自己抗体執筆者:昭和大学病院医学部医学教育推進室教授 高木 康/昭和大学横浜市北部病院病院長 田口 進

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医師が使う呼び方:「じここうたい」

自己抗体の基準値

陰性(-)

自分の体を攻撃する抗体……自己抗体

 私たちの体には、細菌やウイルスなどの微生物や異物が体の中に侵入してくると(これら侵入物を抗原という)、これらに抵抗する物質(抗体という)をつくってこれらを排除し、体を一定の状態に保つ働きがあります。

 これを免疫機構といい、この抗体は普通なら自分の体を攻撃することはありません。しかし、何らかの原因で免疫機構に異常がおこると、自分の細胞成分に対して抗体をつくってしまい、自分の体を攻撃してしまうことがあります。この抗体を〈自己抗体〉といいます。

 自己抗体ができる機序としては、

①今まで免疫組織に抗原として認識されていなかったものが〈非自己〉として認識される

②薬剤や微生物などによって自己組織がかわってしまう

③薬剤や微生物の構造が自己組織に極めて類似していて区別がつかない

 などが考えられていますが、現段階ではすべてを説明することはできません。

自己抗体によっておこる疾患……自己免疫疾患

 自己抗体によって攻撃されておこる疾患を〈自己免疫疾患〉といい、表に示したように数多くあります。

 自己免疫疾患には、多くの人々に自己免疫疾患とは認識されていないものも少なくありません。悪性貧血や1型糖尿病、あるいは特発性血小板減少性紫斑病、潰瘍性大腸炎なども、じつは自己抗体によって発症する自己免疫疾患なのです。

 なお、表の下段に並ぶ全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎(多発性筋炎)、強皮症、関節リウマチなど、全身のいろいろな部位に障害がおこる疾患をまとめて膠原病(こうげんびょう)と呼んでいます。混合性結合組織病、シェーグレン症候群もよく似た症状を示すため、膠原病に含める場合もあります。

自己抗体「陽性」なら、くわしく検査

 自己抗体には、臓器あるいは疾患と極めて密接な関係があるものと、多くの臓器・疾患にも出現するものがあります。表では、上方の自己抗体ほど臓器に限られた疾患に関連し、下方の自己抗体は全身のいろいろな臓器を障害する疾患で陽性となります。

 このため、検査で自己抗体が検出されたからといって、すぐに疾患の診断が可能なわけではなく、他の種々の検査を行って診断がくだされます。

■自己免疫疾患と出現自己抗体
疾患自己抗体
橋本病抗サイログロブリン抗体
粘液水腫抗甲状腺ミクロゾーム抗体
悪性貧血抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体
自己免疫性萎縮性胃炎抗胃壁細胞抗体、抗内因子抗体
アジソン病抗副腎皮質細胞抗体
1型糖尿病抗膵島抗体
重症筋無力症抗アセチルコリン受容体抗体
男性不妊症抗精子抗体
水晶体起因性ぶどう膜炎抗水晶体抗体
自己免疫性溶血性貧血抗赤血球抗体
特発性血小板減少性紫斑病抗血小板抗体
原発性胆汁性肝硬変抗ミトコンドリア抗体
ルポイド肝炎抗平滑筋抗体
潰瘍性大腸炎抗大腸リポ蛋白抗体
シューグレン症候群抗ENA抗体(抗SS-A/SS-B抗体)、リウマトイド因子
関節リウマチリウマトイド因子
皮膚筋炎(多発性筋炎)抗核抗体、リウマトイド因子、抗ENA抗体
強皮症抗核抗体、リウマトイド因子、抗ENA抗体、抗Sc1-70抗体
混合性結合組織病抗ENA抗体
全身性エリテマトーデス抗DNA抗体、抗ENA抗体、抗核抗体、リウマトイド因子、抗Sm抗体

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出典:四訂版 病院で受ける検査がわかる本 2014年7月更新版