動きながら治し、予防するのが基本です
[変形性膝関節症と生活] 2015年1月13日 [火]
歩いて、病気の進行を防ぎましょう
「膝(ひざ)の痛みは、実は動かすことでやわらぎます。どんどん歩いたり動いたりしてください」――といっても、今現在激しい痛みを抱えている患者さんには、すんなり信じてもらえないことが多いのですが、これは事実です。
変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)の痛みの原因になっているのは、さまざまな原因からおこる関節軟骨の摩耗(まもう)です。関節軟骨は、膝にかかる負担を吸収するクッションの役割や膝の動きをなめらかにする役割を果たしていますが、関節軟骨には血管がありません。つまり、関節軟骨には血液によって栄養や酸素が運ばれることはないのです。では、なにから栄養を得ているかというと、関節液です。
関節液が浸透していくことで関節軟骨に栄養が供給されます。しかし、関節を動かさずじっとしたままでは関節液を十分に浸透させることはできません。関節軟骨に十分な栄養を補給するためには、関節を動かすことで、関節液を関節軟骨にしみ込ませることが不可欠なのです。ある程度の力(負荷)を与え、動かすことが元気な関節を保つことにつながります。
変形性膝関節症では、症状によっては痛みや炎症をコントロールすることが必要となりますが、歩いて動かして、これまでの生活をなるべく続けることが症状を軽減させ、進行や再発を防ぐ基本となります。
関節を動かすことで関節軟骨に栄養が補給されます

有酸素運動の習慣は効果的な予防法です
前章でも治療法の一つとして運動療法を紹介していますが、それらの運動を継続しながら、さらにウオーキングなどを習慣にするのも、悪化予防としては効果的です(※1)。
ウオーキングの目的として、膝関節そのものへの影響も考えられますが、全身への影響も期待できます。ウオーキングは運動の種類でいうと、有酸素運動に分類されます。有酸素運動とは酸素を体内に取り込みながら比較的ゆっくりと行う運動のことです。全身の血行をよくする、血管の老化を防ぐ、心肺機能を高める、余分な脂肪を燃やし筋肉をつけるといった効果が認められています。このような全身への影響が、この病気の原因となっている老化を遅らせることや肥満を解消することに結びつくのです。
お勧めできる有酸素運動には、ウオーキングのほかに水中運動(水泳・アクアビクス・水中歩行など)や自転車こぎ(サイクリング・自転車エルゴメーター)があります。ジョギングも有酸素運動の一種ですが、膝への衝撃が大きいので、この病気の人には向きません。
有酸素運動と無酸素運動の違い
有酸素運動 | 無酸素運動 | |
---|---|---|
酸素を体内に取り込みながら、長時間ゆっくりと行う運動。すぐには疲れにくい。 | 特徴 | 酸素を必要とせず、短時間に行うきつい運動。すぐに疲れやすい。 |
脂肪を燃やす。 | エネルギーの生み出し方 | 糖質(グリコーゲン)を燃やす。 |
・ウオーキング ・自転車こぎ ・エアロビクス ・水中運動 ・長距離走(ジョギング)など |
おもな運動 | ・筋力トレーニング(スクワット、腕立て伏せなど) ・ダンベル体操 ・短距離走 など |
変形性膝関節症の患者さんには、有酸素運動がお勧めです。
ただ歩くだけでは効果は得られません
有酸素運動のなかでもウオーキングは特別な道具もいらず、手軽に始められるのではないでしょうか。しかも、ウオーキングによって膝の痛みがやわらぐことを示す研究報告もあります(※2)。
ウオーキングをすることで症状や痛みを抑えることができます

ただし、特別な道具がいらないといっても靴の選び方には注意が必要ですし、手軽とはいえ、始める前に知っておきたいポイントがいくつかあります。
漫然と歩くことと、ウオーキングとは違います。まず、心構えとして、運動効果を狙(ねら)い、目的意識をもって歩くことを意識してください。正しい姿勢で歩くことも大切です。あごを引いて胸を張り、腕を大きく振りながら、歩幅は広めにとり、うしろ足を強くけり出すように、リズミカルに歩きましょう。また、水分補給や、日中であれば紫外線対策が必要です。少し息が上がるくらいのペースで、1日20~30間程度、できれば週に3回行うのが望ましいでしょう。
ウオーキングのポイント

