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慢性骨髄性白血病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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慢性骨髄性白血病とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 白血病では、血液の細胞(白血球、赤血球、血小板)のどれか一つが異常に増殖し、他の血液細胞を作れなくなっている状態になっています。白血病は、発症の仕方によって急性と慢性に分類されるほか、増殖する細胞の種類によって骨髄性とリンパ性に分かれます。

 慢性の白血病は、数年にわたり種々の段階の血液細胞が増加し、脾臓が大きくなったり、赤血球が増加したり、あまりはっきりした症状のでない慢性期がしばらく続きます。そのあと、白血球数が増加する移行期から、最終的に急性の白血病と同じように、がん化した白血病細胞が異常に増殖してしまい、正常の血球細胞がつくれなくなる急性転化期に至るという経過をたどります。

全身倦怠感や脾腫による腹部膨満感、血液細胞の増殖による胸骨のあたりの痛みなど、あまりはっきりしない症状で受診し、白血球数が通常の10倍に至るといった、血球検査の異常から骨髄の検査が行われて診断がつくことが多い病気です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 慢性骨髄性白血病は染色体異常の結果、細胞の増殖を調節しているチロシンキナーゼという物質がつねに活性化され、さまざまな血液細胞が異常に増殖する病気です。

 この病気の患者さんでは、ほとんどの場合、染色体の異常が認められています。人間がもっている46の染色体のうち、22番染色体が途中から切れて、9番染色体の断片と結合している、つまり、9番と22番の染色体がそれぞれある部分で二つに切断され、互いに入れかわって結合しています。それぞれの遺伝子の断片が結合した結果、新たに融合遺伝子がつくられます。この融合した染色体はフィラデルフィア染色体とよばれ、さらに、このフィラデルフィア染色体上で融合した遺伝子は、bcr-abl (Break-point Cluster Region – Abelson1)遺伝子とよばれます。この遺伝子からつくられる物質は、細胞の増殖に関連するチロシンキナーゼと呼ばれる酵素が変化したもので、この変化したチロシンキナーゼは本来の働きに異常をきたし、持続的に細胞増殖を刺激し続けてしまいます。このため、異常な血球細胞の増殖がおこる、と考えられています。

 慢性骨髄性白血病の慢性期は、急性白血病と異なり、種々の白血球、また血小板も異常に増加します。このため、血球がさかんにつくられている胸骨のあたりが膨張することで痛みが現われます。また、増加した血小板を処理するため、脾臓が巨大になりお腹の上の方、左側がはった状態になります。

 急性期になると、急性白血病と同じく、赤血球が産生できなくなり貧血になります。正常の血小板がなくなるので出血しやすくなります。また、正常の白血球が産生できなくなるので、感染症にかかりやすくなります。

 チロシンキナーゼに関連するこの遺伝子の異常は、おもに後天的におこるのではないかと考えられています。それは、原爆で被爆した人や放射線治療を受けた人に、この病気の患者さんが多いという統計からも推測されています。

病気の特徴

 慢性骨髄性白血病の発病はすべての年齢層におこりえますが、40歳代~50歳代以降に多くみられます。白血病全体のなかでは、約20パーセントを占めます。

 2001年、慢性骨髄性白血病に対する分子標的療法薬のグリベック(イマチニブ)が発売されました。この薬の登場で、慢性骨髄性白血病は、毎日きちんと薬を内服すれば、長期生存も可能な病気となっています。(1)

