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[注目疾患!] 2019/05/20[月]

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内田賢一先生
千葉県脳神経外科 内田賢一先生

脳卒中になり、救急車で病院に運ばれた場合、いったいどのような検査や治療が行われるのでしょうか?
千葉県脳神経外科病院の内田賢一先生におうかがいする「脳卒中最前線」連載3回目の今回は、脳卒中の種類を診断するために行われる検査から、現在行われているいくつかの治療法、そして先生が専門とされている「血管内療法」などについて、詳しく教えていただきました。

――脳卒中で病院に運ばれた場合、治療前にどのような検査が行われるのでしょうか?

一般的には、まず、治療前にCTやMRIによる画像検査と、採血や心電図などの検査を行います。次いで、撮影した脳の画像を医師が評価するわけですが、ここで、脳内出血やクモ膜下出血などの「出血性疾患」なのか、脳梗塞などの「虚血性疾患(血管が塞がって血液が通えなくなった状態)」なのかを正しく判断し、確定させることが非常に重要です。その理由として、治療法が変わるということが挙げられます。出血性疾患の場合、初期治療として血圧を下げますが、虚血性疾患では原則血圧を下げる処置を行いません。

脳卒中で病院に運ばれてきた患者さんは、意識障害や「まひ」などがあることがほとんどです。そのような状態の患者さんが、出血性疾患であるか否かを判断するためには、コンピューター断層撮影(CT検査)が有用です。CT画像の評価で出血を認めなかった場合には、磁気共鳴画像(MRI)検査で脳梗塞の有無を検索するというのが一般的な流れです。

出血性疾患であるクモ膜下出血と診断された場合、出血源を突き止めるために、造影剤を使ったCT検査や血管造影検査などを行います。血管造影検査は、血管に細い管(カテーテル)を通し、造影剤を流しながらX線撮影をする方法です。

また、脳梗塞のうち、「塞栓性脳梗塞」という、脳の太い血管が閉塞した病態と診断された場合には、脳の血管にカテーテルを通して閉塞した部位を突き止めてから、カテーテル治療を行う場合もあります。この治療は私の専門なので、後でまた詳しく説明したいと思います。

このように、複数の検査結果を医師が慎重に判断して、患者さん一人ひとりの治療方針を決定しています。

――最も多く行われるのは、どのようなケースに対するどのような治療でしょうか?

最も多く治療が行われるケースは、脳卒中でも疾患頻度が最も高い「脳梗塞」です。脳梗塞の治療としては、早急に「ペナンブラの救済」を行います。ペナンブラとは、血管が詰まって細くなっているものの、まだ完全に詰まってはおらず、その先にある脳の細胞が死なずに済んでいる領域です。このような詰まりかけの脳血管を、薬やカテーテルで再開通させるのが「ペナンブラの救済」です。「tPA」という血栓を溶かす薬を静脈内に点滴で投与し、詰まった血管を再開通させる治療法を、「tPA治療」と言います。また、ペナンブラ領域では「活性酸素」と呼ばれる、脳にダメージを与える物質も多量に放出されているので、活性酸素を減らす薬の静脈内投与も行います。

――tPA治療について、もう少し詳しく教えてください

tPA治療は、米国立衛生研究所(NIH)の国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)主導で行われた臨床試験で、1995年に予後改善効果が報告されました。この研究は、発症して3時間以内の脳梗塞患者さん624人を対象として、tPAのうち「アルテプラーゼ」という薬で治療を受けたグループと、偽薬(プラセボ)による治療を受けたグループでの、治療3か月後の状態を比較したものです。結果は、tPA治療グループで良い状態を保っていた患者さんが全体の39%だったのに対し、プラセボグループは26%と、tPA治療グループの方が13%多いという、明らかな治療効果が認められました。

「治療効果があった人は、たったそれだけ?」という印象を持たれた方もいるのではないでしょうか?しかし、これだけの人数が薬だけで良くなるというのは、とても画期的なことでした。良くならなかった人の方が多かった理由としては、tPAは出血しやすくなる作用があるので、脳内出血を起こす人がいたり、また、大きな血栓には太刀打ちできなかったりしたことなどが挙げられます。

