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子宮体がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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子宮体がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 子宮体がんは、子宮の内側を覆っている粘膜(子宮内膜)の細胞が異常増殖して、腫瘍が発生したものです。子宮内膜から発生する「腺がん」とそれ以外の組織や筋層から発生する「肉腫」に分類され、およそ9対1の比率で腺がんが多くなっています。

 症状はかなり早い段階から現れ、ほとんどの人に不正出血がおこります。しかし、出血量が少ないため、月経不順や褐色のおりものとかん違いしていることが多く、受診が遅れがちです。おりものを伴うこともあります。初期のおりものは黄白色または透明ですが、病状が進行すると、子宮内部にたまった血液や膿が外に排出されるため、おりものに血や膿が混じるようになります。このときに、激しい下腹部痛を訴えることもあります。

 また、早期がんの場合は、月経時の出血量が増えるという症状もよくみられます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 なぜ子宮内膜の細胞が異常増殖するのかは、まだわかっていません。女性ホルモンのエストロゲンが関係しているともいわれています。しかし、毎月月経があれば、定期的に子宮内膜がはがれてしまうので、たとえがん細胞が発生しても腫瘍をつくるまでに至らないことが多くなります。このようなしくみから、子宮体がんは閉経を迎える更年期以降に多く発生します。このほか、肥満、高血圧、糖尿病、妊娠・出産の経験がないということも危険因子とされています。

 月経不順やおりものの異常などで症状に気づくこともありますが、子宮体がん検査(細胞診)を受けることで確実に発見できます。

 治療は進行度によっても違いますが、外科的な手術が中心で、病期や本人の合併症によって術式、摘出範囲が選択されます。さらに放射線療法や化学療法を組み合わせることもあります。

 できるだけ早期に子宮の切除、あるいは必要に応じてリンパ節や周囲の臓器を切除する外科手術を行うことが生存率を高めます。

病気の特徴

 50歳以上の女性によくみられます。以前は子宮がんといえば、「子宮頸がん」になる人が圧倒的に多かったのですが、近年、「子宮体がん」が子宮がんの2、3割を占めるほど多くなったといわれています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
病期に応じて手術法を検討、選択する ★4 信頼性の高い臨床研究によって、病期に応じた手術を行うことの効果が確認されています。子宮体がんのI期の場合は、子宮だけを切除する単純子宮全摘術、もしくは子宮、子宮の周囲の組織、膣の一部を切除する準広範子宮摘出術、II期とIII期の場合は準広範子宮摘出術や、子宮、膣、卵巣、卵管などを切除する広範子宮摘出術を行うこととされています。また、子宮周囲のリンパ節にがんが転移する可能性が高い場合は、リンパ節郭清(リンパ節の切除)も行います。 根拠(1)~(6)
手術後に放射線療法を行う ★4 がんが子宮体部から外へ広範囲に浸潤しているような病期や、再発のリスクがある患者さんに対して手術後に放射線療法を行うと、再発率を低下させるということが、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(7)(8)
手術後に化学療法を行う ★2 手術後の化学療法の効果に関しては、まだ議論が盛んに行われています。結論がはっきりするには、さらなる新しい臨床研究を待つ必要があります。 根拠(9)~(12)
転移が広範囲にある場合は、手術をせずに化学療法を行う。その後、転移が消えれば手術を検討する ★3 IV期にまで病状が進行していても、腫瘍を減らす手術をすることで生存期間が延びる可能性を示した臨床研究報告があります。 根拠(3)~(5)
年齢的に若くて子宮の摘出をどうしても望まない場合や進行性および再発の場合、ホルモン療法を検討する ★2 ホルモン療法が子宮体がんの再発のリスクを下げることについては、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(13)(14)
肉食中心の食事を避ける ★4 信頼性のある臨床研究によって、肉など脂肪を多く含む食事が子宮体がんのリスク因子であることが示されています。脂肪分を減らして三大栄養素(糖質・たんぱく質・脂質)のバランスのよい食事をとることは、逆にリスクを減らすということも示されています。 根拠(15)(16)
適度な運動を行ったり、ストレスを避けたりして、肥満にならないようにする ★4 信頼性のある臨床研究によって、肥満は子宮体がん発生のリスクになることが確認されています。肥満の度合いとリスクの度合いも相関があるのではないかといわれています。 根拠(17)(18)
とくに更年期以降は、専門医による定期的な子宮体がんの検診を受ける ★2 定期的な検診は専門家の意見や経験から支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ランダ/ブリプラチン(シスプラチン) ★3 手術後に上記の薬を単独あるいは併用して用いる化学療法(抗がん薬)の効果に関しては、議論が盛んに行われているところです。 根拠(12)(9)~
アドリアシン(塩酸ドキソルビシン) ★3
エンドキサンP(シクロホスファミド) ★3
タキソール(パクリタキセル) ★3

ホルモン療法薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ヒスロンH(酢酸メドロキシプロゲステロン) ★2 子宮体がんの再発のリスクを下げるためにホルモン療法薬を用いることは、専門家の意見や経験から支持されています。ヒスロンHとプロベラ/ヒスロンは同じ成分の薬ですが、ヒスロンHはプロベラ/ヒスロンの40~80倍の分量で、抗がん効果があります。 根拠(13)(14)
プロベラ/ヒスロン(酢酸メドロキシプロゲステロン) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

子宮体がんの治療は、手術で病巣を切除する

 子宮体がんの治療では、子宮の切除、あるいは必要に応じてリンパ節や周囲の臓器を切除する外科手術をお勧めします。

 手術で周囲の臓器をどこまで摘出するのか、リンパ節はどの場所のものを切除するのか、などは、がんがどの場所にどれほど広がっているかによって決定されます。

 手術で完全に取り除けるうちにがんを見つけることができれば、5年生存率が高くなります。

不正出血などに注意し、早期発見に努める

 早期発見のためには、不正出血やおりものの異常に気づいたら、できるだけ早く婦人科医を受診するべきです。

 ただし、子宮頸がんのように、定期的な検診が子宮体がん患者さんの治癒率を高め、生存期間を延長させるかどうかは、わかっていません。

放射線療法は再発リスクを下げる

 信頼性の高い臨床研究によって、手術後に放射線療法を行うと、再発のリスクを下げるという効果が確認されています。がんの大きさ、広がり、患者さんの全身状態などを考慮して、可能な場合には放射線療法を行います。

術後の化学療法は最新の研究を参考にする

 手術後の化学療法の効果については、これまでのところ決定的な結論は得られていません。

 精力的に研究が行われている分野ですから、最新の研究結果などについて主治医から十分に説明を聞き、治療を受けるメリット、デメリットを考えたうえで決めるとよいでしょう。

進行がんでも放射線療法や化学療法+手術で生存期間を延長させる

 手術で取りきれないほどがんが広範囲にできている場合にも、がんの大きさをできるだけ小さくして放射線療法や化学療法を行えば、生存期間が延びるとの研究結果があります。切除療法のなかには、完全にがんを取り除くためだけでなく、そのような目的で手術が行われる場合もみられます。

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根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行