[これからの花粉症治療] 2013/02/28[木]

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アレルギー性鼻炎の最もつらい症状「鼻閉」

 アレルギー性鼻炎は、日本人のおよそ30%が罹患しているといわれており、今や国民病ともいわれる疾患です。生死に関わる症状ではないものの、特にこの季節は日常生活へ大きな影響を及ぼすことが問題視されています。アレルギー性鼻炎の3大症状は、くしゃみ、鼻水、鼻閉です。鼻閉とは鼻づまりのこと。非常につらい症状でありながらも、患者さん自身が治療の必要性に気づいていないことも多いと言います。
 鼻閉のメカニズムや治療法について福井大学耳鼻咽喉科の藤枝重治先生に、話を伺いました。

放置し、口呼吸を続けると別の病気の引き金となる可能性も

 鼻閉とは、いわゆる鼻づまりのこと。鼻閉には、アレルギー性鼻炎など炎症で鼻粘膜が腫れる「機能的鼻閉」のほかに、鼻中隔弯曲症など鼻の骨の構造に原因のある「構造的鼻閉」、鼻腔内の腫瘍やポリープによる「器質的鼻閉」、鼻は通っているのに鼻づまりや呼吸困難を自覚する「心因的鼻閉」といったものがあります。
 「特に春先の花粉症シーズンはアレルギー性鼻炎による“機能的鼻閉”に悩んでいる人が多く、私どもの調査でもダニなどが原因の通年性、花粉が原因の季節性に関わらず、アレルギー性鼻炎の患者さんの約7割が鼻閉症状に悩んでいることが分かっています」(藤枝先生)
 このように多くの方がその症状に悩んでいる鼻閉。「たかが鼻づまり。口で呼吸できるから大丈夫」と思っていませんか?
 口呼吸は喉の中を乾燥させ、ウイルスや細菌によってかかる病気の危険性を高めてしまいます。さらに、頭痛や集中力の低下が起こるほか、いびきや睡眠時無呼吸症候群が起きやすくなったりします。
 「鼻閉を放置していると、生活の質(QOL)が低下するだけでなく、重症の呼吸障害が長期間続くと心臓に負担がかかり、肺高血圧症や、心不全などの危険な合併症を生じることもあるのです」と藤枝先生は警鐘を鳴らします。

 

※画像クリックで拡大します。

原因は「鼻の中の腫れ」。「鼻水が詰まっている」のではありません

 鼻閉を感じる人の中には「鼻水が詰まっている」と思われている方も多いかもしれませんが、実は鼻水が詰まっているわけではなく、鼻の中が腫れてしまっているのです。
 鼻閉が起きる仕組みは、鼻の中心部にある「下鼻甲介」という場所に関係しています。この下鼻甲介骨には、スポンジのような海面状静脈洞という血管網が表面を取り巻き、さらにその表面を粘膜が覆って、温かい血液と吸い込んだ空気の間で熱交換することで呼気を温めています。この海綿状静脈洞に血液が多く流れ込むと、血管が拡張。それに伴って粘膜が膨張して、鼻の空間が狭くなり、鼻閉症状となるのです。軽いうちは片方ずつ詰まるのですが、悪化すると鼻の両側の粘膜が腫れて空気の通り道を塞いでしまう場合もあります。また、アレルギー性鼻炎の場合は、この血管の拡張に加え、好酸球という白血球の炎症による粘膜の浮腫(むくみ)によって起こります。

鼻閉に一定の効果がある鼻噴霧ステロイド。ところが…

 アレルギー性鼻炎に伴う鼻閉の治療には、抗ヒスタミン薬・抗ロイコトリエンといった経口薬と鼻噴霧ステロイドを組み合わせて使用するのが一般的です。さらに症状が悪くなると、免疫療法、レーザー治療などの手術療法などが用いられる場合もあります。ところが、抗ヒスタミン薬はくしゃみや鼻水に効果を発揮しても鼻閉にはあまり効果がありません。抗ロイコトリエン薬はその逆で鼻閉に強い効果がありますが、くしゃみや鼻水への効き目は比較的弱くなります。
 一般的な治療法の中で鼻閉症状の改善に一定の効果があるのが鼻噴霧ステロイドです。
 「ところが、日本人は鼻噴霧ステロイドが苦手なのです」と藤枝先生は語ります。
 「欧米人と異なり、日本人は鼻の中に何かを注入する、という行動にあまり慣れていません。また、薬剤特有の匂いや完全に鼻が詰まっている時には薬剤が行き届かないなど、適切な治療が行えないケースも多いのです。さらには、アレルギー性鼻炎に悩む人の多くが購入している、市販の鼻噴霧治療薬にも注意が必要です。市販の鼻噴霧治療薬はあまり使いすぎると、効果がなくなり、かえって鼻閉症状を悪化させる危険性があります」(藤枝先生)

抗アレルギー鼻炎薬の特長

(QLife編集部にて作成)

くしゃみ・鼻水・鼻づまりを一度に改善できる画期的な新薬が登場

  • 「くしゃみや鼻水には効くけど、鼻閉には効果が弱い」…抗ヒスタミン薬
  • 「鼻閉には効くけど、くしゃみ・鼻水には効果が弱い」…抗ロイコトリエン薬
  • 「鼻閉には効くけど、鼻噴霧のスタイルが苦手」…鼻噴霧ステロイド

 といった一長一短、まさに“3すくみ”の関係性にあるアレルギー性鼻炎に伴う鼻閉の治療薬ですが、最近ではこれらを解決へと導く可能性のある新しい薬も登場しています。その薬は抗ヒスタミン薬と経口血管収縮薬を1つに配合した薬で、抗ヒスタミン成分が主に鼻水やくしゃみ、鼻づまりを抑制し、血管収縮成分が鼻閉を改善してくれるものです。
 藤枝先生も「これまで経口薬にプラス鼻噴霧ステロイドを処方されていたところが、このお薬ひとつで対応できると考えています。鼻閉症状で苦しむ患者さんにとっても朗報になるのではないでしょうか」と、大きな期待を寄せています。
 さらに藤枝先生は花粉症などの季節性アレルギーの治療について「初期療法が大事」と続けます。
 「自分が症状が出てから病院に行くのではなく、“花粉が飛散しはじめた”というニュースが出たころのタイミングでぜひ病院を訪れてください。そのタイミングから治療をはじめた場合、その効果が高くなることははっきりと調査データにも表れています」(藤枝先生)
 QOLを大きく低下させる原因にもなる鼻閉。“たかが鼻づまり”と軽視せず、まずは医療機関、特に耳鼻咽喉科の受診をし、適切な治療を行うようにしてください。

藤枝重治(ふじえだ・しげはる)先生

福井大学医学部・感覚運動医学講座・耳鼻咽喉科頭頸部外科学教授
1961年12月8日生まれ。福井医科大学大学院卒業後、国立鯖江病院厚生技官耳鼻咽喉科、福井医科大学、アメリカ・カリフォルニア大学などを経て2003年より現職。専門は、鼻副鼻腔疾患、アレルギー、頭頚部がん。

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