なにより継続することが重要ですが、膝の痛みや腫(は)れがひどいときは無理をせず、歩いている途中でめまいがしたり、冷や汗が出たり、胸が苦しくなったりしたときも、歩くのをやめていったん休みましょう。
水中運動は浮力が味方し、安全で効率のよい運動です
プールのある施設に出かける必要がありますが、水中運動もこの病気の人にはとても適した運動です。水中運動を行うと、膝の痛みや運動機能などが明らかに改善したという報告があります(※3)。
水泳やアクアビクス(水中で音楽に合わせて行うエアロビクス)もありますが、泳げる泳げないにかかわらず手軽に始められるという点で、水中歩行がお勧めです。
転ぶ心配もなく、地上でのウオーキングよりむしろ安全といえます。また、浮力が味方するぶん、膝への負担は軽くなり地上より楽に体を動かすことができます。さらに、水の抵抗力が働くため(地上の空気の抵抗力と比べると20~40倍)、地上と同じことを行っても呼吸量が多くなり、水中のほうが有酸素運動としての効果(持久力を養う、脂肪を燃やす、心肺機能を高めるなど)は高まります。
ただし、地上で行うウオーキング以上に姿勢が重要となりますので、始める際には理学療法士やインストラクターの指導を受けるようにしたほうがよいでしょう。
水の深さは、胸からおへその間程度、25mプールであれば、最初の運動量の目安としては、ゆっくりと前向きに歩いて反対側に着いたら十分に呼吸を整えてからまた歩く。これを繰り返しながら、15~20分くらい歩きましょう。慣れてきたら、1往復(50m)ごとに休憩をとるようにし、さらにうしろ歩きや横歩きを組み合わせたり、プールサイドにつかまってバタ足運動を追加したりするのもよいでしょう。回数は、最低週1回、できれば週2回以上定期的に行うと効果的です。
水中運動にはいろいろな利点があります
安全性 | ・転ぶ心配がない。 |
---|---|
体への負担 | ・浮力があるため、地上より楽に体を動かせる。 ・水中で立っている姿勢は体への負担が少ない。 |
効果の高さ | ・水の抵抗力は地上の空気の抵抗力の20~40倍にもなるため、有酸素運動としての効果が高い。 |
新陳代謝 | ・水は空気の20 倍も熱を伝えやすいため、水中にいるだけで多くのエネルギーを放出することになる。そのため、新陳代謝が活発になる。 |
ウオーキングなどの地上での運動に比べると、水中運動には上記のような利点があります。水中歩行、水泳、アクアビクスなどの種類がありますが、泳げなくても手軽に始められる水中歩行がお勧めです。
自転車こぎはほかの運動よりも膝への負担が少ない運動です
自転車こぎは、ほかの運動に比べて膝関節にかかる力が弱いため、変形性膝関節症の患者さんにお勧めの運動です。膝への負担が少ないので、運動に伴う急な痛みもなく、全体的な痛みや運動機能、歩行速度などが改善することがわかっています(※4)。
自転車こぎには、一般的な自転車を使う方法(サイクリング)と、自転車エルゴメーターという機械を使う方法があります。自転車エルゴメーターは家庭用の機械を入手するか、設置されているスポーツ施設で行う必要がありますが、サイクリングとは異なり、ペダルの負荷や回転数などを調整することで、強度を自由に変えられるという利点があります。低強度でも、症状の改善効果は高強度と同等なので、運動に慣れていない人や体力に自信のない人は低強度で行うとよいでしょう。
(※1)Kover PA,Allegrante JP,MacKenzie CR,Peterson MGE, Cutin B,Charlson ME : Supervised fitness walking in patients with osteoarthritis of the knee. Ann Intern Med 1992 ; 116 : 529-534
【概要】痛みと機能障害のある102人の変形性膝関節症の患者さんに、ウオーキングを8週間行う群と行わない群に分けてランダム化比較試験を行いました。結果、ウオーキングを行った群では痛みや関節炎が悪化することなく、運動機能の改善がみられました。
(※2)Ettinger WH Jr, Burns RM, Messier SP et al : A randomized trial comparing aerobic and resistance exercise with a health education program in older adults with knee osteoarthritis. JAMA. 1997 Jan 1; 277(1): 25-31
【概要】変形性膝関節症と診断された、痛みと動かしにくさのある60 歳以上の439 人の患者さんに対し、有酸素運動を行う群と筋力トレーニングを行う群、健康プログラムの講習のみの群に分けて運動療法を18 カ月間指導し、単盲検ランダム化試験を行いました。結果、運動を行った2群は、健康プログラムの講習のみの群に比べ、歩行機能やその他の運動機能、痛みが有意に改善していました。
(※3)Hinman RS, Heywood SE, Day AR : Aquatic physical therapy for hip and knee osteoarthritis: results of a single-blind randomized controlled trial.2007 Jan;87(1): 32-43. Epub 2006 Dec 1.
【概要】71人の膝または臀部に変形性関節症のある患者さんを、6週間の水中運動を行う群と行わない群に分け、ランダム化比較試験を行いました。結果、痛み、運動機能、QOL(生活の質)、筋力はいずれも水中運動を行った群で有意に改善していました。とくに、痛みや機能の改善は、水中運動を行わなかった群では17 %の患者さんにしか認められなかったのに対し、行った群では痛みは72%、機能は75%の患者さんに改善が認められました。
(※4)Mangione KK, McCully K, Gloviak A, et al : The effects of high-intensity and low-intensity cycle ergometry in older adults with knee osteoarthritis.1999 Apr;54(4): M184-90.
【概要】39人の変形性膝関節症の患者さんに対し、高強度の自転車こぎと低強度の自転車こぎを行う群に分け、それぞれ毎週25分間の自転車こぎを3回ずつ行うランダム化比較試験を行いました。結果、どちらの群も、いすから立ち上がる速度、6分間の歩行テスト、歩行速度、痛みの緩和、有酸素容量について改善がみられました。自転車こぎによる急性の痛みもありませんでした。
(正しい治療がわかる本 変形性膝関節症 平成21年2月28日初版発行)