転換期を迎えた変形性膝関節症の薬物治療

[ニュース・トピックス] 2013年9月11日 [水]

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「国民病」となりつつある変形性膝関節症

(画像はウィキメディアより)

 階段の昇り降りや正座などの際に膝にぎこちなさや痛みを感じることは、高齢者や肥満傾向の人ではありがちな症状です。これらの多くは変形性膝関節症という病気です。
 膝の関節部分では歩行時などに軟骨同士が摩擦を起こしてすり減っていきますが、若いときは成長ホルモンの作用で軟骨の状態が修復されます。しかし、高齢になるとホルモンの分泌低下などで修復機能が低下し、軟骨のすり減りが進行し続けることで、最終的に膝が変形して痛みや腫れが生じます。これが変形性膝関節症で、最悪の場合、歩行そのものが困難になることもあります。
 厚生労働省の「介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会」(平成20年)の報告書によると、国内で自覚症状を有する変形性膝関節症患者は1000万人、潜在患者は3000万人と推計しています。いわば日本国民の約4人に1人がこの病気の可能性があり、ありふれた病気と言っても過言ではありません。

アセトアミノフェンの役割は低下

 加齢が大きな原因とはいえ、変形性膝関節症は早期の運動療法や薬物療法で日常生活に支障のない範囲に症状をとどめることが可能です。
 2013年5月にアメリカ整形外科学会は、2008年に初めて作成された変形性膝関節症治療ガイドラインの改訂を行いました。改訂のポイントは、これまで初期の薬物治療で使われていたアセトアミノフェンという薬剤の使用推奨度を引き下げたことです。
 ガイドラインでは各治療の推奨度を根拠データの質が高く、メリットが十分期待できる「Strong」、根拠データの質はそれほど高くないが、潜在的なリスクよりはメリットが上回るものを「Moderate」、治療効果が限定的な「Limited」、根拠データが不十分でリスクとメリットのバランスが不明確なものを結論に達していないという意味の「Inconclusive」で分類しています。
 今回、アセトアミノフェンは以前の推奨度「Moderate」から「Inconclusive」に引き下げられました。この理由は新たな評価の結果、アセトアミノフェンとプラセボと呼ばれる偽薬の服用を比較した唯一の研究で明確な有効性が確認されなかったからです。
 変形性膝関節症の薬物治療では、従来からアセトアミノフェンとともに非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)などが使用されていましたが、NSAIDsは服用すると胃が荒れることがあるため、アセトアミノフェンは頻繁に使用されてきました。
 今後この傾向は変化すると思われ、この改定の影響で国際関節病学会(OARSI)の変形性膝関節症診療ガイドラインでもアセトアミノフェンの推奨度が引き下げられる可能性が高まっています。(村上和巳)

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