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胆のうがんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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胆のうがんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 肝臓でつくられた胆汁は、胆管と呼ばれる管を通って十二指腸へと流れでます。胆のうは胆管の途中にある袋状の臓器で胆汁を一時的にためておく働きがあります。管にできたがんを胆管がん、袋にできたがんを胆のうがんといいます。両者をまとめて胆道がんと呼ぶこともあります。

 ある程度進行するまでとくに症状はありません。進行すると、上腹部にしこりや鈍痛がみられ、黄疸をおこすこともあります。胆石症を合併した場合は、発熱や疝痛発作(急に刺すような激痛がおこる)など胆石症特有の症状があります。

 なお、超音波検査の普及で胆のうに腫瘍が見つかる機会が増えました。胆のうの腫瘍には、悪性腫瘍である胆のうがん以外に腺腫や胆のうポリープなどの良性腫瘍もあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 胆のうがんの患者さんの約半数に胆石が見つかります。ただし、胆石症の患者さんが胆のうがんを合併する率は1~3パーセントとあまり高くありません。そこで、胆石症が直接胆のうがんの原因になるのではなく、胆石症による胆汁の変化や胆のうの炎症(胆のう炎)が発がんに関係するのではないかと考えられています。このように、発症頻度は高くないものの、胆石は胆のうがんの危険因子であるといえます。胆石のある患者さんは、定期的に超音波検査などで胆のうがんの有無を調べることが望ましいでしょう。

 胆のう炎を合併したり、疝痛発作がひどく、日常生活にも支障をきたすような場合は、胆のうがんになる可能性も多少高まりますから、手術で胆のうを摘出したほうがよいと考えられています。

 膵臓の頭部(十二指腸のすぐ近く)において胆管と膵管が合流しますが、この合流に異常があると10~20パーセントの頻度で胆のうがんを合併します。このため、合流異常による膵液の胆道内への逆流が、発がんの原因の一つと考えられています。

病気の特徴

 女性がなりやすく、男性の2~3倍多くみられます。60歳~70歳代に多い病気です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
がんが粘膜内か固有筋層にとどまる場合 単純胆のう摘出術を行う ★3 がんが粘膜内かその直下の固有筋層(粘膜の外にある筋肉の層)にとどまっているうちに発見されることは一般的には少なく、全症例の10パーセント以下といわれています。そのような早期にがんが発見された場合には、胆のうだけを切除する単純胆のう摘出術で、5年生存率は40パーセント以上(粘膜内なら100パーセント、固有筋層まで浸潤していたら40パーセント)であったとの臨床研究が報告されています。 根拠(1)
前項以外の場合 拡大胆のう摘出術を行う ★3 粘膜とその直下の固有筋層を超えてがんが広がっているときは、拡大胆のう摘出術が行われるのが一般的です。胆のうだけでなく、隣接している肝臓の一部や所属リンパ節なども一緒に取り除く手術です。治療成績は、単純胆のう摘出術より良好であることが臨床研究によって確認されています。両者を比較した場合、5年生存率は同等でも、生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)は拡大胆のう摘出術のほうが明らかに長いと報告されています。 根拠(2)
切除不能・再発の場合 化学療法を行う ★2 手術後にマイトマイシンCを用いた局所化学療法では、生存中央値の延長は認められているようですが、研究方法が不十分なため、効果については不確かです。また、転移のない限局性の胆のうがんの術後患者さんに、化学療法と放射線療法の組み合わせで治療したところ、生存中央値の延長を認めたとの報告もあります。しかし、これも症例が少なく、効果については確かではありません。 根拠(3)~(5)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
マイトマイシンS(マイトマイシンC) ★2 専門家の意見や経験に基づき、手術が不能な場合や再発した場合に使用されています。手術後の局所化学療法についても研究方法が不十分なため、効果は確認されていません。 根拠(3)(4)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

もっとも有効な治療は、手術で胆のうを摘出すること

 胆のう切除術のみが、もっとも確かな治療と考えられています。胆のう炎や胆石症のために胆のうを切除し、病理学的検査で胆のう粘膜内にがんが偶然発見された場合は、予後が非常に良好です。

 しかし、手術時に外科医が腫瘍に気づくことができるほど大きくなっている場合は、たとえ胆のうに隣接する部分の肝臓や胆管、所属リンパ節などを切除したとしても、5年生存率は50パーセント以下とされ、現在でも治療が非常に難しいがんの一つとされています。

化学療法や放射線療法の有効性は不確実

 切除不能な場合や再発をした場合は、マイトマイシンS(マイトマイシンC)をはじめとした化学療法が行われることもあります。

 ただし、残念ながら、抗がん薬が胆のうがんに有効であることは、はっきりとは証明されていません。放射線療法も同様です。

胆石のある人は定期的に胆のうがんのチェックを

 発症頻度は高くありませんが、胆石は胆のうがんの危険因子であることは確かです。胆石のある患者さんは、定期的に超音波検査などで胆のうがんの有無を調べてもらったほうがよいでしょう。

 また、胆のう炎を合併したり、疝痛発作の頻度がある程度高く、日常生活にも支障をきたすような場合は、胆のうがんになる可能性も多少高まりますから、手術で胆のうを摘出したほうがよいと考えられます。

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根拠(参考文献)

  • (1) Shirai Y, Yoshida K, Tsukada K, et al. Inapparent carcinoma of the gallbladder. An appraisal of a radical second operation after simple cholecystectomy. Ann Surg. 1992;215:326-331.
  • (2) Donohue JH, Nagorney DM, Grant CS, et al. Carcinoma of the gallbladder. Does radical resection improve outcome? Arch Surg. 1990;125:237-241.
  • (3) Makela JT, Kairaluoma MI. Superselective intra-arterial chemotherapy with mitomycin for gallbladder cancer. Br J Surg. 1993;80:912-915.
  • (4) Taneja C, Wanebo HJ, Vezeridis MP, et al. Adjuvant therapy improves survival in advanced gallbladder carcinoma. Presented at the meeting of the New England Surgical Society, Providence, RI, September, 2001.
  • (5) Takada T, Amano H, Yasuda H, et al. Is postoperative adjuvant chemotherapy useful for gallbladder carcinoma? A phase III multicenter prospective randomized controlled trial in patients with resected pancreaticobiliary carcinoma. Cancer. 2002;95:1685-1695.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行