[増加する大人のADHD] 2014/01/15[水]

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 ADHD(注意欠如・多動性障害)は、不注意または多動性-衝動性の一方もしくは両方のために、学校・家庭・職場などの複数の場面で日常生活に困難を来す発達障害のひとつです。「不注意」とは、集中力が続かない、気が散りやすい、忘れっぽいなど、「多動性」とは落ち着きがない、おしゃべりが目立つ、「衝動性」とは思いつきで行動してしまう、待てないといった形で現れます。こういったことは日常生活を送るうえで誰にでもありえることですが、これらの程度が同世代、同じ発達水準の人に比べて不釣り合いなほど、非常に強い、あるいは、その頻度が極端に高く、そのために生活上大きな支障がある場合にADHDと診断されます。ADHDの症状は、学童期に目立ちますが、その半数は、大人になっても何らかのADHDの症状が認められることがわかっています。そうした成人期のADHDについて、名古屋大学医学部附属病院 親と子どもの心療科准教授 岡田俊先生にお話をうかがいました。

ADHDとはどのような状態でしょうか?

様々な場面で認められる発達水準に不相応な不注意、多動性-衝動性が特徴です。脳の働き方の違いによるもので、努力不足やしつけが不十分なことによるものではありません。


名古屋大学医学部附属病院
親と子どもの心療科准教授
岡田 俊先生

 不注意あるいは多動性-衝動性の一方、または両方に特徴付けられる発達障害の一つです。脳の働き方の違いにより、行動を抑制したり、計画的に物事を進めたり、待つことが苦手であることによって生じます。頑張りが足りない、乱暴だ、しつけが足りない、などと本人の努力不足や家族のしつけが不十分であると誤解されることがありますが、実際はそうではありません。ADHDの子は、失敗が多く、またその失敗で傷つきがちです。その子がその子らしく、伸びやかに成長していくためには、その子の性質を理解し、それに応じた工夫を行うことが大切です。しかし、親御さん自身も、子育てに自信が持てず落ち込んでいたり、いらいらとしてしまって叱ったりしてしまい、本人は心の傷を深め、親御さんも自己嫌悪に陥って悪循環になっていることもあります。ADHDのある子の支援では、この悪循環を解消していく援助をしています。

成人期のADHDにはどのような症状があるのですか?

成人期には、落ち着きのなさよりも不注意の症状が前景にたち、症状が目立ちにくいのが特徴です。

 ADHDのある子が成人しても、およそ半数の人はADHDの診断基準を満たすと言われています。しかし、最近のデータによれば、診断基準から外れた人でも、ADHDの症状で日常生活の困難を来している人は少なくないと言われており、生涯にわたり持続する発達障害としての側面が強調されています。
 不注意、多動性-衝動性により特徴付けられることは、子どもも大人も変わりませんが、大人では落ち着きのなさよりも不注意が前景にたちますし、物事を先延ばしにしてしまい時間管理ができない、感情のコントロールをすることが苦手、リスクを伴う行動を回避することができないといったことが見られます。その人の努力不足や能力の問題と思われがちで、医療機関につながり、診断を受けている人はそのうちのごくわずかと言われています。また、うつ病や不安障害など、その他の精神疾患の症状のために、精神科の治療を受けているが、その後の経過をよく知ると、小さいときからADHDの症状があったことがわかることもあります。
 世界保健機構が作成したスクリーニング尺度は、成人期のADHDの可能性のある人を拾い出すためのツールとして開発されたものです。しかし、この尺度で診断がつくわけではありません。一つ一つの項目は多かれ少なかれ誰でもあることです。その頻度がどの程度なのか、程度がどれくらいで、日常生活に支障があるのか、また小さいときからそのような困難があるのか、他の精神疾患の症状がADHDの症状に似通っているだけではないのか、など丁寧に経過を確認する必要があります。

成人期のADHDはどのように治療しますか?

