは9倍と、女性が圧倒的に多く、しかも20歳~40歳といった若い年代層で発病することが多いのが特徴です。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
軽症例では非ステロイド抗炎症薬を用いる | ★2 | 関節炎、皮疹、発熱だけの軽症例では、非ステロイド抗炎症薬が、これらの症状をある程度抑えると考えられ、一般的に行われています。 根拠(1) | |
中等症から重症例では副腎皮質ステロイド薬と胃粘膜保護薬を用いる | ★2 | 副腎皮質ステロイド薬により、重症のSLE患者さんの症状が改善するという臨床研究がありますが、胃粘膜保護薬を併用することで副作用が軽減するという臨床研究は見あたりません。専門家の意見や経験から支持されている療法です。 根拠(2) | |
腎炎を併発している場合は抗血小板薬を追加して用いる | ★1 | アスピリンを含めた抗血小板薬を用いることによって、ループス腎炎の症状は改善されないことを示す臨床研究があります。 根拠(3) | |
けいれんを伴う場合は抗てんかん薬を追加して用いる | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。 | |
精神症状を伴う場合は向精神薬を追加して用いる | ★2 | 臨床的な観察に基づいて有効な場合が多いとされています。 | |
抑うつが強い場合は抗うつ薬を追加して用いる | ★2 | 臨床的な観察に基づいて有効な場合が多いとされています。 | |
ループス腎炎などを合併した場合は、ステロイドパルス療法や免疫抑制薬を用いる | ★5 | ステロイドパルス療法(点滴静脈注射によるステロイドの大量投与)およびシクロフォスファミドなどの免疫抑制薬によって、ループス腎炎の症状が改善されることを示す非常に信頼性の高い臨床研究があります。それらの研究報告によると、ステロイドパルス療法の効果は免疫抑制薬より劣るようです。 根拠(4)(5) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
非ステロイド抗炎症薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) | ★2 | アスピリンやイブプロフェンと同様、軽症の場合では、炎症や発熱を抑えると考えられ、一般的に用いられています。 |
副腎皮質ステロイド薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
プレドニン(プレドニゾロン) | ★3 | 副腎皮質ステロイド薬により重症SLEの患者さんの症状が改善されるという臨床研究があります。 根拠(6)(7) |
胃粘膜保護薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
セルベックス(テプレノン) | ★2 | 胃粘膜の保護を目的に副腎皮質ステロイド薬と同時に処方され、専門家の意見で支持されています。 |
抗血小板薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
バイアスピリン(アスピリン) | ★1 | アスピリンを含めた抗血小板薬を用いても、ループス腎炎の症状は改善されないことを示す臨床研究があります。 根拠(3) |
抗てんかん薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
デパケン(バルプロ酸ナトリウム) | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。けいれんを伴う場合に使用します。 |
向精神薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ウインタミン/コントミン(塩酸クロルプロマジン) | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。精神症状を伴う場合に使用します。 | |
セレネース(ハロペリドール) | ★2 |
抗うつ薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
トリプタノール(塩酸アミトリプチリン) | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。抑うつ状態が強い場合に使用します。 | |
デプロメール/ルボックス(マレイン酸フルボキサミン) | ★2 | ||
テトラミド(塩酸ミアンセリン) | ★2 |
ステロイドパルス療法
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ソル・メドロール(コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム) | ★5 | 症状が重いタイプの患者さんで有効なことが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(8)(9) |
免疫抑制薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
エンドキサンP(シクロホスファミド) | ★5 | シクロフォスファミドとシクロスポリンは、ループス腎炎の症状を改善することを示す非常に信頼性の高い臨床研究があります。また、ミゾリビンは専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(4)(10) | |
ブレディニン(ミゾリビン) | ★2 | ||
ネオーラル/サンディミュン(シクロスポリン) | ★5 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
症状の引きがねとなる環境要因を避ける
SLEは現在のところ、遺伝的な要素に加えて、ウイルスの感染や紫外線などの後天的、外的要因が加わって発病するものと考えられています。まず、予防対策としてできることは、そうした外的な要因を避けることです。
紫外線にさらされると皮膚の発赤を悪化させますし、寒冷な環境はレイノー現象を引きおこしやすいので、皮膚が直接そうした刺激を受けないようにすることが必要です。また、関節などに炎症がある場合は、安静にしたほうがいいでしょう。
副腎皮質ステロイド薬は使い方で期待する効果が違う
日常生活の予防策を別にすれば、SLEの治療薬は、炎症を抑える薬と免疫異常を抑える免疫抑制薬に大別されます。副腎皮質ステロイド薬は、通常の量では抗炎症作用を期待して用います。点滴静脈注射による大量投与(ステロイドパルス療法)では免疫抑制効果を期待して用います。いずれの使用法も、有効なことが実証されています。
軽症の場合は非ステロイド抗炎症薬を使用
軽度の関節痛や微熱の場合は、非ステロイド抗炎症薬のみで対応することも少なくありません。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬でおこる副作用の可能性を考えると、軽症の患者さんでは、できるだけ非ステロイド抗炎症薬で対処するのは理にかなっています。
しかし、腎炎、赤血球や白血球、血小板の減少といった重症の血液の異常など、生命に直接かかわる臓器の異常をきたした場合には、副腎皮質ステロイド薬のステロイドパルス療法や免疫抑制薬を選択します。
治療法の進歩で予後は良好に
治療法の進歩により、SLEの予後はかなりよくなってきました。また、理由はよくわかりませんが、数十年前と比べて、軽症の患者さんが多くなってきたように思われます。
しかし、根本的な原因がいまだ解明されておらず、したがって原因を完全に取り除く治療法はありませんので、医師とよく相談しながら、病気を継続的にコントロールする必要があります。
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根拠(参考文献)
- (1) Wasner CK, Fries JF. Treatment decisions in systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum. 1980;23:283-286.
- (2) Denburg SD, Carbotte RM, Denburg JA. Corticosteroids and neuropsychological functioning in patients with systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum. 1994;37:1311-1320.
- (3) Pierucci A, Simonetti BM, Pecci G, et al. Improvement of renal function with selective thromboxane antagonism in lupus nephritis. N Engl J Med. 1989;320:421-425.
- (4) Bansal VK, Beto JA. Treatment of lupus nephritis: A meta-analysis of clinical trials. Am J Kidney Dis. 1997;29:193-199.
- (5) Barron KS, Person DA, Brewer EJ Jr, et al. Pulse methylprednisolone therapy in diffuse proliferative lupus nephritis. J Pediatr. 1982;101:137-141.
- (6) Barnett EV, Dornfeld L, Lee DB, et al. Longterm survival of lupus nephritis patients treated with azathioprine and prednisone. J Rheumatol. 1978;5:275-287.
- (7) Kaplan D. Systemic lupus erythematosus--corticosteroids. Clin Rheum Dis. 1983;9:601-616.
- (8) Sesso R, Monteiro M, Sato E, A controlled trial of pulse cyclophosphamide versus pulse methylprednisolone in severe lupus nephritis. Lupus. 1994;3:107-112.
- (9) Illei GG, Austin HA, Crane M, et al. Combination therapy with pulse cyclophosphamide plus pulse methylprednisolone improves long-term renal outcome without adding toxicity in patients with lupus nephritis. Ann Intern Med. 2001;135:248-257.
- (10) Dammacco F, Della Casa Alberighi O, Ferraccioli G, et al. Cyclosporine-A plus steroids versus steroids alone in the 12-month treatment of systemic lupus erythematosus. Int J Clin Lab Res. 2000;30:67-73.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行