[クリニックインタビュー] 2013/06/21[金]

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大学病院が医療の最先端とは限りません。患者のこと、地域のことを第一に考えながら、独自の工夫で医療の最前線に取り組んでいる開業医もたくさんいます。そんなお医者さん達の、診療現場、開業秘話、人生観、休日の過ごし方、夢などを、教えてもらいました。

第151回
大塚ブレストケアクリニック
大塚恒博院長

最初は父と同じ消化器外科医に


診察風景(写真提供:大塚ブレストケアクリニック)

 父が消化器外科の医師で、幼少期は病院の中庭に住まいがあったので、物心つく前から医師として働く父の姿をずっと見ていました。昼夜問わず患者さんのために奮闘する父を見て、「大変そうだけど、やりがいのある仕事だな」と思い、子どものころからずっと、自分も医師になろうと思っていました。
 ただし楽観的な性格だったので、高校時代はヘビメタのバンドを組んだりしてけっこう遊んでいました。それで、案の定浪人してしまいまして(笑)「このままじゃまずい」と予備校に通い、1年間必死に勉強して医学部に入りました。
 卒業後は父と同じ消化器外科を選びましたが、研修などで関連病院に勤務する中で、乳がんの患者さんの治療をおこなう機会があり、次第に乳がんの治療に関心を持つようになりました。そのきっかけのひとつに、大学病院などで、患者さんのプライバシーがほとんど守られていなかったことがあります。乳がんの検診や治療に来た人も、風邪の患者さんや男性の患者さんと同じところで待ち、診療を受けます。風邪がうつるかもしれないし、男性の目が気になる方もいるでしょう。これを改善したいと、乳腺に特化した女性のためのクリニックを作りたいと思ったのです。
 ただ当時は今ほど患者数も多くなかったので、そんなクリニックを作ってもやっていけるわけがないと周囲から猛反対されました。でも、乳がんの患者さんはこれからもっと増えるはずだ、女性が安心して検診や治療を受けられる機関は必ず必要とされるに違いないという思いで、8年前に乳腺専門のクリニックを開設。乳がん検診や精密検査、乳がんを始めとするあらゆる乳腺疾患の治療をおこなっています。

女性のために「病院らしくない」空間を目指す


待合室(写真提供:大塚ブレストケアクリニック)

 乳腺専門のクリニックということで、受診するのは女性にとって勇気のいることだと思いますし、緊張もされると思います。そのため、更衣室を個室にするなど、少しでもリラックスしていただけるような配慮をしています。患者さんに安心していただくために「病院らしくない空間」を目指し、内装や音楽、照明なども工夫しているんですよ。
 乳がん検診を受けにくる方は、やはり皆さん、診察室に入ってくるときすごく不安そうなお顔をされていることが多いのです。それに対して、問題ナシという検査結果が出たときにはすごくすてきな笑顔になります。結果が良くなかった方は、そのときはやはり笑顔は見られないのですが、おつきあいを続けるうちに、やがて病気を認め、受け入れて立ち向かっていくようになる。そのときの笑顔もまたすばらしいのです。私たちはそんな女性たちの笑顔を見るために、「女性の笑顔をサポート」をキャッチフレーズに診察にあたっています。

家族に接するような気持ちで患者さんと向き合う

 クリニックでは、「乳腺の家庭医」というスタンスで、乳がん検診から治療、術後のケアまで、ひとりひとりの患者さんの人生に寄り添ったサポートをしていきたいと考えています。
 乳がんはゆっくり進行する病気で、術後10年で再発する方もいるので、最低でも1年に2回はチェックしつつ、10年ぐらいは経過を観察します。10年というと、独身だった方が結婚して出産したり、赤ちゃんだった子どもが大きくなったりと、患者さんの人生のステージも変化します。その中で、例えば患者さんの娘さんが思春期になって胸の張りが気になるといって受診されることがあったり、結婚前に乳がん検診を受けた方が結婚し、出産した後に乳腺炎で受診されたりと、乳がんの検診や治療から、さらにおつきあいが広がっていくこともあります。
 長くおつきあいしていると、だんだんと「患者さん」というより、自分の家族のような気持ちになっていくんですよね。だからこそ、治療が良い方向に向かえば本当にうれしいですし、さまざまな人生のステージごとに、必要なサポートができることにやりがいを感じています。

受診率のアップが女性の健康を守ることに


治療スペース(写真提供:大塚ブレストケアクリニック)

 乳がんの患者さんは、これからも増えていくことが予想できます。理由は、食生活の欧米化などさまざまありますが、問題なのは、罹患率と同時に死亡率も上がっていること。欧米諸国では、罹患率は上がっても死亡率は下がっているのに対し、先進国で日本だけが罹患率に比例して死亡率も上がっています。それは、発見の遅れ、つまり検診の受診率が低いことがいちばんの原因と考えられています。足立区では検診の受診率が12%、全国平均でも20%しかありません。これが30%を超えないと、死亡率は下がらないと言われているので、もっともっと、検診を受けていただくための働きかけが必要で、そのためには自治体や他の医療機関との連携が重要と思っています。
 現在も、クリニックでは区や婦人科の病院等と連携して、定期的に検診のお知らせを送付するなど、受診率を上げるための働きかけをしています。それ以外にも、癌研などのセンター病院や大学病院などで、乳がんの手術を受けた患者さんの術後のフォローを請け負ったり、クリニックで診断した患者さんの手術を依頼したりという医療連携もおこなっています。しかしまだ、施設によってシステムや治療方針が異なるなど、患者さんが困る事態が生じることもあるので、もっと連携を密にして、患者さんがどこにいっても検診や治療が受けられるようにしていくことが課題だと思っています。
 みなさん「自分だけは大丈夫」と思っているようですが、「なぜ?」と聞くと根拠はない。過信して、病気になって、後で悲しい思いをして欲しくないのです。女性ひとりひとりがご自分の体に関心を持ち、検診を受ければ死亡率は下がるはず。そういう時代が訪れることを望み、これからも女性の笑顔を守るために働きかけを続けていきたいと考えています。

取材・文/出村真理子(Demura Mariko)
フリーライター。主に医療・健康、妊娠・出産、育児・教育関連の雑誌、書籍、ウェブサイト等において取材、記事作成をおこなっている。ほかに、住宅・リフォーム、ビジネス関連の取材・執筆も。

医療法人社団 恒聖会 大塚ブレストケアクリニック

医院ホームページ:http://www.breast-tsune.com/

東武スカイツリーライン竹ノ塚駅より徒歩5分。リラックスできる待合室にプライバシーが保たれている更衣室など、
女性への思いやりにあふれるクリニックです。詳しくは、医院ホームページから。
(写真提供:大塚ブレストケアクリニック)

診療科目

乳腺・内分泌外科

大塚恒博(おおつか・つねひろ)院長略歴
1987年 聖マリアンナ医科大学第一外科入局
1993年 同大学付属東横病院外科
1997年 同大学付属横浜市西部病院外科(外科医長)
1998年 医療法人社団三奉会井上病院外科・乳腺外科(外科医長)
2003年 東京都足立区乳がん検診精度管理委員長
2005年 乳腺専門クリニック・大塚ブレストケアクリニック開設
2011年 新クリニックとして現在の場所に移転
(写真提供:大塚ブレストケアクリニック)


■所属・資格他
日本乳癌学会認定医、日本外科学会専門医、マンモグラフィ読影認定医、日本乳癌検診学会評議員


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