子宮内膜症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
子宮内膜症とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
子宮内膜症は、子宮の内側にある粘膜(子宮内膜)と同じような組織が、子宮の内側以外のいろいろな場所で増殖する病気です。
特徴的な3症状は強い月経痛(下腹部痛)、性交痛、不妊といわれています。このほかに、腰痛や下痢、便秘、排便痛などもみられます。痛みが激しい場合は、通常の生活ができず、寝込んでしまうこともあります。反対に、まったく自覚症状のない人もいます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
組織の増殖がよくみられる場所は、直腸と子宮のすき間(ダグラス窩)、膀胱と子宮の間(膀胱子宮窩)のほか、卵巣、卵管、子宮筋層、骨盤腹膜などです。また、肺や直腸などに発生する場合もあります。
子宮内膜は女性ホルモンによって一定の周期ではがれ、月経をおこします。異常に増殖した組織も、子宮内膜にできる正常な組織と同じ周期ではがれ落ちるため、月経がくるたびに子宮の内側でも、外側でも出血がおこるようになります。これが痛みの原因です。さらに、子宮の外側の血液には排出できる出口がないためそこにたまっていき、徐々に周りの組織と癒着をおこすことになります。この場合、排便時などにひどい痛みを伴います。
卵巣に発症した場合は、血液がチョコレートのような茶色いかたまり(のう腫)になるため、「チョコレートのう腫」と呼ばれます。子宮の筋層内に発症した場合は「子宮腺筋症」と呼ばれます。
病気の特徴
初潮前後では稀で、妊娠中やホルモン療法をしていない閉経後の女性をのぞく、月経のある年代の女性におこる病気です。30歳代に多くみられ、また、不妊に悩むカップルの原因の25パーセントが子宮内膜症によるものといわれています。
腹腔鏡にて腹腔内を直接みたり、組織診をしないと確定診断はつかないのですが、多くの場合、臨床症状により診断します。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
鎮痛薬により痛みをやわらげる | ★2 | 大規模試験で有効であることを証明した研究はありませんが、手に入りやすく、安価なため、最初に選択される治療です。 軽症から中等度の場合、効果のある治療ですが、効果が乏しい患者さんもいます。 根拠(1)(2)(3)(4) | |
ホルモン療法を行う | ★5 | ホルモン療法とは、各種ホルモン薬によって、月経をおこすとともに子宮内膜症とも深い関連のある女性ホルモン(エストロゲン)の働きを抑え症状を改善させる療法です。用いられるホルモン薬には、低用量ピル、ジェノゲスト、中用量ピル、GnRHアゴニスト、ダナゾールなどがあります。いずれの薬も非常に信頼性の高い臨床研究によって、痛みが軽減することが確認されています。ただし、不妊症を合併している場合、不妊はホルモン薬では改善しないことも確認されています。 根拠(1)(5)~(9) | |
ホルモン療法で効果がない、またはホルモン療法が使えない場合、手術で部分切除をしたり癒着をはがす | ★5 | 通常は腹腔鏡によって、子宮や卵巣などの病気の部分を切除したり癒着をはがす手術が行われます。非常に信頼性の高い臨床研究で、この手術は痛みと不妊のどちらにも効果があると確認されていますが、不妊については、手術をしても改善しないという結果を示した研究もあります。 また、チョコレート嚢胞がある場合、疼痛の原因となったり、卵巣茎捻転や破裂、不妊、悪性化のリスク(40歳以上、10センチ以上)があり、目的に応じて術式を選択します。 根拠(1)(8)(10)(11) | |
部分切除で効果がみられない場合、根治術として子宮や卵巣を摘出する手術を検討する | ★3 | 子宮を摘出するときに卵巣を残すと痛みの再発が多いという臨床研究がありますが、根拠は弱いものです。症状が強くて、ホルモン療法や部分切除では改善しない場合、さらに出産を希望しない場合、最終的に考慮される治療法といえます。 根拠(12) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
鎮痛薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム水和物) | ★2 | 鎮痛効果は「プラセボ(偽薬)に比べて変わらなかった」という報告と、また、「どの鎮痛薬が他に比べてよりよく効くという結果が出なかった」という報告があり、効果を証明する大規模臨床研究はありません。しかし安価で手に入りやすく、ホルモン療法のような副作用も少ないため、臨床現場ではホルモン療法を始める前に、治療の第一選択として勧められています。実際多くの女性が、医療機関を受診する前やホルモン療法を始める前に鎮痛薬を内服しています。20パーセントほどの女性で効果がないともいわれています。 根拠(4) | |
ブルフェン(イブプロフェン) | ★2 | ||
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) | ★2 | ||
ポンタール(メフェナム酸) | ★2 | ||
カロナール(アセトアミノフェン) | ★2 |
ホルモン療法薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
