出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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劇症肝炎
げきしょうかんえん

劇症肝炎とは?

どんな病気か

 劇症肝炎とは、急性肝炎のなかでもとくに重症のもので、高度の肝機能不全と意識障害(肝性脳症または肝性昏睡と呼ぶ)を特徴とします。

 日本では、表1表1 劇症肝炎の診断基準に示すような診断基準に従って劇症肝炎を診断します。

表1 劇症肝炎の診断基準

 診断するうえでの重要なポイントは、肝炎様の症状(発熱、かぜ様症状、倦怠感、食欲不振など)が現れてから8週(56日)以内に肝性脳症(意識障害)が現れること、高度の肝機能不全を表す血液生化学検査であるプロトロンビン時間が40%以下を示すことです。

 さらに、肝性脳症の出現までの日数により、2つの臨床病型に分けています。すなわち、10日以内に肝性脳症が現れる急性型、11~56日以内に肝性脳症が現れる亜急性型です。

 このように2つの臨床病型に分けたのは、両者の最終的な予後(生存するか、死亡するか)が異なることが最大の理由です。実際に、内科的な救命率(肝移植例を除く)は急性型50%、亜急性型20%です。また、原因により救命率は異なります(図3図3 原因別にみた劇症肝炎の内科的救命率(2003~2007))。

図3 原因別にみた劇症肝炎の内科的救命率(2003~2007)

原因は何か

 ウイルスと薬物(アレルギー)が主な原因です。自己免疫性によるものも、まれにみられます。

 ウイルスには、肝炎ウイルスと肝炎ウイルス以外のウイルスがありますが、劇症肝炎の原因としては肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型)がほとんどです。日本ではB型肝炎ウイルスによるものが多い状況にあります。図4図4 劇症肝炎例の原因別頻度(%)に日本の劇症肝炎の原因別頻度を示しましたが、今なお原因不明な例も多く認められます。

図4 劇症肝炎例の原因別頻度(%)

 なお、既知のウイルスが陰性で薬物なども否定された場合を、非A非B非C型と呼んでいます。最近、E型肝炎ウイルスによる劇症肝炎例も報告され、いずれも海外渡航歴のない国内に在住する人からの発病として話題になっています。非A非B非C型の場合には検索が必要です。

症状の現れ方

 劇症肝炎に特徴的な症状は肝性脳症(意識障害)ですが、初期症状は通常の経過をたどる急性肝炎と何ら変わりはありません。前述したように発熱、かぜ様症状、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などが最初に現れ、尿の色が濃くなって黄疸に気づくようになります。

 意識障害出現までの日数はさまざまで、急性型と亜急性型がありますが、急性型のうち、肝炎様症状に続いて2~3日で出現する場合を超急性型と呼んでいます。

 亜急性型ではあまり症状がなく、徐々に黄疸や腹水が増加したあとに、急に意識障害が現れることもしばしばみられます。

 肝性脳症の程度は、昏睡度分類(表2表2 肝性脳症の昏睡度分類)に従って判定します。昏睡II度になると誰が見てもわかるようになり、興奮状態やせん妄状態となり、体動が激しくなります。しかし、昏睡I度の判定は専門家でも難しい場合があります。

表2 肝性脳症の昏睡度分類

検査と診断

 血液生化学検査では、肝機能検査、腎機能検査、血液凝固検査が行われます。とくにプロトロンビン時間の測定は必須ですが、肝臓で合成される蛋白質(凝固因子も含む)や脂質の状態を反映する検査項目(アルブミン、コリンエステラーゼ、コレステロール)、ビリルビン抱合能(総ビリルビンと直接型ビリルビンとの比)、ヒト肝細胞増殖因子も重要な検査項目です。

 血清トランスアミナーゼ(AST[GOT]、ALT[GPT])は肝機能障害の指標として有名ですが、劇症肝炎の診断には役立ちません。また、原因を探るために肝炎ウイルスマーカーも検査します。

 各検査値は、どの時点で医療機関を受診したかで異なりますが、急性型と亜急性型では肝性脳症発現時の肝機能検査値に違いがみられます。

治療の方法

 劇症肝炎の内科的治療法を表3表3 劇症肝炎の内科的治療法に示しました。基本的には、肝性脳症の改善を図り、破壊された肝細胞が再生されるまで人工肝補助(血漿交換など)を行い、合併症(腎不全播種性血管内凝固症候群、感染症、脳浮腫)の発生を防ぐことが重要です。

表3 劇症肝炎の内科的治療法

 人工肝補助は、肝細胞の広汎な壊死および肝機能の低下によって体内にたまった中毒性物質(アンモニアなど肝性脳症の原因となる物質)の除去と、不足した必須物質(凝固因子など)を補充することを目的としています。

 原因ウイルスが明らかな例では、抗ウイルス療法も行われます。

病気に気づいたらどうする

 肝性脳症が出現したら、ただちに血漿交換などの人工肝補助療法を開始しなければなりません。

 また、明らかな意識障害がなくても、先に述べた肝機能検査で著しい異常を認めた場合には、劇症肝炎へ移行する危険性があることを考え、肝臓専門医と相談しながら治療を行い、できるだけ早期に総合的な治療が可能な医療機関へ移送することが大切です。

 急性肝炎の重症型(昏睡I度以内でかつプロトロンビン時間が40%以下を示す例)が劇症肝炎に移行する頻度は約30%です。

(執筆者:岩手医科大学医学部内科学講座消化器・肝臓内科分野教授 鈴木 一幸)

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コラム劇症肝炎とウイルスの遺伝子型

岩手医科大学医学部内科学講座消化器・肝臓内科分野教授 鈴木一幸

 劇症肝炎の原因となる肝炎ウイルスのなかで、A型、B型およびC型についてはウイルスの遺伝子型と病態との関連が検討されています。ここではB型肝炎ウイルス(HBV)についての話題を紹介します。

 HBVの遺伝子型(サブタイプ)は、現在のところA~Hの8つに分類され、これらの遺伝子型の世界的な地域分布には特徴があります。

 遺伝子型AとDはヨーロッパおよび地中海沿岸流域に広く分布し、日本を含む東アジアではBとCが中心です。Eは西アフリカが中心で、Fは南米で、Gは米国とフランスで分離同定されています。

 日本に多い遺伝子型BとCについても、沖縄や東北地域を除く他の地域(本州)では大部分がCであり、沖縄ではBが半数以上を占め、東北地域がその中間を示します。

 最近の研究により、これら遺伝子型の違いが肝病態の進行と密接に関連していることが明らかとなってきました。B型劇症肝炎についても遺伝子型が調べられていますが、多数例で検討した成績は少なく、地域性もあるため、どの遺伝子型が劇症肝炎を起こしやすいかは明確ではありません。一般的には、劇症肝炎では遺伝子型Bの割合がCよりも多い傾向にあります(図5図5 HBVキャリアとB型急性肝疾患患者におけるHBV遺伝子型の頻度)。

図5 HBVキャリアとB型急性肝疾患患者におけるHBV遺伝子型の頻度

 なお、慢性肝疾患では遺伝子型CがBよりも多いです。

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