カンジダ膣炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
カンジダ膣炎とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
カンジダという真菌(カビの一種)が原因となって炎症がおきる病気で、外陰部に感染したものが外陰カンジダ症、膣内に感染したものがカンジダ膣炎です。女性の場合、酒かす状の白いボロボロしたおりものが増え、膣や外陰部に激しいかゆみが生じたり、ただれて痛みを伴ったりします。男性の場合は、亀頭包皮炎が主な症状で、かゆみがでることがありますが、無症状のこともよくあります。亀頭包皮部の皮膚に炎症がある場合、排尿時に痛みを感じたりします。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
カンジダ菌は、健康な人の口や膣に常にいる常在菌で、外陰部に付着したり、膣内に入ったりしただけでは炎症をおこしません。炎症をおこすのは抗菌薬を服用しているときがもっとも多く、それと極端に疲れて体力が落ちた場合、たとえば月経の直後や妊娠中、糖尿病や消耗性疾患を患っているとき、化学療法や免疫抑制剤投与、放射線療法を行っているときなどに、体内のカンジダ菌が増殖して発病します。また、通気性の悪い下着や不適切な自己洗浄などでも発病します。
また、性行為感染症ではありませんが、性交渉によって女性から男性に感染することもあります。男性から女性への感染頻度は低いとされています。(1)
病気の特徴
ある統計によると、妊娠していない女性の15~20パーセントに、妊娠中では20~40パーセントにカンジダ膣炎があるとされています。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
不特定多数との性交渉は避ける | ★2 | 通常、カンジダ膣炎は、性行為感染症ではないのですが、性交渉に関連していることもあるとされています。 | |
抗真菌薬を用いる | ★5 | クロトリマゾール、硝酸ミコナゾールといった抗真菌薬の外用薬を塗ったり、クロトリマゾールや硝酸ミコナゾールなどの膣錠を用いたりします。これらの薬の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。どちらの薬でも効果はほぼ同じです。 根拠(2) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
カンジダ菌に有効な薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
表在性真菌症治療薬 | エンペシド膣錠(クロトリマゾール) | ★5 | クロトリマゾール、ミコナゾールは非常に信頼性の高い臨床研究によって、カンジダ膣炎に対する効果が確認されています。カンジダ膣炎の大部分は、カンジダ•アルビカンスが原因となりますが、再発を繰り返す例では、カンジダ•ガラブラタ(Candida Glabrata)によることがあります。C. glabrataに対する最適の治療法は確立されていないため、初回使用薬と異なる薬剤に変えるか、投与期間を長くして治療効果をみることになります。(3)(4)また、海外ではフルコナゾール150ミリグラム単回の内服治療が推奨されていますが、日本では深在性真菌症の適応のみで、カンジダ外陰膣炎に対しては未承認です。再発例・重症例では腟錠や外用薬を7~14日間用いる、あるいはフルコナゾール、イトラコナゾールなどの抗真菌薬を3日ごとに3回で7日間内服することが推奨されています。 硫酸オキシコナゾールの膣錠は、有効性を示した臨床研究はありませんが経験上使用されています。硫酸イソコナゾールや硫酸オキシコナゾールのクリームも、有効性を示した臨床研究はないものの、ガイドラインでは支持されています。 根拠(1)(3) |
フロリード膣坐剤(硝酸ミコナゾール) | ★5 | ||
オキナゾール膣錠(硫酸オキシコナゾール) | ★2 | ||
エンペシドクリーム(クロトリマゾール) | ★5 | ||
フロリードDクリーム(硝酸ミコナゾール) | ★5 | ||
アデスタンクリーム(硫酸イソコナゾール) | ★3 | ||
オキナゾールクリーム(硫酸オキシコナゾール) | ★3 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
感染がわかったら、早期に治療を開始する
症状がみられたら、すぐに医療機関を受診し、正しい診断のもとでエンペシド(クロトリマゾール)、あるいはフロリード(硝酸ミコナゾール)などの膣錠や外用薬を用いることで、ほぼ確実に治療できます。
診断は、膣の分泌物にKOH液を滴下した標本を顕微鏡で鏡検し、芽胞や菌糸を確認すれば簡単につきます。(2)
カンジダ膣炎は再発しやすい病気なので、治ってからも注意が必要です。症状がおさまっても勝手に薬を中止したりせず、一定期間治療を続けます。カンジダ菌は皮膚、消化管などの常在菌なので、菌が少量残存していても治療により症状が消失したら、治癒したものとします。
不特定多数との性交渉を避け、日頃から清潔に
感染予防のためには患部の清潔を保ち、不特定多数との性交渉を避けるべきです。
おりものや強いかゆみが気になる場合には、下半身を締め付けるジーンズやガードル・ストッキングを履くことは避けて、通気性のいい綿の素材の下着などを身につけたほうがよいかもしれません。
患部を清潔に保つことは必要ですが、神経質になりすぎて、なんども患部を洗うと、膣内の自浄菌の力を弱めて、かえって治癒力を低下させるため、注意が必要です。外陰部を石けんで強くこすると、石けんの刺激で悪化することがあります。お湯だけでそっと洗い、よく乾かすとよいでしょう。
カンジダ膣炎も、事前にコンドームを正しく使用すれば、パートナーへの感染はほぼ完全に予防できます。確実な治療があるとはいえ、再発しやすい病気でもあります。予防できる方法がわかっているのですから、実行すべきでしょう。
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根拠(参考文献)
- (1)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編. CQ105カンジダ外陰膣炎の診断と治療は?産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014, 東京, 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会, 2014, 12-14.
- (2)日本感染症学会編.性感染症診断・治療ガイドライン 2011, 性器カンジダ症.日性感染症会誌. 2011;22(suppl):87-91.
- (3)CDC. Vulvovaginal Candidiasis. Treatment guidline for Candidasis. 2015. (http://www.cdc.gov/std/tg2015/candidiasis.htm)
- (4)久保田武美. 性器カンジダ症. 臨婦産. 2009;63:176-179.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)