一相性 第一世代ピル | オーソM-21/ルナベル配合錠(ノルエチステロン・エチニルエストラジオール複合剤) | ★5 | 低用量ピルは、エストロゲンとプロゲステロンの合剤ですが、これらの女性ホルモンを補充して、体を妊娠中と同じような状態にすることで月経を抑えます。非常に信頼性の高い臨床研究によって、痛みが軽減することが確認されています。副作用としては吐き気や乳房の張りなどがありますが、後述のGnRHアゴニストによるホルモン療法に比べて副作用が少なく、長期使用可能なため、鎮痛薬が効かない場合や、避妊希望の場合、低用量ピルが勧められます。 根拠(5)(6) |
一相性 第四世代ピル | ヤーズ配合錠(ドロスピレノン・エチニルエストラジオール ベータデクス錠) | ★5 | |
三相性 第一世代ピル | オーソ777-21/シンフェーズT28(ノルエチステロン・エチニルエストラジオール複合剤) | ★5 | |
三相性 第二世代ピル | トリキュラー21・28/アンジュ21・28(レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール複合剤) | ★5 | |
三相性 第三世代ピル | マーベロン21・28(デソゲストレル・エチニルエストラジオール複合剤) | ★5 | |
第四世代黄体ホルモン | ディナゲスト(ジェノゲスト) | ★5 | ジェノゲストは、プロゲステロン(黄体ホルモン)に似せて人工的に作ったプロゲスチンという合成薬です。男性ホルモン作用はなく、内膜組織の増殖を抑える、性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌を抑えて卵巣ホルモン分泌を抑制するなどの効果があり、ほかのプロゲスチンよりも内膜症治療に適しています。 コストを抑えたい場合や、後述のGnRHアゴニストによる骨密度減少のリスクを避けたい場合、より副作用の少ないプロゲスチンが勧められます。低用量ピルでリスクのあがる血栓症のリスクも少ないため、40歳以上の場合、鎮痛薬の次に選択しやすい薬です。 根拠(3) |
GnRHアゴニスト | スプレキュア(MP注射)(点鼻液)(酢酸ブセレリン) | ★5 | これらの薬はGnRHアゴニストと呼ばれるもので、下垂体からでる卵胞刺激ホルモンを抑えることで卵巣からでるエストロゲンの働きを抑えます。いわば閉経のような状態をつくる薬です。非常に信頼性の高い臨床研究によって、痛みが軽減することが確認されています。ただし、副作用として、エストロゲン低下による更年期障害のような症状(ほてり、のぼせ、発汗、骨量減少、不眠、うつなど)がおこりやすいとしています。 根拠(8)(9) |
ナサニール(酢酸ナファレリン) | ★5 | ||
リュープリン(リュープロレリン酢酸塩) | ★5 | ||
ゾラデックス(ゴセレリン酢酸塩) | ★5 | ||
抗エストロゲン薬 | ボンゾール(ダナゾール) | ★5 | ダナゾールは、卵巣の働きを抑えて月経を止める、やはり閉経のような状態をつくる薬です。非常に信頼性の高い臨床研究で痛みが軽減することが確認されています。副作用としては、更年期障害のような症状(ほてり、のぼせ、発汗、肩こり、頭痛、精神的な憂うつ感や不眠など)や肝機能障害、体重増加、浮腫、にきび、血栓症がおこりやすいこともわかっています。 根拠(8) |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まずは、鎮痛薬を内服
子宮内膜症は良性の病気です。月経痛や腰痛、排便痛、性交痛などの症状が強くなく、不妊の原因になっていない場合には、疼痛管理が治療の中心となります。鎮痛薬(非ステロイド消炎鎮痛薬)を使用し、経過観察を行います。
鎮痛薬を内服しても症状が強い場合は低用量ピルなどを内服
20パーセントの子宮内膜症患者では鎮痛剤のみで痛みが改善しないといわれています。低用量ピルの内服が次の選択薬として勧められます。鎮痛薬、低用量ピルを内服しても3~6カ月症状が続く場合は、ジェノゲストの内服が勧められますが、異常出血、妊娠が疑われる場合には使えません。
手術による部分切除では、術後再発して手術をくり返すことがありますが、そのリスクを減らすためにも、妊娠を目的としない場合には低用量ピルやジェノゲストなど長期間投与可能な薬剤を組み合わせて、子宮内膜症の再発を予防することが必要でしょう。これらの内服で再発のリスクを劇的に減らすことが示されています。(13)
そのほかのホルモン薬療法は副作用を考慮して続ける
GnRHアゴニスト、ダナゾールなどのホルモン療法を行います。
副作用として、更年期障害のような症状(ほてり、のぼせ、発汗、肩こり、頭痛、精神的な憂うつ感や不眠など)や肝機能障害がおこることもあります。一度開始した治療でも、副作用と思われる症状が現れたときには、かかっている婦人科医に症状をよく説明して相談のうえ、継続するかどうか決めるとよいでしょう。
薬物療法では効果がない、あるいはホルモン療法が使えない場合は腹腔鏡手術を行う
薬物療法(鎮痛薬、低用量ピル、ジェノゲスト、そのほかのホルモン療法など)では疼痛のコントロールが難しい場合、あるいはホルモン療法に対する禁忌がある、不妊があるといった場合には、腹腔鏡により病巣を切除、焼灼、癒着剥離をすることがあります。病巣切除術、焼灼術ともに症状を改善する効果に差はないとされています。(14)
チョコレート嚢胞に対しては、穿刺吸引や焼灼術に比較して、嚢胞摘出術のほうが疼痛改善効果が高く、再発率も低いと考えられています。ただし、将来の妊娠を視野にいれた場合、正常卵巣組織へのダメージによる卵巣予備能低下の危険性を考慮する必要があります。
