肺がんマーカー執筆者:昭和大学病院医学部医学教育推進室教授 高木 康/昭和大学横浜市北部病院病院長 田口 進

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医師が使う呼び方:シフラ→「シフラ」、SCC→「エスシーシー」=squamous cell carcinoma(扁平上皮がん関連抗原)の略SCCから、NSE→「エヌエスイー」=neuron specific enolase(神経特異エノラーゼ)の略NSEから、ProGRP→「プロジーアールピー」=Pro-gastrin-releasing peptide(ガストリン放出ペプチド前駆体)の略ProGRPから、SLX→「エスエルエックス」=siaryl Lewis X-i抗原の略SLXから

肺がんマーカーの基準値

肺がんマーカー基準値
シフラ3.5ng/ml(EIA法)
SCC1.5ng/ml(EIA法)
NSE10ng/ml
ProGRP46pg/ml
SLX38U/ml

肺がんマーカーと肺がん

 肺がんのマーカーとしては、シフラ(サイトケラチン19)とSCC(扁平上皮がん関連抗原)、NSE(神経特異エノラーゼ)、ProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)、SLX(シアリルSSEA-1抗原)が測定されています。

 肺がんは、組織学的には扁平上皮がん、腺がん、小細胞がんに分類されますが、シフラとSCCは扁平上皮がん、NSEとProGRPは小細胞がん、腺がんにはSLXが特異的とされています。

シフラ(サイトケラチン19)

 サイトケラチンは、上皮性細胞に広く存在しています。そのうちの19フラグメントは、正常でも上皮細胞にごく微量存在しますが、肺(気管支)とくに扁平上皮がんで大量かつ高率に検出されます。

 しかし、肺がん以外でも咽頭炎、気管支炎、肺結核、皮膚疾患、慢性肝疾患、腎不全などでも検出されるので、臨床解釈には注意が必要です。

SCC(扁平上皮がん関連抗原)

 SCCは当初、子宮頸(けい)がん患者の組織から分離・精製されましたが、肺や頭頸部、食道などの扁平上皮がん患者の血清中に、高濃度に存在することが確認されました。子宮頸がんや肺がん、頭頸部がん、食道がん、皮膚がんで検出されるとともに、これらの良性疾患でも検出されます。

NSE(神経特異エノラーゼ)

 NSEは、神経組織や神経内分泌細胞に特異的に存在するエノラーゼ(蛋白の一種)で、組織の腫瘍化に伴って血液中に上昇します。

 肺がんや神経芽細胞腫、膵がんで上昇します。肺小細胞がんでは60~80%が陽性となり、非小細胞がんでは10~20%の陽性率ですが、陽性の場合は予後が不良です。

ProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)

 ProGRPは小細胞がん細胞内で産生され、血中に放出されます。肺小細胞がんの特異的なマーカー(35~75%)として検査されます。肺の大細胞がんや扁平上皮がんでも陽性(10~20%)になります。

SLX(シアリルSSEA-1抗原)

 SLXは、ムチン型糖鎖蛋白で、胎生期に形成される気管支腺細胞に存在します。肺がん(腺がん)で陽性となるほか、気管支炎や肺線維症、気管支拡張症、肺結核でも陽性になります。

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疑われるおもな病気などは

  • シフラが上昇する病態

  • ①肺がん:扁平上皮がん>腺がん、小細胞がん

  • ②その他のがん:食道がん、咽頭がん、膀胱がん、子宮頸がん、胃がん、大腸がん、膵がん、前立腺がん

  • ③良性呼吸器疾患:咽頭炎、気管支炎、肺炎、肺結核

  • ④その他の良性疾患:胃潰瘍、皮膚疾患、慢性肝炎、腎不全

  • SCCが上昇する病態

  • ①肺がん:扁平上皮がん>腺がん、小細胞がん

  • ②その他のがん:子宮頸がん、頭頸部がん、食道がん、皮膚がん

  • ③良性疾患:呼吸器疾患、婦人科疾患、頭頸部疾患、消化器疾患

  • NSEが上昇する病態

  • ①肺がん:小細胞がん>扁平上皮がん、腺がん

  • ②神経内分泌腫瘍:神経芽細胞腫、インスリノーマ、甲状腺髄様がん

  • ③膵がん:膵島がん

  • ProGRPが上昇する病態

  • ①肺がん:小細胞がん

  • ②腎不全

  • SLXが上昇する病態

  • ①肺がん:腺がん>小細胞がん、扁平上皮がん

  • ②呼吸器良性疾患:細気管支炎、肺線維症、気管支拡張症、肺結核

出典:四訂版 病院で受ける検査がわかる本 2014年7月更新版