心不全に潜む「心アミロイドーシス」とは?
[ヘルスケアニュース] 2023/03/08[水]
両手が手根管症候群となってから10年後に心不全を発症
毎年2月最終日は、「世界希少・難治性疾患の日」(Rare Disease Day:RDD)です。製薬会社のファイザーとRDD Japan事務局はこれに先立ち2月16日、希少疾患である「心アミロイドーシス」の啓発セミナーを開催しました。セミナーでは、心アミロイドーシス当事者の酒井勝利さんと妻の秀子さんが登壇。酒井さんは社会に望むこととして、「心アミロイドーシスが世間に認識される病気になってほしい」と求めました。
心アミロイドーシスとは、「アミロイド」という異常なタンパク質のかたまりが心臓に溜まっていくことで心臓の働きが悪くなる進行性の病気です。心臓が肥大し固くなることで、心不全や不整脈を引き起こします。心アミロイドーシスには、トランスサイレチン型心アミロイドーシスと全身性軽鎖アミロイドーシスの2種類があり、アミロイドのもととなるタンパク質の違いによって名前がわけられています。このうちトランスサイレチン型心アミロイドーシスは、遺伝子変異による家族性・遺伝性のタイプと、遺伝子変異によらず加齢に伴う老人性(野生型)のタイプが存在します。

老人性のトランスサイレチン型心アミロイドーシスの当事者である酒井さんが受診するきっかけとなったのは2015年、外出の際に階段でひどい息切れと倦怠感に見舞われたことだそう。心配になって医療機関を受診したところ、心不全で入院することになったといいます。ところが、遡ること2010年に両手が手根管症候群になって治療した経験があり、「今思えば、それが病気の最初の症状だった」と振り返りました。手根管症候群は、手にしびれや痛みなどの症状が現れる病気です。
老人性のトランスサイレチン型心アミロイドーシスと診断されたときの心境について酒井さんは、「初めて聞く病名で、知識がなく、不安はなかった。なぜ心不全になったのか理解できなかった」といいます。しかし、インターネットで検索するようになり、「病気の理解ができるようになっていった。半年間のうちに大半の論文を読んだのではないかと思うくらい読み漁ったが、治療の情報は少なかった」と話しました。
2016年に心アミロイドーシスを専門とする遠藤仁先生(慶應義塾大学医学部循環器内科)に出会い、通院するようになったという酒井さん。2度目の心不全を起こした後、ペースメーカーを入れ、少し体調が回復したそうですが、2018年に体調が悪化したといいます。「両手首と指が腫れ、物を持つことが困難になったり、まっすぐ歩くことができずどうしても外出するときは車いすを使用したりした」(酒井さん)
酒井さんは2019年より治療薬の服用を開始し、その後3回目の心不全を発症するも、現在はウォーキングやストレッチ、筋力トレーニングなど運動で体力の維持に努めつつ、旅行もできるようになったそうです。最近の体調について酒井さんは、「病気の進行を抑えられていると感じており、平穏な生活を送ることができている」と話しました。
酒井さんは、「有名な病気と同じくらい多くの方が心アミロイドーシスについて理解を深めることができれば、発症初期の段階で適切な治療を受けられるのではないか」との考えを表明。「心アミロイドーシスが世間に認識される病気になってほしい。また、そのほかのさまざまな希少な病気についてもぜひ知ってほしい」と社会への望みを語りました。
患者家族の立場から妻の秀子さんは、「最も大変だったのは塩分管理」だといいます。「減塩生活が長引くと、慣れからつい管理が甘くなってしまう。そうすると足がむくむ、呼吸が苦しいという症状が出てくる。しまったと思う頃にはもう遅くて、入院になったこともある」として、塩分管理の重要性を説きました。
遠藤先生「実際には多くの患者さんが存在する可能性」
酒井さんの主治医である遠藤先生は講演で、「トランスサイレチン型心アミロイドーシスは病気の認知度の低さなどから診断が遅れやすい」と指摘。「心肥大や心不全と診断され、背景にある病気を診断されていない患者さんもいる可能性がある」と話しました。検査法や治療法に課題が多かったことも診断の遅れの一因でしたが、近年では検査法や治療法が進歩し、老人性のトランスサイレチン型心アミロイドーシスと診断される患者さんの数は格段に増加しているといいます。

トランスサイレチン型心アミロイドーシスは現在、希少な病気とされており、国が指定難病に定めていますが、遠藤先生は講演で、「トランスサイレチン型心アミロイドーシスはさまざまな心疾患に紛れている」と強調。「国内の心不全患者数が非常に多いことなどからも、実際には数万人のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者さんが存在している可能性がある」と説明し、疾患啓発の重要性を指摘しました。
これまで希少だと思われていた病気が、検査や治療の進歩により実はたくさんの患者さんが存在しているかもしれないと考えられてきていることに驚きを感じた方も少なくないのではないでしょうか。多くの患者さんがより早く適切な診断を受け、治療に結びつけるように、ますますの医療の発展に期待していきたいものですね。(QLife編集部)
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