これらの結果に基づき、アルテプラーゼはその翌年の1996年、世界初の脳卒中治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)に認可されました。その後、カナダ、ドイツ、欧州諸国、アジア諸国でも認可されました。日本では、J-ACTと呼ばれる、アルテプラーゼの国内承認を目指した臨床試験が2002~2004年に行われました。対象は、発症して3時間以内の脳梗塞患者さん103人で、薬の用量は、海外よりも少ない日本独自の用量としました。この試験で良好な結果が得られたのを受け、tPA治療は厚生労働省に認可され、2005年10月から保険適応となりました。

tPA治療の最大のメリットは、CTさえあれば医師1人でも治療が可能なことです。一方で、tPA投与は発症後4.5時間以内という時間制限があります。そのためtPA治療の対象となる患者さんは、脳梗塞患者さん全体の、ほんの数%というのが実情です。しかし、脳卒中の診療技術の進歩に合わせ、2019年3月に、日本脳卒中学会によるtPA治療の指針が改訂され、対象となる患者さんの幅が広がりました。「発症時刻が不明な脳梗塞でも、「MRI-FLAIR」という画像検査を用いて、発症から4.5時間以内と推定できた場合には、tPA治療を行うことが可能」と、変更になったのです。この改訂は、例えば、「朝起きたら手足が動かない」という症状をきたした脳梗塞の人(wake-up stroke)などには、まさに福音と言えるでしょう。

――先生のご専門は血管内治療だとうかがいましたが、それについても詳しく教えてください

脳卒中に対する治療は、医療技術の発展により、まさにパラダイムシフトの真っただ中にあると言えます。その代表的な例として、昔は「開頭手術」を行うしかなかった治療も、今では血管に細い管を通して行うカテーテルの治療で代替できるようになってきました。開頭手術に比べてカテーテル治療は、侵襲性(しんしゅうせい、体へのダメージ)が極めて低いことは、容易に想像がつくと思います。侵襲性が低いだけではなく、カテーテル治療は開頭手術では太刀打ちできないほど、急性期脳梗塞の治療成績が良いのです。私の専門は、カテーテルによる脳血管内治療ですが、ここではカテーテルでの治療でしか行い得ない「血栓回収療法」についてお話しようと思います。

血栓回収療法は、先ほど検査のお話で少し出てきた、「塞栓性脳梗塞」という、脳の太い血管が血栓で詰まったタイプの脳梗塞に対して行う治療法です。この治療法では、血栓を回収するための特殊なデバイスを先端に付けたカテーテルを血栓まで到達させ、取り除きます。特殊なデバイスとは、例えば、血栓を絡め取るための網状の筒(ステント)や、血栓を掃除機のように吸い取って回収する装置などです。

血栓回収療法の効果について統合的に調べた研究論文が、2016年にHERMES共同研究グループという、欧米の共同研究グループにより発表されました。これによると、後遺障害が全く残らなかった人、もしくは職場へ復帰できるまでに回復した人の割合は、治療を受けられた人では26.9%であったのに対し、何らかの理由でこの治療が受けられなかった人では12.9%と、倍以上違うという結果でした。

血栓回収療法は、先ほど検査のお話で少し出てきた、「塞栓性脳梗塞」という、脳の太い血管が血栓で詰まったタイプの脳梗塞に対して行う治療法です。この治療法では、血栓を回収するための特殊なデバイスを先端に付けたカテーテルを血栓まで到達させ、取り除きます。特殊なデバイスとは、例えば、血栓を絡め取るための網状の筒(ステント)や、血栓を掃除機のように吸い取って回収する装置などです。

日本では、2014年に初めて、ステントによる血栓回収療法が日本で行えるようになりました。つまり、血栓回収療法は、まだ始まったばかりの治療なのです。ご存知の方も多いかも知れませんが、日本の首相や野球界のスーパースターなど、塞栓性脳梗塞になった有名人も数多くいます。「もっと前から血栓回収療法が可能だったら、ひょっとすると日本の政治やプロ野球の歴史が変わっていたかもしれないな」と、思うことがあります。

――最後に先生から、脳梗塞の治療について一言お願いします!

これからは、カテーテルの治療か開頭手術かを検討する時代から、どちらが最適の治療なのかを選ぶ時代になっていくと考えています。これは患者さんにとって、大変喜ばしいことでしょう。

脳は一度障害されると、元に戻らない宿命を背負っています。そのため、脳卒中、とりわけ脳梗塞は、「予防」が最も重要な治療と言えます。脳梗塞の予防は、生活習慣の改善です。また、もしも脳梗塞になった場合には、医師の指示に従って薬をきちんと飲み、再度脳梗塞にならないようにすることが重要だと考えます。

脳梗塞の治療は大きく発展してきており、今後もさらなる改善が期待できそうですね。次回は、脳卒中になった場合のリハビリや生活について、お話をうかがいます。(QLife編集部)

【内田賢一先生プロフィール】

千葉脳神経外科病院勤務。脳神経外科専門医、脳神経血管内治療学会専門医、脳卒中の外科学会技術認定医、神経内視鏡技術認定医、臨床研修指導医。2002年に福井医科大学を卒業後、福井赤十字病院、東京警察病院を経て、2013年より中東遠総合医療センター脳神経外科部長。2018年12月より現職。内田先生の個人ブログはこちら

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