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統合失調症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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統合失調症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 統合失調症は、最近まで精神分裂病と呼ばれていた病気です。以前の病名では、精神そのものが分裂してしまうとの誤解や偏見を生じやすいことから、日本精神神経学会が2002年8月に名称を変更しました。新しい病名は、この病気がいくつかの異なった病気の集まりと考えられることや、一時的に調子を崩しているだけで回復の可能性があるといった、この病気の性質をふまえ、精神機能の統合が乱れている状態であることを表しています。

 統合失調症は脳の働きが障害されるためにおこるもので、20歳前後に発病し、慢性に進行します。発病直後の急性期には、実在しない人の声が聞こえる幻聴、ありえない現象を信じる妄想、支離滅裂な思考など特徴的な症状が現れます。周囲の働きかけに反応しなくなったり、逆に理由なく興奮することもあります。

 自閉的になってひきこもり、気力が減退して身辺の清潔を保てなくなるなど陰性症状と呼ばれる状態が、発病後しばらく続きます。周囲の人からコミュニケーションがうまくとれないと思われる人に、幻聴や自閉的な傾向がでてきて統合失調症と診断されることが少なくありません。

 発病してから5年ほどは幻聴や妄想、興奮状態などの激しい症状がでますが、発病から10年程度で次第に落ち着いてきます。ただし、再発しやすいので注意が必要です。なお、本人は病気を自覚していません。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 原因は不明ですが、脳の機能異常と心理的なストレスなどが相互に関係していると考えられています。遺伝的な素因が関係している場合もありますが、親族にこの病気の患者さんがいなくても発病することがあり、決定的な要因ではありません。発育段階における環境要因も関係するとされています。また、家族関係による強いストレスが、発病を促進するのではないかとの指摘もあります。

病気の特徴

 この病気で治療を受けている人が全国に約67万人います。一生のうちにこの病気にかかる人は、およそ100人に1人とされています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗精神病薬を用いる ★5 統合失調症に対するもっとも一般的な治療で、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)~(3)
精神療法を行う ★5 何種類かある精神療法のなかで、ものの見方を再検討し、それに基づいて行動を変える認知・行動療法と、家族関係をよりよい方向に変化させるための介入は、症状の改善、再発の防止などに効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし、確実に効果があるかどうかはさらなる研究が必要とする報告もあります。 根拠(4)~(7)
認知リハビリテーションを行う ★2 近年、脳機能障害の治療法として、聴覚や視覚など外界からの刺激を認知して適切に反応する機能を回復させるリハビリテーションが注目されています。統合失調症に対しては、現在のところ臨床研究があまり行われていませんが、専門家の意見や経験から支持されています。今後、研究の進展が望まれます。 根拠(8)
電撃療法を行う ★2 信頼性の高い臨床研究で、短期では効果を認めるが、数カ月以降では効果が認められないと報告されており、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(9)~(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

フェノチアジン系

主に使われる薬 評価 評価のポイント
コントミン/ウインタミン(塩酸クロルプロマジン) ★5 もっとも知られた治療法であり、非常に信頼性の高い臨床研究によって塩酸クロルプロマジンの効果が確認されています。しかし、副作用として振戦(ふるえ)、不随意運動などをおこすパーキンソン症候群、体重増加などが認められるので、注意が必要です。 根拠(12)

ブチロフェノン系

主に使われる薬 評価 評価のポイント
セレネース(ハロペリドール) ★5 ハロペリドールは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。しかし、筋肉の一部がひきつってしまうジストニア、じっとしていられないアカシジアなどの不随意運動や、体がこわばったり、ふるえやよだれがでたりするパーキンソン症候群の副作用があるため、ほかの選択肢がない場合に用いるのが一般的です。 根拠(13)

ベンズアミド系

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ドグマチール/アビリット/ミラドール(スルピリド) ★4 スルピリドは信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。しかし、質の高いさらなる研究が必要と思われます。 根拠(14)
バルネチール(塩酸スルトプリド) ★2 塩酸スルトプリドは専門家の意見や経験から支持されています。ほかの選択肢がない場合に考慮されます。
エミレース(ネモナプリド) ★3 臨床研究によってネモナプリドの効果が確認されています。ほかの選択肢がない場合に考慮されます。 根拠(15)

その他

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ホーリット(オキシペルチン) ★4 信頼性の高い臨床研究によってカルピプラミンの効果が確認されています。ほかの選択肢がない場合に考慮されます。 根拠(16)(17)
デフェクトン(カルピプラミン) ★4 信頼性の高い臨床研究によってオキシペルチンの効果が確認されています。ほかの選択肢がない場合に考慮されます。 根拠(18)
クロフェクトン(塩酸クロカプラミン) ★3 塩酸クロカプラミンはハロペリドールと比較し、同等かやや効果が高いことが、臨床研究によって確認されています。 根拠(19)
クレミン(塩酸モサプラミン) ★3 臨床研究によって塩酸モサプラミンの効果が確認されています。 根拠(20)

非定型抗精神病薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
リスパダール(リスペリドン) ★4 リスペリドンは信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。ハロペリドールと比較して、症状をより改善し、副作用としてのパーキンソン症候群を中心とする錐体外路症状(筋肉の緊張を調節する神経経路が障害される)はより少ないと報告されています。しかし、体重増加はハロペリドールよりも多くなっています。 根拠(21)
ルーラン(塩酸ペロスピロン水和物) ★3 塩酸ペロスピロン水和物は臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(22)
ジプレキサ(オランザピン) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によってオランザピンの効果が確認されています。副作用としての錐体外路症状はハロペリドールより少ないですが、体重増加は多いことも報告されています。 根拠(23)(24)
セロクエル(フマル酸クエチアピン) ★5 プラセボ(偽薬)と比較する非常に信頼性の高い臨床研究によって、フマル酸クエチアピンの効果が確認されています。また、ハロペリドールよりやや効果が高いといわれています。 根拠(25)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

精神療法は個々の状況に応じた手法で

 統合失調症は脳の働きが障害されるためにおこるもので、20歳前後に発病し、慢性に進行します。周囲の人からなんとなくコミュニケーションがうまくとれないと思われる人に、幻聴や自閉的な傾向がでてきて統合失調症と診断されることが少なくありません。

 治療には、精神療法と薬物療法があります。精神療法は精神科医の専門性がもっとも発揮される領域で、統合失調症に有効との研究結果が報告されています。精神療法にはいくつかの手法があり、一人ひとりの患者さんの症状や置かれている状況に合わせた方法が採用されます。

薬は有効性と副作用を考慮して選ぶ

 しかし、治療の主流は薬物療法といえます。コントミン/ウインタミン(塩酸クロルプロマジン)や、セレネース(ハロペリドール)、リスパダール(リスペリドン)、ジプレキサ(オランザピン)など、非常に信頼性の高い臨床研究で、高い有効性が確認されている抗精神病薬が多数開発されてきました。しかし、これらには、パーキンソン症候群、体重増加などの副作用が、多かれ少なかれおこります。したがって、それぞれの患者さんにおける有効性と副作用の強さを考慮して、もっとも望ましい薬を使っていくことになります。

必ず精神科医の治療を

 薬物療法では、一般医では使いこなせないような量と種類の抗精神病薬が必要になります。精神療法だけでなく薬物療法においても、必ず精神科医の治療を受けることが大切です。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行