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未破裂脳動脈瘤の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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未破裂脳動脈瘤とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 動脈の一部がこぶ状に膨れている状態を動脈瘤といいます。未破裂脳動脈瘤とは、脳に動脈瘤があるもののまだ破裂していない状態にあるものです。未破裂脳動脈瘤があっても、痛みや違和感などの症状は、とくにありません。CT、MRIなど画像診断技術の進歩で、以前は見つからなかった未破裂脳動脈瘤が、多数発見されるようになりました。

 脳動脈瘤はいったん破裂すると、くも膜下出血となり、初回の出血で約20パーセントが死亡する怖い病気です。ただし、脳動脈瘤があっても破裂する確率は必ずしも高くないため、治療の安全性との関係から、積極的に治療すべきかどうかについて議論があり、統一した見解はありません。

 医療施設によって対応は異なりますが、動脈瘤の直径が5~10ミリメートルを超えた場合は積極的な治療の対象とし、これより小さなものは経過を観察するにとどめるのが現在のところ一般的のようです。ただし、動脈瘤が大きくなって周囲の脳や神経を圧迫している場合は、すぐに積極的な治療が必要です。神経が圧迫されると、物が二重に見えたり、視力が低下したりします。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 脳血管の分岐部には、もともと中膜が欠損していて血管壁の弱い部分があります。この部分に血圧と血流の負担が長期間加わることによって、動脈瘤ができると考えられています。したがって、脳動脈瘤ができやすいのは高血圧の人です。このほか、脳動脈硬化、細菌感染、外傷、喫煙などが脳動脈瘤と関連があるとされています。

病気の特徴

 未破裂脳動脈瘤は成人の数パーセントに見つかるといわれています。発症年齢は50歳~60歳代がもっとも多くなっています。

 従来、未破裂脳動脈瘤は年間1~2パーセントの確率で破裂すると考えられていましたが、最近では破裂の確率はもっと低いという報告があり、現在、日本人における破裂率の調査が全国的に行われています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
脳動脈瘤頸部クリッピング術を行う ★2 破裂を予防するための手術に対して有効性を示した臨床研究は見あたりません。未破裂脳動脈瘤は、破裂してくも膜下出血をおこす可能性があります。くも膜下出血は死亡率が高く、また死亡しなくても重い後遺症を残すことがあります。破裂を予防する方法として、脳動脈瘤頸部クリッピング術と脳血管内手術による塞栓術があります。ただし、これらの手術にもまったく危険が伴わないわけではありません。動脈瘤を放置して破裂する危険性と手術による危険性をよく考えて、治療方針を決定する必要があります。予防的な手術を行うかどうかを決定するうえで、もっとも重要なことは動脈瘤の場所や大きさから考えた安全性です。十分に安全な処置ができると判断される場合に限り行われるべきでしょう。一方、手術自体の危険性が高い脳動脈瘤の場合は、たとえ破裂する可能性があっても放置するほうがむしろ安全といえるかもしれません。 根拠(1)
脳血管内手術による塞栓術を行う ★2 いったん破裂した動脈瘤については、脳血管内手術のほうが脳動脈瘤頸部クリッピング術よりもよい結果をもたらすといわれていますが、未破裂脳動脈瘤での優劣は不明です。どのようなタイプの未破裂脳動脈瘤に対して脳血管内手術を行ったらよいかについての臨床研究が、現在積極的に行われています。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

積極的な治療を行うかどうかの評価は定まっていない

 脳ドックなどで、未破裂脳動脈瘤が見つかった場合にどうすべきか。治療の安全性との関係から、積極的に治療を行うかどうかについては、大多数の専門家が納得するような研究結果がいまだ得られておらず、判断が難しい場合が少なくありません。

大きさや形、場所などに応じて手術の適応が決まる

 一般的には、動脈瘤の大きさが直径20ミリ以上ある、血管壁の一部が脆弱なために動脈瘤がいびつな形をしている、経過観察をしたら以前と比べて大きくなっていた、手術が難しくない場所にある、などの条件を満たしている場合には、手術が勧められます。また、20~5ミリの場合は判断が分かれるところです。

直径5ミリメートル以下なら手術しないことも

 一方、直径5ミリ未満で、経過観察をしても大きさや形が変わらない場合には、あわてて手術を行わなくてもいいと思われます。

数年後から、臨床研究の結果が報告される見通し

 未破裂脳動脈瘤については、現在、わが国の脳外科医を含め、世界的に活発な臨床研究が行われています。放置した場合、はたしてどれくらいの確率で破裂するのか、また、どのような形の動脈瘤やどのような特徴をもっている人で破裂しやすいのか、さらには脳血管内手術と脳動脈瘤頸部クリッピング術のどちらの方法がより好ましい結果をもたらすのかなど、多くのテーマに関する研究結果が、今後順次発表されるはずです。

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根拠(参考文献)

出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行