出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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新生血管黄斑症、加齢黄斑変性症
しんせいけっかんおうはんしょう、かれいおうはんへんせいしょう

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もしかして... 網膜剥離  近視  加齢黄斑変性症

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新生血管黄斑症、加齢黄斑変性症とは?

どんな病気か

 新生血管黄斑症は、脈絡膜から新生血管(正常では存在せず、新たに発生してくる異常な血管)を生じる病気です。脈絡膜新生血管はほとんどの場合、黄斑部と呼ばれる眼底の中心部で起こります。

 新生血管は血液成分がもれやすい、出血しやすいなどの性質があるため、網膜の下や網膜色素上皮の下に血漿や血液がたまります。網膜の下にたまれば網膜剥離、網膜色素上皮の下にたまれば網膜色素上皮剥離を起こして、網膜の機能が損われます。

 新生血管黄斑症にはいくつかの種類がありますが、代表的なのが加齢黄斑変性症です(図52図52 加齢黄斑変性症)。これは、欧米ではすでに中途視覚障害の原因としては第1位を占めています。日本でも増加傾向がみられることから、今後ますます重要な病気になってくるでしょう。

図52 加齢黄斑変性症

原因は何か

 加齢黄斑変性症は、加齢による網膜色素上皮、脈絡膜の機能低下が誘因となって起こります。そのほかに、原因が不明で比較的若い人に起こる特発性新生血管黄斑症や、強度近視に伴って起こるものなどがあります。加齢黄斑変性症では遺伝子の影響もあるようです。

症状の現れ方

 一般に、症状はゆっくりと現れます。物がゆがんで見える(変視症)、物が小さく見える(小視症)、中心が見えにくい(中心暗点)などが初期には多い症状です。多くの場合、視力も徐々に低下します。

 新生血管が中心から離れていると症状はあまり出ませんが、突然大量の出血を起こしたりすると、急激な視力低下が現れることもあります。

検査と診断

 眼底検査、蛍光造影検査、OCT(光学的干渉断層計)などで診断されます。眼底検査だけでは新生血管を確認することができないことも多く、そのため蛍光造影検査がとくに重要になります。蛍光物質として、フルオレスセインとインドシアニングリーンの2種類が使われます。

治療の方法

 加齢黄斑変性症は人によって重症度や進み方がかなり違います。進まないことも、まれには自然に治ってしまうこともありますが、進行していくことが多い病気です。治療が難しく、特効的な治療法は今のところないといってよいでしょう。治すというより、現状維持、進行を遅らせることに主眼がおかれているのが現状です。

 これまでさまざまな治療が試みられてきましたが、最近では光線力学療法が主流となっています。レーザー網膜光凝固(コラム)も一部の人には有効です。手術(新生血管を取り除く、あるいは網膜を移動する)という方法もありますが、一般的ではありません。

 現在最も注目されているのは、脈絡膜新生血管を萎縮させる薬物(抗VEGF薬)を硝子体に注射する方法で、今後治療の主役になることが期待されています。

病気に気づいたらどうする

 眼科専門医の診断を受ける必要があります。できるなら、ある程度この病気を専門にしている施設、眼科医を受診することをすすめます。この病気は多様で、万能といえる治療法はありませんが、治療の選択肢が増えたことで視機能を改善・維持できるチャンスは確実に大きくなっています。しかし、個々人に応じて最適の治療を行うのはそれほど簡単ではありません。専門的な知識と経験がどうしても必要です。

(執筆者:前帝京大学医学部附属溝口病院眼科教授 河野 眞一郎)

加齢黄斑変性に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、加齢黄斑変性に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム網膜光凝固術の原理と適応

前帝京大学医学部附属溝口病院眼科教授 河野眞一郎

 網膜光凝固術は眼科医がもつ最も強力な治療手段のひとつで、眼科の臨床では広く応用されています。網膜光凝固が広く普及したのは、光源としてレーザー光が実用化されたことが大きな理由です。レーザー光は波長がよく揃っているという特性があり、正確で効率のよい光凝固ができるようになりました。機器も年々改良され、格段に扱いやすくなっています。

 網膜光凝固の原理は、照射された光が吸収されると熱が発生し、組織の熱凝固が生じるというものです。簡単にいえばやけどを作り、それが瘢痕化することでさまざまな治療効果を期待するということです。光を吸収するのは、通常、網膜の外側にある網膜色素上皮ですが(図45図45 レーザー網膜光凝固術の原理)、血管や赤血球を標的にすることもあります。治療効果には、網膜新生血管の予防と退縮、網膜出血・浮腫の吸収促進、水もれを塞ぐ、網膜と網膜色素上皮・脈絡膜の癒着を増強、脈絡膜新生血管の退縮などがあります。

図45 レーザー網膜光凝固術の原理

 網膜光凝固が行われるのは糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、中心性漿液性脈絡網膜症、加齢黄斑変性症、網膜裂孔、網膜剥離、未熟児網膜症、コーツ病、網膜血管腫など実に多種多様です。

