出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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救命・応急手当の基礎知識執筆:筑波メディカルセンター病院救急診療科医長 上野幸廣

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症状別応急手当

 頭や胸などの痛みや嘔吐など、突然おこるさまざまな症状に対して、速やかに手当を行って症状の悪化や苦痛の軽減をはかり、命を守ることが大切です。原因となる病気などの解説は「症状からみた病気」や本論をみていただくとして、ここでは急を要する主な症状別に、その対処と手当のしかたをみていきます。

頭がとても痛い

(1)いちばん楽な姿勢をとらせ、衣服をゆるめる。

・頭を動かさないようにして安静を保つ

・冷たいタオル、氷嚢、蓄冷剤などで頭を冷やす

・口のなかに何か入っていたら出させる

・励まして落ち着かせ、安心させる

・寒がるなら毛布などをかけ、暑がらない程度に保温する

・飲み物や食べ物は与えない

(2)医師に連絡し、指示をあおぐ。

(3)状態をよく観察する。

・秒単位で発症した(発症した時間が「○時○分○秒だった」といえるほど急激に発症した)頭痛

・今まで経験したことのない強い頭痛

・意識がおかしい

・吐き気・嘔吐がある

・麻痺

・けいれん

・呼吸の乱れ

・目の痛み、視界のぼやけ

・行動異常

・歩行障害

・失禁

 など、ひとつでもあれば、すぐに119番に通報する

・吐いた物が見えたら横向きに寝かせ、反応のある傷病者の場合では吐き出すように指示する。特別な異物の除去は行わない

(4)意識がない、または非常に反応が鈍くなってきたら、心肺蘇生法を救急車が来るまで続ける。

呼吸がとても苦しい

(1)いちばん楽な姿勢をとらせ、衣服をゆるめる。

・息苦しさが増すので、あお向けに寝かせないこと

・座ぶとんなどをあて、上半身を高くすると呼吸が楽になることがある

・寒くない程度に窓をあけ、換気をよくする

・口のなかに何か入っていたら出させる

(2)背中を前に押す感じでさすりながら、落ち着かせる。

(3)状態が落ち着いて呼吸が楽になったら早めに医師に連絡。

(4)状態をよく観察。

・意識が混濁している

・脈が弱くなっている

・痛いところがある

・手足が冷たい

・顔色が青ざめている

・唇や手足が紫色になっている

・冷や汗をかいている

・息苦しそうな表情をしている

 など、ひとつでもあれば、すぐに119番に通報する

(5)意識がないか、または非常に反応が鈍くなってきたら、心肺蘇生法を救急車が来るまで続ける。

胸がとても痛い

(1)すぐに119番に通報する。

(2)意識の有無を調べる。

(3)意識があるなら衣服をゆるめ、本人のいちばん楽な姿勢をとらせる。

・座位または半座位にして、座ぶとんや枕などを背中にあてがうと楽になる。呼吸が困難になるので、あお向けに寝かせない

・寒がるなら毛布などをかけ、暑過ぎない程度に保温する

・不安がらないように元気づけ、落ち着かせる。不安は発作を悪化させる

・食べ物や飲み物を与えない

・口のなかに何か入っていたら出させる

・吐きたいなら吐かせ、薄い塩水か水でうがいをさせる

(4)意識がない、または非常に反応が鈍くなってきたら、心肺蘇生法を救急車が来るまで続ける。

おなかがとても痛い

(1)膝を立てて、あお向けに寝かせる。

・低い枕をし、クッション、または座布団などを折ってあてがうと楽になる。これが苦しいなら、いちばん楽な姿勢をとらせる

・急におこる嘔吐が考えられるため、顔を横に向けておき、吐瀉物による窒息を防ぐ

・吐きたいなら吐かせ、薄い塩水か水でうがいをさせる

・水や食べ物を与えない

・浣腸は使わない

・痛みが治まったら、しばらく安静にして落ち着かせ、早めに受診する

(2)状態をよく観察。

・激しい痛みが続く、または短時間でぶり返す

・吐いても痛みが治まらない

・おなかがふくれ上がる、または板のように堅くなる

・血便があり、右下腹部にしこりがある

・腟から出血している(女性)

・全身状態が悪化する(ショック症状)

