有機リン剤中毒
ゆうきりんざいちゅうどく
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有機リン剤中毒とは?
どんな中毒か
有機リン剤は、動物の神経機能を麻痺させる殺虫剤で、40種類以上あり、最も多用されている農薬です。農村地帯では、除草剤と並んで中毒死の主な原因物質で、その剤型は乳剤、水和剤、粉剤、粒剤と多様です。
主に誤用、服毒で体内に入ります。有機リン剤は体内でアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と結合し、その分解酵素としての作用を阻害します。その結果、コリン作動性神経終末にアセチルコリンが過剰に蓄積するため、さまざまな中毒症状が発生します。
症状の現れ方
縮瞳(瞳孔が小さくなる)、発汗、流涎(よだれ)、筋れん縮といった特徴的な症状に加え、血清および血球のコリンエステラーゼ活性が著しく低下することから、臨床症状だけでも診断できる代表的な中毒です。重症の場合では徐脈、呼吸障害、肺水腫、昏睡となり、死亡します。
大量服毒の場合、中毒症状は数分から数十分後までに現れ、急速に悪化しますが、治療によりいったん改善した症状が、数日~2週間後に再燃して長引く遅発性中毒の存在が知られています。
治療の方法
治療は、初期の徹底的な消化管洗浄に加え、解毒剤としてヨウ化プラリドキシム(PAM)が用いられます。対症療法としては、硫酸アトロピンの投与と呼吸・循環管理が重要です。
有機リンはAChEと反応してAChEの活性を阻害しますが、これにPAMを反応させるとリン酸残基が取り除かれ、AChEは活性を復活します。しかし、時間が経過するとリン酸残基の脱アルキル基化が起こり、PAMはもはやリン酸残基と反応しなくなります。この現象をエイジング(aging)といい、速度は有機リン剤の種類によって異なります。
強毒性のパラチオンは48時間後でもほとんどエイジングが進まないのに対し、現在の有機リン剤の主流である弱毒性のフェニトロチオンやマラチオンは、24~48時間でエイジングがほぼ完了します。すなわち、PAMは強力な拮抗薬ですが、服毒から処置までの時間に制限があり、フェニトロチオン、マラチオンでは24時間以上経過するとほぼ無効となります。
一方、アトロピンは有機リンが代謝・排泄されるまでの対症療法的な拮抗薬です。初期の徹底的な消化管洗浄、適切な解毒薬の投与、人工呼吸管理などのため、重症の場合は集中治療室に収容します。
なお、透析や血漿交換が有効との報告がありますが、有機リン剤は組織への移行性が高く、とくに脂肪組織には血液の100倍以上の濃度で存在することから、いわゆる生物学的半減期も極めて長くなります。そのため、これらの血液浄化療法が有効とは考えにくいといえます。
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有機リン中毒に関連する可能性がある薬
医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、有機リン中毒に関連する可能性がある薬を紹介しています。
処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。
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大塚糖液5%(100mL)
糖類剤
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水溶性プレドニン10mg
副腎ホルモン剤
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ソル・コーテフ注射用100mg[注射剤]
副腎ホルモン剤
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メドロール錠2mg
副腎ホルモン剤
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コートリル錠10mg
副腎ホルモン剤
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プレドニゾロン錠1mg(旭化成)
副腎ホルモン剤
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ブドウ糖注50%PL「フソー」
糖類剤
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オルガドロン注射液1.9mg
副腎ホルモン剤
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デカドロン注射液1.65mg
副腎ホルモン剤
・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。
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コラムダイオキシン
ダイオキシンとは
ベンゼン核を2つもつ特定の塩素化有機化合物の総称で200種以上の物質が知られ、最近ではポリ塩化ビフェニール(PCB)も含め、ダイオキシン類と呼ばれています。最も毒性の強いのが2、3、7、8-テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)で、混合物の毒性は各ダイオキシンのTCDDとの毒性比の総和(TEQ)で表されます。
ダイオキシンの歴史
かつての汚染源は農薬製造時の副産物でしたが、ヒトへの影響は不明でした。その後、1962~1972年のベトナム戦争で使用した枯葉剤で奇形児の増加が指摘され、動物実験でも証明されています。1976年にはイタリア・セベソの農薬工場の爆発事故で4万人以上の市民が極めて大量の曝露(最大血中濃度が一般人の1万4000倍)を受けています。その後、動物実験で発がん性も証明され、またすべての燃焼過程で発生すること、とくに都市ゴミや廃棄物の焼却が一般環境を汚染することもわかり、各国は厳重に規制を行っています。
ヒトへの健康影響
動物実験から疑われている健康影響には、急性中毒、慢性中毒、発がん、生殖毒性(催奇形性)、免疫毒性、肝毒性など多くのものがあります。
急性中毒では、モルモットのダイオキシンの急性中毒量は青酸ソーダの6万倍とされていますが、大量曝露を受けたセベソの小児でも、急性中毒は顔の塩素痤瘡(ニキビ)以外にはみられていません。
その他の毒性については、ダイオキシンの大量曝露を受けていた3つの集団、すなわち農薬の製造従事者、ベトナム参戦の米国軍人、セベソの住民延べ13万人について、曝露後15~50年の調査が行われています。幸いにして、すべての病気の総和の長期死亡率では19の報告のうちひとつを除いて有意の増加はありません。
ヒトの発がん性の調査では、26調査のうち6調査でのみ、しかもそのなかで通常の100~1000倍以上の曝露群で、かつ曝露後20年以上でのみ、がん死亡が1・4倍でした。
その他、ダイオキシンの催奇形性、免疫毒性、肝毒性、ホルモン異常については多くの調査でも明確な異常はみられていません。生殖毒性について、セベソの調査で、大量曝露事件のあと数年間、生まれた子どものほとんどが女児であったという報告がありますが、同様の日本や台湾での油症の調査では、このようなことはみられていません。
最近注目されているのが、胎児の時の曝露が生後の生殖機能や甲状腺異常に影響する可能性、すなわち環境ホルモン作用です。日本の調査では母乳中のダイオキシンと乳幼児の身体発育、甲状腺機能、精神発達、免疫機能との間に関係はみられませんでした。
かつて猛毒で最強のヒト発がん物質といわれたダイオキシンですが、幸いに母乳中の濃度も世界すべての国で過去30年にわたって一貫して低下し、約5分の1~2分の1になっています。いたずらに恐れることなく、正しい情報を入手し、疑わしきものは予防対策を立て、調査研究の結果で判断していくのが最善だと思います。
なお、日本でのダイオキシンの耐容1日摂取量(TD1)は詳細な動物実験の結果に10倍の安全率をかけて、4pg/kg/日とされています。ほとんどの人の摂取量はこれ以下ですし、少しぐらいこの値を上回っても、ただちに影響がみられるというものではありません。
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