第147回 患者さんとともに歩む
[クリニックインタビュー] 2013/03/08[金]
大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。
第147回
一宮メンタルリニック
一宮哲哉院長
「心の動き」への好奇心から精神科医に

学生の頃に一番興味があったのは脳科学でした。脳については漠然と未知の領域という魅力を感じていたのだと思います。最初は文字通り、脳に直接触れることができる脳外科医にあこがれがありました。読書が好きで色々な文学作品などに触れていくにつれ、人間のこころの動きや変化がどうして生まれるのだろうということに強く興味をひかれるようになりました。人の意識や認知、記憶、感情というものを深く知りたいと思い、精神科を選びました。
精神科医となってからは、さまざまな考えの先生方にお教えをいただき、いろいろと影響を受け、精神科医として少しは成長できたかなと感じています。引き続き脳科学にも興味がありましたので、放射線医学総合研究所やスウェーデンのカロリンスカ研究所などで研究にも従事しました。具体的にはPETという検査装置を使って、セロトニンなどの脳内神経伝達機能が、うつ病などでどのように変化しているかという研究や、抗うつ薬が脳内にどのように分布し、どの程度結合しているのかという研究などを行いました。精神疾患の病態生理を明らかにするという非常にレベルの高い研究に従事させていただき、私には過分なことでしたが、研究チームの一員としてベルツ賞という大きな賞をいただきました。こうした研究の経験も、理にかなった薬物の選択など治療を行う上で大変役にたっています。
最近まで近くの大学病院で働いていましたが、もともと開業して自分の思うようにやりたいと考えていたので、2012年7月に前の職場に近い上野・御徒町で開業しました。繁華街に接した賑やかな一角に位置していて、各路線の駅から近い便利な立地ですので、患者さんたちからも通いやすいと評価していただいています。少し離れると上野の森や浅草など下町情緒にあふれる場所で、私自身も良い環境で仕事ができて充実しています。
うちのクリニックには20代から50代の働き盛りの年代の患者さんに多く受診していただいています。基本方針のひとつは「最新の医療情報に基づいた専門性の高い精神医療を提供する」こと。そのために新しい知識を吸収するように努めています。また専門性の高い医療を提供しつつ、患者さんにとってあまり敷居の高い場所にならないよう、気軽に訪れていただけるクリニックにしていきたいですね。
じっくり話しを聞くことで見えてくるもの

精神科や心療内科を受診する患者さんは、自分のつらさをなかなか人に打ち明けられなくて、とことんまで自分ひとりで抱えて、最後に高い敷居を乗り越えて受診しにきてくれる。ですから、少しでもその苦悩を分かち合うことができたらと思っています。代わりにそれを引き受けることはできませんが、少しでも苦悩を軽くするお手伝いができたらなと思います。自尊心が傷ついていたり、自分を受け入れられない方も多いので、苦しんでいる人に対する尊厳をもち、患者さんを尊重することを忘れたくないですね。
同じ「うつ病」でも、育ってきた環境も、抱えている背景も人それぞれで違いますから、症状、その進展、回復の仕方もさまざま。同じ病名だからとひとくくりにせず「ひとりひとり違う」という意識で話を聞いてます。ひとりひとりの患者さんが、本の主人公になるような人生を送っているように感じます。話をしていくなかで「どうして落ち込んだのかな」「どういうところが負担になったのかな」と自分が引っかかったところ、気になったところを聞いていくと、その人の性格や感じ方のパターンなどが見えてきて、どういうことで苦悩しているのかが浮かび上がってくるのです。
主役は患者さん

精神科の治療では、薬ですっきり良くなればそれにこしたことはないんですが、そうもいかず回復が思わしくないとか、維持療法のためとか、長期間の通院が必要なことがよくあります。実際、何年も長くおつきあいが続いている患者さんもたくさんいらっしゃいます。そうした長い治療期間のなかで、患者さんと一緒に歩んでいく「伴走者」のような立場になれたらいいな、と考えています。治療の主役はあくまで患者さんで、歩むのは患者さんなのですが、疲れた時や辛い時にそばで応援できるような存在でありたいと思っています。
患者さんの多くは回復したら仕事に復帰して、これからも長く働いていく人ばかり。今もクリニックでは復職を支援するカウンセリングを個別に行っています。休職後、より円滑に職場に戻ることができるようなサポートをさらに積極的に進めていきたいと考えています。そして、この地に開業したからには、精神科医として何かしら地域に貢献していきたいと思っております。
好きなことを楽しんで自分自身も健康に

開業してから半年は、バタバタと慌ただしく過ぎ去ってしまい、のんびりできる時間もほとんどなかった気がします。以前、スウェーデンに留学した時新鮮に感じたのが、現地の人はみんな運動が大好きということです。老若男女を問わず、仕事帰りや休日に誰もがランニングやウォーキングなど自分のペースで運動を楽しんでいました。留学中は時間がたくさんあったこともあり、その影響で運動不足だった自分も運動する習慣がつきました。今も、時間がある時は近くにある上野の美術館や博物館に行ったり、歴史好きなので、古地図を見て昔の江戸の町を想像しながら散策したりしています。
それからお風呂も好きなのですが、なかなか温泉には行く時間もなく、代わりに銭湯に行ってます。このあたりには昔ながらの古い銭湯が多くて、雰囲気があってすごくいいですよ。
音楽を聞いたり本を読んだりするのも好きですが、なかでも子供の頃から動物の生態を調べるのが好きで、ナショナルジオグラフィックとか、ディスカバリーチャンネルなんかもよく見ます。
まとまりのない趣味ですね(笑)。いろいろ好きなことがあって、その時その時で自分が楽しいと思うことをするのが気分転換になっています。また、そういった時間があることで仕事への意欲が湧いてくるんですよね。これからも、患者さんたちに少しでもお役に立てればと思っています。
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。
一宮メンタルクリニック
医院ホームページ:http://i-mc.jp/
JR御徒町駅、東京メトロ仲御徒町駅、上野広小路駅、都営大江戸線上野御徒町駅の各駅からすぐ。
2012年7月に開業したばかりの新しくて安心できる雰囲気のクリニックです。
詳しくは、医院ホームページから。
診療科目
精神科、心療内科
一宮哲哉(いちみや・てつや)院長略歴

2000年 東京医科歯科大学大学院修了
1997年 針生ケ丘病院精神科
1999年 放射線医学総合研究所
2002年 浅井病院精神科
2004年 日本医科大学精神科 助教
2007年 スウェーデン・カロリンスカ研究所
2009年 日本医科大学精神科 助教
2010年 日本医科大学精神科 講師
2012年 一宮メンタルクリニック開設
■所属・資格他
医学博士、精神保健指定医、精神神経学会認定精神科専門医、日本医師会認定産業医
2009年 ベルツ賞一等賞受賞
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