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夜尿症(おねしょ)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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夜尿症(おねしょ)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 乳児期まではすべての子どもに夜尿(おねしょ)がみられますが、学童期までには学童全体の約90パーセントが夜間睡眠中の排尿を抑制することができるようになります。しかし、一部の子どもは夜尿が続く場合があり、これを夜尿症と呼んでいます。

 一晩に一度とは限らず、二度、三度と漏らす場合があります。また、毎日漏らす場合もありますが、週に、一、二度だけみられるということもあります。量も子どもによって差があり、多量に漏らすこともあれば少量のこともあります。たいていは漏らしても目を覚ましません。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 夜尿は、夜間睡眠中の尿の生産量が膀胱の容量を上回った場合におこりますが、排尿と蓄尿を調節する末梢・中枢神経が未熟であるために夜間睡眠中に膀胱の容量が低下するもの(膀胱容量低下型)、抗利尿ホルモン(アルギニンバソプレシン)の分泌が夜間に低下するために尿量が増加するもの(多尿型)に分類されます。

 これら生理・機能的な側面だけではなく、夜尿症がおこる背景には生活環境や心理的な要因(ストレスや不安など)が複雑に影響することも知られています。

病気の特徴

 小学校の低学年では、5パーセント程度の子どもが夜尿症と考えられています。また、夜尿症の子どものうち、約20パーセントは昼間のおもらしを伴います。

 ほとんどの場合は、成長とともに症状は自然に消えていきます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
水分・塩分を制限する ★2 水分や塩分を制限することは専門家の意見や経験から支持されています。
膀胱容量低下型に対して、がまん尿を指導する ★2 尿意が発生してもがまんさせ、膀胱の容量の拡大を図る方法は専門家の意見や経験から支持されています。
早朝には抗利尿ホルモンの分泌は低下し、尿量が急増するので起こして排尿させる(夜中に起こさない) ★4 アラームを用いて毎朝決まった時刻に起こすことは、無治療より有効のようです。 根拠(1)~(3)
冬の間は十分保温する ★2 気温が低い時期に保温することは専門家の意見や経験から支持されています。
薬物療法を検討する ★5 本人の日常生活に支障をきたしたり、精神的負担が大きかったりする場合には、薬物の使用を検討します。下垂体後葉ホルモンの酢酸デスモプレシンを用いた場合と無治療を比べると、使用した場合のほうに効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。ただし、三環系抗うつ薬については評価が難しいようです。 根拠(4)(5)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

多尿型に用いる薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
三環系抗うつ薬 トフラニール(塩酸イミプラミン) ★2 三環系抗うつ薬の効果については必ずしも信頼性の高い臨床研究によるものではなく、評価が難しいようです。 根拠(5)
トリプタノール(塩酸アミトリプチリン) ★2
下垂体後葉ホルモン デスモプレシン(酢酸デスモプレシン) ★5 酢酸デスモプレシンを用いた場合と無治療を比べると、使用した場合のほうに効果が認められています。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。 根拠(4)

膀胱容量低下型に用いる薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
三環系抗うつ薬 トフラニール(塩酸イミプラミン) ★2 三環系抗うつ薬の効果については必ずしも信頼性の高い臨床研究によるものではなく、評価が難しいようです。 根拠(5)
トリプタノール(塩酸アミトリプチリン) ★2
頻尿治療薬 バップフォー(塩酸プロピベリン) ★4 少なくとも抗うつ薬との併用で有効なことが信頼性の高い臨床研究で示されています。 根拠(7)
抗炎症薬 インダシン/インテバン(インドメタシン) ★4 インドメタシンはプラセボ(偽薬)に比較すれば夜尿症を抑制する効果がありますが、酢酸デスモプレシンに比べれば効果は低いことが信頼性の高い臨床研究で示されています。 根拠(6)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

心配のしすぎはかえってよくない

 通常、子どもの夜尿症は成長とともに消失します。いつ消失するのかは個人差がありますので、学童期に入って夜尿症がある場合でも、周囲の者が心配しすぎるとかえって本人への心理的な圧迫感から悪循環が形成されることも考えられます。

水分・塩分の制限は負担にならない程度に

 夕食後の水分や塩分摂取を極度に制限したり、早朝に起こして排尿させたりすることの有効性は必ずしも明らかでありませんが、薬などと比べて安全ですので、本人の負担にならない範囲で行うのはかまわないと思います。

デスモプレシンは有効

 血液中の水分が尿に移行するのを妨げる働きのあるデスモプレシン(酢酸デスモプレシン)が夜尿症に有効なことは、非常に信頼性の高い研究で示されています。そのほかの薬に比べても、安全性の点ですぐれていますので、薬物療法を行う場合には、最初に用いられるべきでしょう。

薬物療法の開始年齢は個別の判断が必要

 何歳になっても夜尿症があれば薬物療法を行うべきかについては、夜尿症の程度や本人にとって日常生活上の支障がどの程度大きいかによって、一人ひとりの患者さんでの個別的な判断が必要になります。

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根拠(参考文献)

  • (1) Glazener CMA, Evans JHC. Alarm interventions for nocturnal enuresis in children(Cochrane Review).In:The Cochrane Library, Issue 3, 2001. Oxford: Uptodate Software. Search date 1997; primary source Medline, Embase, Amed, Assia, Bids, Cinahl, Psychlit, Sigle, and DHSS data.
  • (2) El-Anany FG, Maghraby HA, Shaker SE, et al. Primary nocturnal enuresis: a new approach to conditioning treatment. Urology. 1999;53:405-408; discussion 408-409.
  • (3) Lister-Sharp D, O'Meara S, Bradley M, et al. University of York. NHS Centre for Reviews and Dissemination. August 1997. A systematic review of the effectiveness of interventions for managing childhood nocturnal enuresis. CRD Report 11. Search date 1996; primary sources Cochrane Library, Medline, Embase and Psychlit.
  • (4) Giazener CMA, Evans JHC. Desmopressin for nocturnal enuresis in children. In: The Cochrane Library, Issue 3, 2001. Oxford: Uptodate Software. Search date 1997; primary source Medline, Embase, Amed, Assia, Bids, Cinahl, Psychlit, Sigle, and DHSS data.
  • (5) Giazener CMA, Evans JHC. Trycyclic and related drugs for nocturnal enuresis in children. In: The Cochrane Library, Issue 3, 2001. Oxford: Uptodate Software. Search date 1997; primary source Medline, Embase, Amed, Assia, Bids, Cinahl, Psychlit, Sigle, and DHSS data.
  • (6) Sener F, Hasanoglu E, Soylemezoglu O. Desmopressin versus indomethacin treatment in primary nocturnal enuresis and the role of prostaglandins. Urology 1998;52:878-881
  • (7) Kaneko K, Fujinaga S, Ohtomo Y, et al. Combined pharmacotherapy for nocturnal enuresis. Pediatr Nephrol. 2001;16:662-664.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行