そして、現在、一部の慢性骨髄性白血病は、分子標的療法のみで治癒する可能性があるのではないか、との研究が行われています。(2)(3)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
慢性期の初期治療 分子標的療法:チロシンキナーゼ阻害薬を行う ★4 現在、チロシンキナーゼ阻害薬を用いた分子標的療法が、初期治療の標準治療となっています。この治療は、通常の抗がん薬よりも副作用が少ないものの、心不全、肺出血や末梢動脈閉塞などの特殊な副作用が現れることがあります。このため治療に習熟した専門家のもとで治療を行うことが必要です。なお、治療効果の判定には、3、6、12カ月ごとに、血液もしくは骨髄液のbcr-abl遺伝子数などを検査し、評価する必要があります。 根拠(4)~(11)
慢性期で治療に耐性・不耐容の場合とおよび移行期・急性転化期の治療 分子標的療法:チロシンキナーゼ阻害薬を変更する ★4 初期治療で用いられたチロシンキナーゼ阻害薬を使用していても病気が悪化した場合は、突然変異したチロシンキナーゼの型を検査し、チロシンキナーゼ阻害薬の種類を変更します。悪性度の高い場合、種類の異なるチロシンキナーゼ阻害薬にも反応しない場合は、同種骨髄移植が可能か検討を行います。 以前行われていたインターフェロンや、急性白血病に準じた抗がん薬の使用は、増加した白血球数を減少させることはできても、生存期間の延長は困難と考えられています。このため、チロシンキナーゼ阻害薬の使用が優先されます。 根拠(12)(13)
同種骨髄移植を検討する ★3 同種骨髄移植、すなわち、兄弟姉妹もしくはHLAという型の一致した人からの骨髄移植により、慢性骨髄性白血病を根本的に治癒させることが可能です。しかし、同種骨髄移植は副作用による治療に関連した死亡率が未だ高いのが現状です。そのため、同種骨髄移植にふみきるかどうは、患者さんの年齢や全身状態、他の治療に対する反応性、骨髄提供者が得られるかどうかといったさまざまな面から、総合的に検討する必要があります。 

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

慢性期初期治療

主に使われる薬 評価 評価のポイント
分子標的療法: 第二世代チロシンキナーゼ阻害薬:スプリセル(ダサチニブ)・タシグナ(ニロチニブ)ほか  ★4 いずれも内服薬で、1日1回または2回飲む薬です。血球の状態や反応を確認するために、定期的に血液検査や骨髄の検査が必要です。第一世代として登場したチロシンキナーゼ阻害薬のグリベック(イマチニブ)は開発当初から有効性が高い薬であることが予想されたため、患者さんに投与しないという行為が倫理的に許されませんでした。このため、無作為ランダム化試験ではなく、交差試験(時期をずらしてすべての患者さんに薬を使用する方法)でその効果の検証が行われました。したがって、予後の改善効果は、過去の治療成績と比較する、という方法論が用いられました。(8)(9)また、第二世代チロシンキナーゼ阻害薬は、第一世代チロシンキナーゼ阻害薬のグリベック(イマチニブ)と比較し有効性が高いと報告されています。第二世代の2つの薬剤は、副作用が異なるため、患者さんの併存疾患(糖尿病の有無等)を考慮して薬剤を選択します。なお、第二世代のチロシンキナーゼ阻害薬であるボシュリフ(ボスチニブ)も、海外では、最初の治療(初期治療)で第一世代のグリベックを超える治療成績が公表されています。しかし、2015年2月現在、日本では、最初の治療としてではなく、治療抵抗性の時期にのみ保険適応が認められています。(10)(11) 根拠(4)~(7)

治療抵抗性/急性転化期

主に使われる薬 評価 評価のポイント
分子標的療法: 第二世代チロシンキナーゼ阻害薬:スプリセル(ダサチニブ)・タシグナ(ニロチニブ)・ボシュリフ(ボスチニブ) ★4
第三世代チロシンキナーゼ阻害薬:アイクルシグ(ポナチニブ、申請中) ★4

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

慢性期の初期治療では、分子標的療法を行う

 2001年、慢性骨髄性白血病に対する分子標的療法薬のグリベック(イマチニブ)が発売され、この薬の登場で、慢性骨髄性白血病は、毎日きちんと薬を内服すれば、長期生存も可能な病気となりました。(1)

 現在、一部の慢性骨髄性白血病は、分子標的療法のみで治癒する可能性に関する研究が進められています。(2)(3)

