[アトピー性皮膚炎の標準治療] 2014/01/17[金]

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 アトピー性皮膚炎は「かゆみ」と「特徴的皮疹」が6か月以上(乳児では2か月以上)続くことで診断される(日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」)病気で、国内の推計患者数は約37万人(厚生労働省「平成23年患者調査」)いるとされています。QLifeでも、診療科目別の検索ランキングで「皮膚科」が常にベスト3に入るなど、多くの患者さんが、その症状に悩みよりよい治療を求めて情報を収集しています。その一方で、誤った情報により、症状を悪化させてしまったり、医療機関を受診することに否定的になってしまったりする患者さんも少なからずいらっしゃいます。そこでQLifeでは、日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」制定の中心的役割を担っている、九州大学大学院医学研究院皮膚科学教授の古江増隆先生に「アトピー性皮膚炎の標準治療」、そして、患者さんからも実はあまり良くわかっていないという声が多く寄せられる「タクロリムス軟膏による治療」についてお話をうかがいました。

患者さんに最も必要なのは「“全ての”“正確な”医学的情報」による「不安の解消」でした

九州大学皮膚科学教室「アトピー性皮膚炎についていっしょに考えましょう。」
九州大学皮膚科学教室
「アトピー性皮膚炎について
いっしょに考えましょう。」

 「患者さんが安心して治療に向き合えること。それがアトピー性皮膚炎治療の第一歩です」と古江先生は語ります。先生の所属する九州大学皮膚科学教室では、「アトピー性皮膚炎 よりよい治療のためのEBMとデータ集」や最近改訂された「アトピー性皮膚炎についていっしょに考えましょう。」というページを作成されています。本サイトには、アトピー性皮膚炎の治療方法でよく用いられる「ステロイド外用療法」「タクロリムス外用療法」といった抗炎症外用薬による治療法から、「紫外線療法」「漢方療法」「民間療法」に至るまで網羅的に、それぞれの医学的・科学的データやQ&Aなどが掲載されています。「アトピー性皮膚炎の治療に関する情報は、さまざまなメディア上で数多く存在しており、患者さんの多くが“どれを信じて治療すればいいのか分からない”という不安を抱えています。日本皮膚科学会でも、2000年に初めてアトピー性皮膚炎の治療ガイドラインを作成し、薬物療法などによる標準治療を制定したのですが、効果や副作用の心配など患者さんの不安を完全に解消するには至っていません。そこで、患者さんが安心して適正な治療を受けていただけるように、このページを一般公開しました。ぜひご覧いただければと思います」(古江先生)

「正しい標準治療」を受けたことがない患者さんも

九州大学病院皮膚科教授 古江増隆 先生
九州大学病院皮膚科教授
古江増隆 先生

 アトピー性皮膚炎の標準治療について、古江先生は「皮膚の炎症を抑えるために外用薬による薬物治療を行うこと」「丁寧なスキンケアで清潔な皮膚、肌の潤いを保つこと」「症状を悪化させる因子を身の回りから除くこと」の3つを挙げます。炎症を抑える薬物療法には、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏が用いられます。「ステロイド外用薬に不安をもっている患者さんも多いかと思います。ただ多くの不安はステロイド外用薬の強さを理解していなかったり、一回あたりの使用量や塗る回数を遵守していないことから生まれています。例えば、皮膚が黒くなったり、厚くなったりするのは症状に合わせた強さの外用薬を使っていなかったり、必要量を十分に使っていないために皮膚の炎症を抑えることができないせいで起こっています」(古江先生)
 さらに、「アトピー性皮膚炎の治療は、患者さんが日常生活を支障なく過ごすことが第一です。そのためにはさまざまな治療法を行って、もっとも“自分に合う”治療法を見つけることが重要で、決して“標準治療”以外は行ってはならない、という訳ではありません」と古江先生。「ただ、患者さんの中には、標準治療を全く行ったことが無い方もいらっしゃいます。ガイドラインが推奨する標準治療は、大規模な臨床試験により最も有効性があることが確認された療法ですので、数ある選択肢の中心として、考えていただきたいと思っています」(古江先生)

その有効性があまり認知されていない「タクロリムス軟膏」

 また、ステロイド外用薬と同様の抗炎症外用薬であるタクロリムス軟膏についても「多くの患者さんが誤解している部分がある」と古江先生は語ります。ホルモンに作用するステロイド外用薬とは異なり、タクロリムス軟膏は免疫を抑制するお薬で、ステロイド外用薬でみられるような毛細血管の拡張や、皮膚を薄くするなどの副作用はありません。また、タクロリムス軟膏はステロイド外用薬の強さ分類を5段階に分けた場合、真ん中の強さのステロイド外用薬と同じくらいの効果を有しています。よって、症状や使う時期によって、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏を組み合わせて治療することが最も良い方法です。「タクロリムス軟膏の唯一の弱点として、塗った場所がヒリヒリするといったことがあります。ただ、これは3~4日塗り続けると治まりますので、中止することなく、続けていただければ症状は緩和されます。患者さんの中には、タクロリムス軟膏だけで良好な状態を保っている方もいらっしゃいます」(古江先生)

アトピー性皮膚炎の標準的な治療の概念図

九州大学皮膚科学教室「アトピー性皮膚炎の標準治療」をもとにQLife編集部にて再構成

アトピー性皮膚炎の治療には「信頼できる医師選び」と「目標に向かっての根気強い治療」が必要

 「アトピー性皮膚炎は“治す”のではなく“症状を悪化させない”ことが重要です」と古江先生は語ります。「よく『ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏は根本治療では無い。だから意味がない』という意見が見られますが、半分正解、半分不正解といったところでしょうか。確かに、薬物療法は対症療法ですが、皮膚炎が悪化しないようにすることで、日常生活の質を向上させ、さらにそれが薬物の使用量・頻度を軽減させ、自己の治す力ともいうべきものが上向いて病気の治癒を早めてくれます。アトピー性皮膚炎の治療は、その多くが長期戦です。医師と対峙するのではなく、共に治癒に向けて戦う仲間を選ぶ、という気持ちで医療機関を受診してみてはいかがでしょうか」(古江先生)
 アトピー性皮膚炎について、多くの情報を収集することも大切ですが、信頼できる医師とともに、治療目標の設定だけでなく、正しい外用薬の塗り方を教わるなど、長期的な連携を結ぶことも重要です。あきらめたりすることなく、医療機関を受診してみましょう。

古江増隆(ふるえ・ますたか)先生 九州大学病院皮膚科教授

古江増隆 (ふるえますたか)先生

1980年3月 東京大学医学部 卒業
1986年2月~1988年7月 米国National Insititutes of Healthに留学
1988年12月 東京大学皮膚科学講師
1992年2月 山梨医科大学皮膚科助教授
1995年5月 東京大学皮膚科助教授
1997年10月 九州大学皮膚科教授
2002年4月~2004年3月 九州大学病院 副院長兼任
2008年4月~九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センター長 兼任
2011年1月~九州大学医学研究院 副研究院長 兼任
現在に至る

日本皮膚科学会専門医、日本アレルギー学会専門医、日本アレルギー学会指導医

参考サイト

実際に検索された医療機関で受診を希望される場合は、必ず医療機関に確認していただくことをお勧めします。口コミは体験談です。当サービスによって生じた損害についてはその責任の一切を負わないものとします。病院の追加、情報の誤りを発見された方はこちらからご連絡をいただければ幸いです。

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