出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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ネフローゼ症候群
ねふろーぜしょうこうぐん

ネフローゼ症候群とは?

どんな病気か

 ネフローゼ症候群とは、尿の中に大量の蛋白質が出てしまい、それに伴って血液中の蛋白質が減少するため、浮腫(むくみ)、血液中のコレステロールなどの脂質の上昇等が現れる病気です。

 この症候群は、いろいろな腎臓の病気によって起こり、原因疾患はひとつではありません。腎臓自体に病気が起こりネフローゼ症候群となる一次性(原発性)ネフローゼ症候群(表3表3 一次性ネフローゼ症候群の原疾患とその頻度)と、糖尿病腎症、膠原病、アミロイドーシスなどの全身の病気の随伴症状としてネフローゼ症候群が起きる二次性(続発性)ネフローゼ症候群(表4表4 続発性(二次性)ネフローゼ症候群の原疾患)に分けられます。

表3 一次性ネフローゼ症候群の原疾患とその頻度

表4 続発性(二次性)ネフローゼ症候群の原疾患

 15歳以下の多くは、微小変化型ネフローゼ症候群が原因となりますが、50歳以上になると膜性腎症が原因疾患としてあげられます。

原因は何か

 血液を濾過し尿を作る部分(糸球体基底膜)の障害により、本来もれ出ることのない高分子蛋白質(主としてアルブミン)が尿中にもれ出してしまう状態です。蛋白尿により多くの蛋白質が体内から失われると、低蛋白(アルブミン)血症になります。浮腫の原因としては、尿中に大量の蛋白質が失われることにより引き起こされる、血管内に水分を保つ力(血漿膠質浸透圧)の低下や循環血漿量の増加などが考えられます。

症状の現れ方

 顔や手足にむくみが認められます。時に全身浮腫が著しくなり、胸部や腹部に水がたまる(胸水、腹水)こともあります。尿が出にくくなり、腎機能の障害や血圧の低下を認めることもあります。

 また、ネフローゼ症候群の患者さんの血液は凝固しやすい状況になるので、腎静脈や下肢深部静脈に血栓症を起こすことがあります。

検査と診断

 表5表5 ネフローゼ症候群の診断基準(成人)に示すネフローゼ症候群の診断基準を満たせば、原因にかかわらず本症と診断されます。

表5 ネフローゼ症候群の診断基準(成人)

 尿所見では、一般に大量の蛋白尿が認められます(時に、20g/日以上)。その他、血尿は微小変化型・膜性腎症では通常認められませんが、他の疾患ではいろいろな程度の顕微鏡的血尿が認められます。また、卵円形脂肪体、脂肪変性した腎上皮細胞などが認められます。

 血液検査では、低蛋白血症、低アルブミン血症、高コレステロール血症などが認められます。腎機能は正常から低下例までさまざまです。

 尿中にどのような大きさの蛋白がもれ出ているかをみる検査として、尿蛋白の選択性検査(尿蛋白のIgGとトランスフェリンのクリアランス比)があります。これは、原疾患の鑑別や副腎皮質ステロイド薬による治療への反応性の予測に用いられています。

 一次性ネフローゼ症候群(約70~80%、表3表3 一次性ネフローゼ症候群の原疾患とその頻度)の原疾患の確定診断には、組織の一部を採取して調べる腎生検が必要になります。二次性ネフローゼ症候群(20~30%、表4表4 続発性(二次性)ネフローゼ症候群の原疾患)でも確定診断や治療法を決定するために、やはり腎生検を行うことがあります。

治療の方法

 入院安静が原則です。食事療法では、浮腫に対して水分と塩分の制限を行います。また、蛋白摂取量の制限が推奨されています。

 一次性ネフローゼ症候群での薬物療法としてはステロイド薬が用いられることが多いのですが、その反応性は病型や重症度によって異なります。効果があっても、また再発することもあります。ステロイド薬の投与は長期間になることが多く、糖尿病、感染症、骨粗鬆症、消化性潰瘍、高血圧、精神症状などの副作用に注意します。

 難治性のネフローゼ症候群に対しては、免疫抑制薬を併用することがありますが、骨髄抑制、性腺障害、催腫瘍性などの副作用があり注意が必要です。また、抗血小板薬や、蛋白尿減少作用が認められる降圧薬(アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を投与します。

 二次性ネフローゼ症候群では、基礎疾患に対する治療が優先されます。

 ネフローゼ症候群に伴って出現する続発症の治療として、高脂血症に対しては抗高脂血症薬を投与します。むくみに対しては、利尿薬が用いられます。高度な浮腫、胸水・腹水、末梢循環不全状態に対してアルブミン製剤を使用することがありますが、効果は一時的であり、尿蛋白の増加により腎障害を助長することがあるので注意が必要です。機械を使用して血液濾過を行い、体にたまった水分を強制的に除去することもあります。

 小児の微小変化型ネフローゼ症候群はステロイド薬により90%以上、成人でも約75%が完全寛解(尿蛋白の消失)しますが、約60%には再発が認められます。他のネフローゼ症候群は、一般的にはステロイド抵抗性(あまり効かない)が多く、巣状分節状糸球体硬化症、膜性腎症などでは約70%が抵抗性です。ネフローゼ状態が続けば、徐々に腎機能障害が認められるようになります。

病気に気づいたらどうする

 前述の症状が認められた時はネフローゼ症候群を疑い、子どもは小児科、大人は内科もしくは腎臓内科を受診します。

(執筆者:順天堂大学医学部腎臓内科学助教 淺沼 克彦)

ネフローゼ症候群に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、ネフローゼ症候群に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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順天堂大学医学部腎臓内科学助教 淺沼克彦

蛋白尿は以下のように分類されます。

①生理的蛋白尿(体位性蛋白尿、機能性蛋白尿)

②糸球体性蛋白尿

③尿細管性蛋白尿

④溢流性(腎前性)蛋白尿

 このうち、①生理的蛋白尿は、起立時または立位で背中を後方へ反らす体位をとった時に出現する体位性蛋白尿と、運動・高熱・精神緊張などが原因で発生する機能性蛋白尿があります。これらの蛋白尿は、腎臓の血液を濾過し尿を作る部分である、糸球体の血行動態異常による蛋白の透過性の亢進が原因として考えられていますが、ほとんどが一過性にとどまり、蛋白尿量も1日1・0g以上になることはないとされ、治療の対象になりません。

 体位性蛋白尿の頻度は比較的高く、簡便な検査法としては、就寝前に完全排尿したのち起床時尿と外来時尿とを比較し、前者で蛋白尿陰性、後者で陽性となる場合を体位性蛋白尿と判定します。

 尿蛋白量が1・0g/日以上認められたり、血尿を伴う場合は②の糸球体性蛋白尿のことが多く、腎不全に進行する危険もあるので、専門医での精密検査、経過観察が必要です。

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