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慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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慢性副鼻腔炎(蓄膿症)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 一般に蓄膿症といわれる病気です。鼻腔の周囲にある四つの副鼻腔(前頭洞、上顎洞、蝶形骨洞、篩骨洞という骨に囲まれた空洞)に炎症がおき、それが長期化している状態が慢性副鼻腔炎です。

 通常は、かぜをひいても、原因となる細菌が副鼻腔まで侵入することはありません。しかし、鼻の粘膜や全身の免疫力が低下し細菌の繁殖力が強くなると、感染が副鼻腔までおよび、急性の副鼻腔炎が発症します。かぜの症状に引きつづいて、鼻づまりや黄色や緑色の膿性の鼻汁(鼻漏)がのどに流れるような症状が特徴的です。

 こうした急性の炎症がなんらかの原因で治りきらずに慢性化することがあります。

 副鼻腔の四つのそれぞれの空洞には膿みや滲出液がたまり、鼻腔へつながる連絡路が閉ざされてしまいます。炎症が進むうちに膿みはさらに粘り気を増して、ますます鼻腔から排出するのが難しくなります。

 この状態が長く続くと、鼻茸というポリープができて、頑固な鼻づまりが生じます。

 鼻汁がのどの奥から気管・気管支に流れてせきや気管支炎の原因になることもあります。

 年齢を問わず、長期にわたるせきがおもな症状である場合があります。とくに子どもでは、頭痛や集中力・記憶力の低下などの症状が前面に出ることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 炎症の原因はかぜ、外傷、むし歯などによる細菌感染です。

 鼻腔から副鼻腔につながる連絡路が狭いため、副鼻腔に炎症がおきてしまうと、なかなか治りにくく炎症をくり返し、慢性化することが少なくありません。

 患者さんの側の免疫力が低下したり細菌側の繁殖力が増したりしてくると治りにくくなります。アレルギーや栄養状態が関係しているともいわれています。

病気の特徴

 急性の副鼻腔炎は冬に発症することが多く、気温が低く、乾燥していることが鼻粘膜の防御作用を弱め、感染を招きやすくなると考えられています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
経口の副腎皮質ステロイド薬 ★5 鼻粘膜の炎症や浮腫を軽減する、鼻ポリープを縮小するなどの目的において経口の副腎皮質ステロイド薬の効果が確かめられています。経口の副腎皮質ステロイド薬に続いて最大6週間までの抗菌薬の投与が推奨されています。 根拠(1)~(8)
抗菌薬を用いる ★4 マクロライド系抗菌薬による長期治療が慢性副鼻腔炎の治療に効果があることが、信頼性の高い臨床研究によって確かめられています。 根拠(8)~(14)
副腎皮質ステロイド点鼻薬を用いる ★4 慢性副鼻腔炎に対する副腎皮質ステロイド点鼻薬の効果は、質の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(15)(16)
血管収縮薬(点鼻薬)を用いる ★2 慢性副鼻腔炎に対する血管収縮薬の有効性を示す臨床研究は見あたりません。効果は明確ではありませんが、専門家の経験から鼻づまりなどの症状をコントロールするために用いられることがあります。
アレルギー性鼻炎が背景にある場合は、その治療をする ★5 慢性副鼻腔炎の原因としてアレルギー性鼻炎がある場合には、その治療として抗ヒスタミン薬やロイコトリエン拮抗薬、副腎皮質ステロイド点鼻薬などが用いられます。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(15)~(17)
たまった膿みを排出し、副鼻腔を洗浄する ★5 生理的食塩水などで副鼻腔を洗浄して、たまった膿みを排出させます。これは、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(18)(19)
薬や洗浄では改善しない場合は手術を検討する ★4 薬などによる内科的治療で改善しない場合には、分泌物の排出や換気をよくする通路を形成するために、手術が行われることがあります。最近では、内視鏡的ないしきょうてきな手術が行われます。これは信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(20)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

炎症を抑える薬 マクロライド系抗菌薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ルリッド(ロキシスロマイシン) ★5 これらの薬の効果は非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。また、日本においてはクラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン)の使用も専門科の意見や経験から支持されています。 根拠(12)(13)(14)(8)
エリスロシン(エリスロマイシン) ★5
クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン) ★2

たまった膿みの排出を促す薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ムコソルバン/プルスマリンA/ムコサール(塩酸アンブロキソール) ★2 これらの薬の慢性副鼻腔炎に対する効果を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
ムコダイン(カルボシステイン) ★2

アレルギーを抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
副腎皮質ステロイド薬(点鼻用) リノコート(ベクロメタゾンプロピオン酸エステル) ★5 ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、フルチカゾンプロピオン酸エステル、フランカルボン酸フルチカゾン、フランカルボン酸モメタゾンの効果は非常に信頼性の高い臨床研究で確かめられています。また、塩酸セチリジンの慢性副鼻腔炎に対する効果を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(15)(16)
フルナーゼ点鼻液(フルチカゾンプロピオン酸エステル) ★5
アラミスト(フランカルボン酸フルチカゾン) ★5
ナゾネックス(フランカルボン酸モメタゾン) ★5
抗ヒスタミン薬(点鼻用) ジルテック(塩酸セチリジン) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

黄色・緑色の鼻汁が出て鼻づまりが続いたら耳鼻科へ

 副鼻腔炎は、かぜの原因となる細菌などの感染から移行するのがほとんどです。副鼻腔まで細菌が侵入し、感染が広がってしまうと、鼻腔・副鼻腔の構造上炎症が長引いたり、くり返したりして、慢性化することも少なくありません。

 かぜの症状がおさまっても、頑固がんこな鼻づまりや、黄色や緑色の鼻汁がで続けるようなら、一度、耳鼻科を受診し、正確な診断をすることが必要です。

副鼻腔を洗浄し、膿みを除去する

 副鼻腔炎の代表的な症状はなんといっても鼻閉感、極度の鼻づまりでしょう。これは、副鼻腔の洞内にたまった膿みのために生じるものです。そこで、副鼻腔にたまっている膿みが多くて、粘り気も強い場合には、まず、生理的食塩水などで副鼻腔を洗浄し排膿します。

抗菌薬はマクロライド系を用いる

 さらに、持続的な炎症を完全に抑えるために抗菌薬を用いるのが一般的です。

 長期的に抗菌薬の内服が必要な場合には、エリスロシン(エリスロマイシン)、クラリス(クラリスロマイシン)などが用いられます。

 また、患者さんにとって苦痛の大きい鼻づまりなどの症状をコントロールする目的で、消炎・鎮痛薬や血管収縮薬が一時的に用いられることもあります。また、背景にアレルギー性鼻炎がある場合には、抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイドの点鼻薬なども用いられます。

内視鏡的に通路を形成する

 これらの治療でも効果がみられず、鼻づまりなどの症状が改善しない場合には、手術的に副鼻腔からの分泌物の排出や換気をよくするための通路を形成することもあります。

 最近では、患者さんへの負担がより小さい内視鏡下での手術が行われるようになっています。これらの手術の効果は信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)