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喉頭がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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喉頭がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 喉頭は、いわゆる「のどぼとけ」に位置して音声を発する器官です。空気の通り道(気道)でもあり、食べ物が気管内に入らないようにする機能もあります。喉頭がんが進行すると、これらの喉頭の機能に障害を引きおこします。

 典型的な初期症状は嗄声(声のしわがれ)です。50歳以上で2週間以上嗄声が続くようなら、くわしい検査が必要です。ただし、がんが大きくなるまで声に異常がおこらない場合もあります。のどがいがいがする感じがする、飲み物を飲み下しにくい、声門が狭くなって息苦しいなどの症状もみられます。痰に血が混じることもあります。

 早期に発見すれば声を失うことなく治癒が期待できます。手術により喉頭を摘出する方法を選んだ場合は、発声ができなくなるので、食道を使って発声をする練習をしたり、人工喉頭を設置したりする必要があります。喉頭を摘出しても、食べ物は以前と同じようにとることができます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 喫煙と飲酒が喉頭がんの発症に深く関係していて、患者の90パーセント以上が喫煙者です。嗄声は自分で気づきやすい症状ですので、異常に気づいて耳鼻咽喉科を受診し、比較的早く発見されることが多いようです。このため、喉頭がんの40~50パーセントは、米粒大程度の比較的小さながんのうちに発見されています。

病気の特徴

 発生率は人口10万人に対し約3人です。60歳以上の人に多く、9割以上が男性です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
放射線療法を行う ★3 早期(I期~II期)のがんに対する効果が、大規模な臨床研究によって確認されています。早期がんでは9割前後の5年生存率が得られています。 根拠(1)
喉頭温存手術を行う。 ★4 早期~中期(I期~III期)のがんに対する効果が、臨床研究によって確認されています。喉頭温存手術には内視鏡切除術、経口的切除術、喉頭部分切除術、喉頭亜全摘術があり、レーザーを用いた手術は早期がん(I期)に対する有効性が、信頼性の高い臨床研究によって確認されており、放射線療法および喉頭の部分切除と同等の効果があることが明らかにされています。喉頭全摘術に比較して発声や嚥下の機能が保てる可能性が高いですが、実施する場合は、対象となる患者さんの年齢、全身状態、職業(声を使う仕事など)病気の進展度などを慎重に考慮する必要があります。 根拠(2)~(6)
手術で喉頭を全摘する ★3 早期~進行(II期~IV期)がんで、特に声門をこえて軟部組織へ腫瘍浸潤がみられる場合、喉頭全摘の効果が、臨床研究によって確認されています。 根拠(7)~(9)
放射線療法と化学療法を組み合わせる ★4 進行がんに対し、放射線療法単独と、放射線療法と化学療法の組み合わせを比較した臨床研究では、後者が、患部の再発率や、再発までの期間延長に対して効果があったと報告されています。しかし、全体の生存率では差がないという報告もあります。また、喉頭温存を強く希望する患者さんに対し、標準的な手術+放射線療法を施行する場合と、化学療法+放射線療法を施行して効果がなかった患者さんに手術を行う場合を比較すると、後者が生存率の点でやや劣ると報告されています。後者は喉頭が温存できるかもしれないという利点がありますが、生存率に関してわずかながらリスクは高くなるといえます。 根拠(10)~(13)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)またはパラプラチン(カルボプラチン)+5-FU(フルオロウラシル)+タキソテール(ドセタキセル水和物)またはタキソール(パクリタキセル) ★5 この3種類の抗がん薬を組み合わせて用いた患者さんの群と用いなかった患者さんの群を比較したところ、用いた患者さんの群では、手術後に放射線療法や下顎切除を必要とする率が減少し、生存率も改善したという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(11)(13)~(15)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

喉頭がんは比較的早期に見つかりやすい

 喉頭がんの典型的な初期の症状はしわがれ声です。ほかのがんに比べ、初期の自覚症状がはっきりしているためか、喉頭がんでは、40~50パーセントの患者さんが米粒大程度の比較的小さい、早期に発見されています。早期に発見すれば声を失うことなく治癒が期待できます。

早期であれば、放射線療法、レーザー、手術に差はない

 喉頭がんが早期であれば、放射線療法、レーザー、それに手術的な部分切除などの治療法の間に、はっきりとした効果の差があることを示す臨床研究はないようです。

 手術には、がんを体内から取り去ってくれるとのイメージが強くあるために、患者さんは同じような有効性なら、放射線療法よりも手術を選んでしまう傾向があります。しかし、発声に大きな影響を与える喉頭の部分切除は慎重に考える必要があり、治療を受ける病院の過去の治療成績を知ったうえで、よく相談して決めるべきでしょう。

専門医の豊富な経験を生かし、患者さんの希望を入れた判断を

 同様に、中等度の広がりをみせているがんでは、放射線療法あるいは手術による摘出という選択肢がありますし、進行がんでは、本人の体力や併発疾患の有無、喉頭の温存をどれくらい強く希望するかなどを十分考慮して、手術と放射線療法、化学療法の組み合わせを決めます。がんの広がり方によっては過去の患者さんのデータがほとんど役立たない場合もあり、主治医の専門医としての豊富な経験をベースに、個人の希望をうまく取り入れた臨床判断が求められます。

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根拠(参考文献)

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  • (3)Peretti G, Piazza C, Cocco D, et al. Transoral CO(2) laser treatment for T(is)-T(3) glottic cancer: the University of Brescia experience on 595 patients. Head Neck. 2010; 32:977.
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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)