 なかでも糖尿病網膜症が最も多く、網膜新生血管(増殖網膜症)の予防・治療、網膜浮腫(黄斑症)の吸収促進と2通りの目的があります。網膜新生血管の予防・治療を目的とするのは他に網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症などがあります。網膜浮腫・出血の吸収は網膜静脈閉塞症、コーツ病、網膜血管腫などでも目的になります。中心性漿液性脈絡網膜症では水もれ部分をピンポイントで凝固します。網膜裂孔、網膜剥離に対する光凝固は網膜の癒着促進が目的です。加齢黄斑変性症では脈絡膜新生血管の退縮が目的で、新生血管を直接凝固します。

コラム新生血管黄斑症に対する光凝固治療の考え方

関西医科大学眼科学教授 髙橋寛二

 光線力学的療法(PDT)、抗血管内皮増殖因子薬(抗VEGF薬)が本格的に導入された現在、加齢黄斑変性をはじめとする新生血管黄斑症に対して、熱性レーザーによる光凝固治療は、最近ほとんど行われなくなりました(図51図51 新生血管黄斑症の治療の模式図)。

図51 新生血管黄斑症の治療の模式図

 EBM(根拠に基づいた医療)の観点から、医学的には黄斑部の中心である中心窩の外にある脈絡膜新生血管(以下、新生血管)に対しては光凝固を行うという適応が今も残っています。しかし、新生血管を破壊する目的で光凝固を行う場合、新生血管だけを破壊することは不可能であり、どうしてもその周囲の網膜の光を感じる組織も熱によって破壊されてしまいます。このため、光凝固を行った部位には絶対暗点というまったく光を感じない領域ができてしまいます。つまり、光凝固は網膜の一部を犠牲にして新生血管を潰す破壊的治療法といえます。

 これに対して、PDTや抗VEGF薬などの新しい治療法は、病巣部の網膜に影響の少ない状態で新生血管を退縮させることが可能な治療であり、網膜に優しい、犠牲の少ない治療法であるといえます。暗点という視機能の損失ができるだけ少ない状態で治療を行いたいという考え方から、本来、中心窩に一致する新生血管のみに適応とされているPDTや抗VEGF薬を中心窩近傍や中心窩外の新生血管にも用いるという報告が出てきています。

 視機能の点だけからいえば、このような治療は理想的ですが、新しい治療にもそれぞれに欠点があります。

 PDTでは、今のところ初めての治療では2泊以上の入院が必要で、5日間、強い光を避ける必要があり、副作用として大出血が起こることがあります。

 抗VEGF薬は眼内への注射(硝子体内注射)がたびたび必要で、注射による副作用(眼内組織の損傷や眼内炎、脳梗塞などの全身の副作用)の危険性が叫ばれています。

 ここでもう一度、光凝固の利点を考えてみましょう。光凝固は、①新生血管を熱で直接凝固破壊するため、完全に凝固できれば新生血管を破壊する力が最も強い、②全身状態を考慮する必要がないシンプルな治療法であり、通院で、しかも短時間で行えるという利点があります。これらのことから、中心窩外の活動性病変をもち、上記のような新しい治療が行えない患者さんには光凝固治療の適応は残っていると思われます。また、治療のオプションとして、光凝固と薬物療法との組み合わせも今後考えていく必要があるでしょう。

コラム光線力学的療法(PDT)

神戸大学大学院医学研究科眼科学講師 本田茂

 光線力学的療法(Photodynamic therapy:PDT)は滲出型加齢黄斑変性症の治療法として、日本では2004年に厚生労働省認可のもと導入されました。光感受性物質(ベルテポルフィン:商品名ビスダイン)を低出力のレーザー光で活性化して活性酸素を発生させ、血管内皮障害を起こすことで血栓形成を誘導し、血管閉塞を引き起こすという原理です。認可と同時に加齢黄斑変性症の第一選択治療として、日本で現在までに4万人を超える患者の治療が行われました。

 近年、抗血管内皮増殖因子療法(抗VEGF療法)が登場すると、欧米における比較対象試験において抗VEGF療法の視力維持・改善効果がPDTのそれを有意に上回ったため、現在欧米でPDTはほとんど行われなくなってしまいました。しかしながら、加齢黄斑変性症の病型が欧米と日本では大きく異なり、欧米には少ない(約10%)とされるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が日本では滲出型加齢黄斑変性症の約半数を占めるまでに多くみられるなど、加齢黄斑変性症の背景に民族特異的な因子が関与している可能性が高いことや、とくにポリープ状脈絡膜血管症へのPDT治療成績が短中期的には良好であることから、少なくとも日本の滲出型加齢黄斑変性症に対するPDTの実績では80~90%の症例で1年後の視力が維持ないし改善することが報告されています。ただし、ポリープ状脈絡膜血管症以外の滲出型加齢黄斑変性症に対する治療効果は、日本においてもPDTよりも抗VEGF療法に分があることが認められ、今後は病型によって治療法の選択あるいは併用がなされていくと予想されます。

 また、最近ではPDTの合併症をより少なくするために、レーザーの照射エネルギーを半量にするreduced-fluence PDTや、レーザーの照射範囲を必要最小限にするためにフルオレセイン蛍光眼底造影ではなく、インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)の結果を元に病変の大きさを決定するIA-guided PDTが行われるようになってきました。

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