 初期治療としては、主に、第二世代チロシンキナーゼ阻害薬を使用します。

チロシンキナーゼ阻害薬は、通常の抗がん薬よりも副作用が少ないものの、心不全、肺出血や末梢動脈閉塞などの特殊な副作用が現れることがあります。また、治療効果を確認するため、3、6、12カ月ごとに、血液もしくは骨髄液のbcr-abl遺伝子数などを検査し、評価します。そこで、治療は、習熟した専門家のもとで行う必要があります。

治療抵抗性になった場合、薬を変更する。骨髄移植を検討する。

 初期の治療では病状が安定せず、悪化した場合は、突然変異したチロシンキナーゼの型を検査し、チロシンキナーゼ阻害薬の種類を変更します。悪性度の高い場合は、種類の異なるチロシンキナーゼ阻害薬でも十分な効果が得られないこともあります。その場合には、同種骨髄移植が可能かどうかの検討を行います。

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根拠(参考文献)

  • (1)O'Brien SG, Guilhot F, Larson RA,et al.; IRIS Investigators. Imatinib compared
  • with interferon and low-dose cytarabine for newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2003 ;348:994-1004.
  • (2)Mahon FX, Réa D, Guilhot J, et al; Intergroupe Français des Leucémies Myéloïdes
  • Chroniques. Discontinuation of imatinib in patients with chronic myeloid leukaemia who have maintained complete molecular r emission for at least 2 years: the prospective, multicentre Stop Imatinib (STIM) trial. Lancet Oncol. 2010;11:1029-35.
  • (3)Takahashi N, Kyo T, Maeda Y, et al. Discontinuation of imatinib in Japanese
  • patients with chronic myeloid leukemia. Haematologica. 2012 ;97:903-6.
  • (4)Gurion R, Gafter-Gvili A, Vidal L, et al. Has the time for first-line treatment with
  • second generation tyrosine kinase inhibitors in patients with chronic myelogenous leukemia already come? Systematic review and meta-analysis. Haematologica. 2013 ;98:95-102.
  • (5)Kantarjian H, Shah NP, Hochhaus A, et al. Dasatinib versus imatinib in newly
  • diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010;362:2260-70.
  • (6)Saglio G, Kim DW, Issaragrisil S, et al; ENESTnd Investigators. Nilotinib versus
  • imatinib for newly diagnosed chronic myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010 ;362:2251-9.
  • (7)Jabbour E, Kantarjian HM, Saglio G, et al. Early response with dasatinib or
  • imatinib in chronic myeloid leukemia: 3-year follow-up from a randomized phase 3 trial (DASISION). Blood. 2014;123:494-500.
  • (8)Roy L, Guilhot J, Krahnke T, Guerci-Bresler A,et al. Survival advantage from imatinib compared with the combination interferon-alpha plus cytarabine in chronic-phase chronic myelogenous leukemia: historical comparison between two phase 3 trials. Blood. 2006 ;108:1478-84.
  • (9)Kantarjian HM, Talpaz M, O'Brien S, et al. Survival benefit with imatinib mesylate versus interferon-alpha-based regimens in newly diagnosed chronic-phase chronic myelogenous leukemia. Blood. 2006;108:1835-40.
  • (10)Cortes JE, Kim DW, Kantarjian HM, et al.Bosutinib versus imatinib in newly diagnosed chronic-phase chronic myeloid leukemia: results from the BELA trial. J Clin Oncol. 2012;30:3486-92.
  • (11)Nakaseko C, Takahashi N, Ishizawa K,et al. A phase 1/2 study of bosutinib in Japanese adults with Philadelphia chromosome-positive chronic myeloid leukemia. Int J Hematol. 2014 Dec 25. [Epub ahead of print]
  • (12)Takahashi N, Miura M, Kuroki J, et al. Multicenter phase II clinical trial of nilotinib for patients with imatinib-resistant or -intolerant chronic myeloid leukemia from the East Japan CML study group evaluation of molecular response and the efficacy and safety of nilotinib.  Biomark Res. 2014;2:6.
  • (13)Cortes JE, Kim DW, Pinilla-Ibarz J, et al; PACE Investigators. A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med. 2013 ;369:1783-96.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)