 →顔面蒼白、冷や汗、めまい、失神、息切れ、意識朦朧など、ひとつでもあれば、すぐに119番に通報する

(3)意識がない、または反応が非常に鈍くなってきたら、心肺蘇生法を救急車が来るまで続ける。

けいれんをおこした

(1)二次的なけが、やけどなどの事故を起こさないように、まわりにある危険物を取り除く。

※重要注意点

・ひきつけの最中に、いきなり抱いて動かさないこと

・無理に押さえつけない

・大声で呼んだり、ゆすったりしない

・水をかけたりしない

・無理に口をこじあけて、ハンカチやスプーンなどを入れない

(2)衣服をゆるめ、顔を横向きにして寝かせる。

・部屋をやや暗くする

・熱があるなら、氷嚢や蓄冷剤などで冷やす

・吐いた物が見えたら、反応のある傷病者の場合は吐き出すように指示する。特別な異物の除去は行わない

(3)けいれんが数分で治まったら、しばらく様子をみて、早めに病院へ。

(4)状態をよく観察。

・5分以上、けいれんが続く

・短時間にけいれんを繰り返す

・熱がないのにけいれんしている

・体の片側が強くけいれんしている

・白眼をむいたり、眼つきがおかしい

・意識がない、朦朧としている

・治まったあとも意識が朦朧としている

・嘔吐を繰り返す、吐瀉物をつまらせる

・麻痺がある

 など、ひとつでもあれば、すぐに119番に通報する

(5)意識がない、または非常に反応が鈍くなってきたら、心肺蘇生法を救急車が来るまで続ける。

血を吐いた

 血を吐く場合には、吐血と喀血があります。吐血は食道や胃・十二指腸などからの出血で、真っ赤または暗赤色、コーヒーかすのような色の血を吐きます。喀血は気管支や肺からの出血で、咳込みながらまっ赤な血を吐きます。

(1)大量の出血なら、ただちに119番に通報する。

・少量でも、あとで大出血する怖れがあるので、すぐに医師へ連絡し指示をあおぐ

・トイレなどで吐いた時は、流さないようにする。救急隊員に出血の量を見てもらうと、医師の治療の参考になる

(2)衣服をゆるめ、顔を横向きにして静かに寝かせる。

・出血に動揺せず落ち着いて手当する

・再び吐くことに備え、洗面器を用意しておく

(3)背中をさすりながら、たまっている血を吐き出させる。

・喀血の場合はなるべく咳をさせ、吐き出させると呼吸が楽になる

・吐き終えたら、薄い塩水か水でうがいをさせる

・吐いた血を飲み込まないように呼吸を整えさせる

・再び血を吐かないように話をさせない

・吐いた物は、すみやかに片づけ、本人に見せないようにする。吐いた物は取

 っておき、あとで医師に見せる

・汗が出ない程度に毛布などで保温する

・のどが渇くなら、氷の小片をガーゼに包んで含ませる

・医師の診断があるまで飲食は禁止、うがい程度にする

(4)意識がない、または非常に反応が鈍くなってきたら、心肺蘇生法を救急車が来るまで続ける。

※感染予防のため、血液には直接触れないこと。できればゴム手袋やビニール手袋を使用する。

嘔吐した(吐いた)

(1)背中をさすって、吐きたいだけ吐かせる。

・水や薄い塩水を飲ませると、吐くのが楽になる

・吐いた物は手早く片づけ、薄い塩水か水で口をよくすすがせる。吐いた物が周囲にあると、また吐き気を誘うので、注意する

・吐いた物は取っておき、あとで医師に見せる

(2)衣服をゆるめ、吐瀉物で窒息しないよう、顔を横向きにして寝かせる。

・再び吐くことに備え、洗面器を用意しておく

(3)嘔吐が治まったら思い当たる原因をたずね、少しでもおかしいと思ったら医師に連絡。

(4)状態をよく観察。

・嘔吐が止まらない

・頭痛、めまいがある

・麻痺がある

・胸が痛い

・激しい腹痛が続く

・呼吸の状態がおかしい

・意識が混濁している

 など、ひとつでもあれば、すぐに119番に通報する

(5)意識がない、または非常に反応が鈍くなってきたら、心肺蘇生法を救急車が来るまで続ける。