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食道がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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食道がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 食道の内面を覆う粘膜上皮や粘液腺上皮から発生するがんです。食道の中部、下部の位置によくみられます。

 早期にはまったく自覚症状がありませんが、進行してくると食べ物を飲み込むときに痛みを感じたり、しみたり、つかえたりといった嚥下障害をおこします。また胸痛、背部痛、体重減少、食事のときのせき、声のかすれ、吐血などがみられることもあり、このような状態が数カ月にわたって続きます。

 従来は見つけにくいがんでしたが、近年はルゴール染色法(ヨウ素液を使った検査:食道粘膜に含まれているグリコーゲンがヨードによって褐色に染まる反応を利用したもので、がん細胞のある部分は染まらない)を用いた内視鏡検査で、早期発見できるようになってきました。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 食道がんの原因としては、飲酒、喫煙との関係が指摘されています。とくに25~30年以上にわたって、毎日多量の飲酒(日本酒で3合以上に相当する量)を続けてきた人は要注意です。飲酒や喫煙によって粘膜が刺激され続けると、粘膜が細胞変化をおこしやすくなります。ほかに、刺激物や熱い食べ物を好む人が発症しやすいとされています。

病気の特徴

 毎年、約9000人が発症します。5対1の割合で男性に多い病気です。50歳以降、急激に増えて、60歳代に発症のピークがあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
禁煙したり、過度の飲酒を避けたりして予防する ★2 食道がんの危険因子として、粘膜が細胞変化をおこしているバレット食道という状態があげられます。バレット食道とは、胃食道逆流現象による胃酸分泌物が粘膜を刺激しておこるものです。胃食道逆流現象の治療、予防のためには、禁煙し、過度の飲酒は避けるべきであると考えられます。
早期発見できた場合 内視鏡的粘膜切除術を行う ★4 信頼性の高い臨床研究で、粘膜内にとどまっている早期のがんについては、内視鏡による粘膜切除術の有効性が確認されています。5年生存率が95パーセントであったという報告や、大きさが2センチメートルの3分の1以下の食道がんに対して内視鏡的粘膜切除術を行ったところ、その5年生存率は95パーセント以上であったという報告があります。 根拠(1)(2)
進行がんの場合 リンパ節郭清を伴う胸部食道亜全摘術を行う ★4 食道とその周囲のリンパ節を手術によって切除します。リンパ節郭清を行う目的は、進行がんは離れた頸部やリンパ節に転移している場合が多いこと、再発リスクを下げること、できるだけ多くの患者さんで肉眼的にも顕微鏡的にもがんを完全に取り除くことによって、5年生存率を上げることです。信頼性の高い臨床研究によると、術後院内での平均死亡率は10パーセント前後と報告されています。 根拠(3)~(5)
転移している場合 化学療法を行う ★2 一般に単剤使用ではなく、シスプラチンをベースにした複数の抗がん薬を用いて治療します。そうすることで、抗がん薬に対するより高い反応が得られますが、生存率の改善には至っていません。食道がんに化学療法を行った群と行わなかった群を比較したところ、生存率に差はなかったという非常に信頼性の高い臨床研究があります。近年は化学療法の単独治療よりも放射線療法と組み合わせた治療がよいとされています。 根拠(6)
放射線療法を行う ★4 限局性の食道がんの患者さんでは、放射線療法単独でも生存率の延長が認められるとの信頼性の高い臨床研究があります。しかし、近年は放射線療法単独治療に代わって、化学療法と放射線療法を組み合わせた治療が行われるようになっています。 根拠(7)
化学療法と放射線療法を組み合わせる ★5 化学療法と放射線療法を組み合わせた治療群と放射線療法単独群を比較した結果、前者のほうが生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)と5年生存率は良好であったという非常に信頼性の高い臨床研究があります。手術が不可能な食道がんの患者さんに対しては、化学療法と放射線療法を組み合わせた治療が現在の標準的な治療法となっています。 根拠(8)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬 根拠 (6)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)+5-FU(フルオロウラシル)+アドリアシン(塩酸ドキソルビシン) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、効果が認められています。シスプラチンをベースにして、複数の抗がん薬を組み合わせて用いる多剤併用療法が一般的です。 根拠(6)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

早期なら内視鏡でがんを切除

 食道粘膜内にとどまる早期がんについては、内視鏡的粘膜切除術を行います。この方法を用いた場合、信頼性の高い臨床研究によると、5年生存率は95パーセント以上であったと報告されています。

 食道がんは、早期にはほとんど症状がなく、見つけにくいがんです。したがって、発見されたときにはある程度進行していることが多く、一般的に予後が悪いがんといわれています。

 しかし、近年はルゴール染色法を用いた内視鏡検査によって、比較的早期の発見が可能になり、内視鏡的粘膜切除術が適応となる例も増えています。

 発病頻度の高い50歳代以降の男性には、定期的な検査を行うことをお勧めします。

進行がんには、手術、化学療法、放射線療法を選択

 進行がんについては、リンパ節郭清を伴う胸部食道亜全摘術、あるいは放射線療法と化学療法を組み合わせた治療が行われます。

 双方とも5年生存率はほぼ同じと考えられていますが、後者では食道の狭窄症状(食道が狭くなって通りが悪くなる症状)が改善されないという欠点があります。

 化学療法は、ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)をベースにした多剤併用療法が主流となっています。

食道の狭窄を防ぐ方法も

 食道がんを外科的に切除できない場合には、がんによる食道の狭窄をいかに防ぐかがもっとも重要な課題となります。

 内視鏡を使って金属ステント(コイル状の拡張器)を入れたり、内腔(内側)に向かって盛り上がっているがん組織をレーザーで焼灼したりして、食道の狭窄を改善する方法が開発されてきています。

 外科医の熟練度にもよりますが、よく説明を聞き、相談をしたうえで治療法を選択すべきでしょう。

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根拠(参考文献)

  • (1) Hamada T, Kondo K, Itagaki Y, et al. Endoscopic mucosal resection for early gastric cancer. Nippon Rinsho. 1996;54:1292-1297.
  • (2) Endo M, Takeshita K, Inoue H. Endoscopic mucosal resection of esophageal cancer. Gan To Kagaku Ryoho. 1995;22:192-195.
  • (3) Lerut T, De Leyn P, Coosemans W, et al. Surgical strategies in esophageal carcinoma with emphasis on radical lymphadenectomy. Ann Surg. 1992;216:583-590.
  • (4) Roder JD, Busch R, Stein HJ, et al. Ratio of invaded to removed lymph nodes as a predictor of survival in squamous cell carcinoma of the oesophagus. Br J Surg. 1994;81:410-413.
  • (5) Muller JM, Erasmi H, Stelzner M, et al. Surgical therapy of oesophageal carcinoma. Br J Surg. 1990;77:845-857.
  • (6) Levard H, Pouliquen X, Hay JM, et al. 5-Fluorouracil and cisplatin as palliative treatment of advanced oesophageal squamous cell carcinoma. A multicentre randomised controlled trial. The French Associations for Surgical Research. Eur J Surg. 1998;164:849-857.
  • (7) Earlam R, Cunha-Melo JR. Oesophogeal squamous cell carcinoms: II. A critical view of radiotherapy. Br J Surg. 1980;67:457-461.
  • (8) al-Sarraf M, Martz K, Herskovic A, et al. Progress report of combined chemoradiotherapy versus radiotherapy alone in patients with esophageal cancer: an intergroup study. J Clin Oncol. 1997;15:277-284.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行