環境調整や心理社会的治療をおこない、ご自身の特性に応じた工夫を通じて日常生活の支障を軽減していきます。それでも困難が持続する場合には、薬物療法を検討します。

 成人期のADHDは、およそ2.5%の人にあると言われています。しかし、その全員がADHDとして病院に通院したり、薬物療法を受けているわけではありません。もし、その人が成人になってからADHDの症状で困って受診したとすれば、子どもの時からADHDの症状があったとしても何らかの工夫で乗り切ってきたのでしょう。また、大人になって、日常生活のなかで要求される事柄が増えたのかもしれません。あるいは、うつ病など、他の精神的不調が加わって困難が増すこともあります。
 その人が体験してきた苦労と、うまく達成してきた工夫を確認する。そして、より良い工夫を見出していく。例えば忘れ物が多い人は、確認する機会を増やしたり、見落としにくい場所に置くようにする、用事を先送りにしてしまいがちな人は、作業を小分けにして一つずつこなすようにする、言いたいことは時間を置いてから人に伝える、メモ帳やアラームなどをうまく活用するなど、できそうなことから1~2個選び、一定期間取り組んでいきます。このような治療の目的は、自分の特性と折り合い、充実した社会生活が送れるようにすることです。患者さんご自身が生活の中で何が困難かを理解し、対処方法を身につけていくことが重要です。
 環境調整も大切です。日常生活で求められることが増えたことで困難が増している人の場合、その課題は何か、どうすればその課題を乗り越えられるのかを相談するとともに、可能であれば過剰な負担とならないように家族や職場と相談して調整をはかります。
 しかし、このような工夫を行ってもうまくいかないときに薬物療法を併用することになります。薬物療法と、先に申し上げましたような工夫の両方が組み合わさって、よりよい工夫を生み出すことが容易になったり、日常生活の困難が軽減するのです。

ADHDの治療薬にはどのようなものがありますか?

メチルフェニデート徐放錠(コンサータ)とアトモキセチン(ストラテラ)があります。

 ADHDは、脳のなかでドパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の作用が低下しているために起こると言われています。ADHD治療薬はこれらの神経伝達物質の量を増やし、ADHD症状の改善を図ります。
 いずれの薬も子どものADHD治療薬として承認されていますが、成人期のADHDの治療薬としてはアトモキセチンのみが承認されており、メチルフェニデート徐放錠は子どもの時点からこの薬で治療を継続している場合にのみ投与が認められていました。しかし、このたびメチルフェニデート徐放錠も成人期のADHDの治療薬として承認され、治療の選択肢が広がりました。
 ADHDのある人は、さまざまな新しいことに興味をもち、高い動機をもっている事柄についてはすばらしい集中力を発揮する反面、精神的な努力の持続を要するような課題は取り組みにくい傾向があります。個々の活動がうまく処理されているうちは良いのですが、複数の課題に同時に取り組まないといけない状況になると、本来の力が出し切れなかったりします。本人の特性の強さと周囲から求められる課題の難しさとの関係のなかで、その人の困難の度合いが決まってくるといえましょう。
 近視でも同じです。もちろん近視の程度は重要ですが、同時に近視でも困らない生活状況もあれば、眼鏡がなければ困ってしまう生活状況もあります。そのような場合に眼鏡をかけて、日々の活動を送りやすくするのは最も一般的で、有効な方法でしょう。それと同じように、日常で困っていることがあれば、それを改善する工夫を探してみる、それでも改善しなければ、薬物療法によって特性そのものを軽減することは合理的な方法です。もし、ADHDを思わせる症状で困っていても、それがADHDかどうかは本人ではなかなかわからないものです。薬物療法のみが治療ではありません。いま自分が困っていることの原因を明らかにし、それに対する工夫を相談するためにも、精神科を受診してみてもよいのではないかと思います。

岡田 俊(おかだ・たかし)先生 名古屋大学医学部附属病院 親と子どもの心療科准教授

岡田 俊先生

1997年3月 京都大学医学部医学科卒業
2006年4月 京都大学医学部附属病院デイケア診療部助教
2006年6月 京都大学医学部附属病院デイケア診療部院内講師
2010年1月 京都大学大学院医学研究科精神医学分野講師
2011年4月 名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師
2013年4月より現職。
児童青年期精神医学が専門

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