出産を希望しない、または閉経が近い場合はIUD(子宮内避妊器具)や根治術も考慮
出産を希望しない場合、または、閉経に近い年齢の場合は、保険適用はありませんが、LNG-IUS(ミレーナ)という、レボノルゲストレル徐放型子宮内避妊器具や、子宮摘出、卵巣摘出といった根治術も考慮します。(1)
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根拠(参考文献)
- (1)日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2014. 日本産科婦人科学会事務局. 2014.
- (2)Robert S Schenken, MD. Overview of the treatment of endometriosis. Uptodate
- (3)Dunselman, G. A. J., et al. ESHRE guideline: management of women with endometriosis. Human Reproduction 29.3 (2014): 400-412.
- (4)Allen, Claire, et al. Nonsteroidal anti-inflammatory drugs for pain in women with endometriosis. Cochrane Database Syst Rev 2 (2009).
- (5)Kennedy S, Bergqvist A, Chapron C, et al; ESHRE Special Interest Group for Endometriosis and En- dometrium Guideline Development Group: ESHRE guideline for the diagnosis and treatment of endometriosis. Hum Reprod. 2005; 20: 2698-2704 (II)
- (6)Harada T, Momoeda M, Taketani Y, et al. Low-dose oral contraceptive pill for dysmenorrhea associated with endometriosis: a placebo-controlled, double-blind, randomized trial. Fertil Steril. 2008; 90:1583-88.
- (7)Harada T, Momoeda M, Taketani Y, et al. Dienogest is as effective as intranasal buserelin acetate for the relief of pain symptoms associated with endometriosisa randomized, double-blind, multicenter, controlled trial. Fertil Steril. 2008 (I)
- (8)Farquhar C. Endometriosis. Clin Evid. 2002;8:1864-1874.
- (9)Brown J, Pan A, Hart RJ. Gonadotrophin-releasing hormone analogues for pain associated with endometriosis. Cochrane Database Syst Rev. 2010
- (10)Chapron C, Vercellini P, Barakat H, et al. Management of ovarian endometriomas. Hum Reprod Update. 2002; 591-597 (III)
- (11)日本産科婦人科学会編. 子宮内膜症取扱い規約 第2部 治療編・診療編 第 2 版, 東京,金原出版, 2010.(III)
- (12)Shakiba K, Bena JF, McGill KM, et al. Surgical treatment of endometriosis: a 7-year follow-up on the requirement for further surgery. Obstet Gynecol. 2008; 111:1285.
- (13)Vercellini P, DE Matteis S, Somigliana E et al. Long-term adjuvant therapy for the prevention of postoperative endometrioma recurrence: a systematic review and meta-analysis. Acta Obstet Gynecol Scand. 2013; 92: 8-16 (I)
- (14)Wright J, Lotfallah H, Jones K, et al. A randomized trial of excision versus ablation for mild endometriosis. Fertil Steril. 2005; 83: 1830-1836 (I)
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)