手足口病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
手足口病とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
エンテロウイルスの感染による伝染性の発疹症で、おもに子どもにみられ、保育園や幼稚園で集団発生することがあります。
突然、水ぶくれのある発疹が、口のなか、指、手のひら、ひじ、膝、足の裏、お尻にでき、水ぼうそうなどと違ってそれ以外の場所にはでないので、手足口病という名前が付いています。38度前後の発熱や下痢を伴うこともあります。
手足やお尻の発疹は通常はかゆみも痛みも伴いませんが、口のなかの発疹は潰瘍になるため、激しく痛むことがあります。痛みが強く、食事をとりにくくなった場合には、なるべく柔らかく薄味のものをとるようにします。水分の摂取量には、とくに注意が必要で、薄いお茶やスポーツ飲料を少量ずつこまめに与えるようにして、脱水症状をおこさないようにします。
原因ウイルスに対する特異的な治療はありませんが、ほとんどが軽症で、発疹は約1週間で消失し、自然に治ります。
ごくまれに髄膜炎や心筋炎、急性脳炎といった深刻な合併症を引きおこすこともあり、また非常に頻度は低いのですが、死亡例も報告されています。
発疹以外の全身症状が強い場合、たとえば、元気がなく、ぐったりしている、嘔吐や頭痛がある、高熱を伴う、発熱が2日以上続くといった場合には、医療機関の受診が必要となるでしょう。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
コクサッキーA群16ウイルス(CoxA16)とエンテロウイルス71(Entero71)が代表的な原因ウイルスですが、そのほかのエンテロウイルスでも同様の症状が現れることがあります。感染経路としては、接触感染、飛沫感染、経口感染があります。潜伏期間はおよそ3~4日間です。また、おもな症状が消失してからでも、3~4週間はウイルスが便に排出されることがあるので、乳児などの排泄物の取り扱いには注意が必要となります。
病気の特徴
もっともかかりやすい年齢は1~5歳の乳幼児ですが、抗体がなければ、成人にも感染します。毎年、6~9月ごろに流行することが多く、2~3年ごとに大流行がみられますが、原因となるウイルスはその年によって異なります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
かゆみが激しい場合は薬で抑える | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見と経験によって、支持されています。 | |
食事ができない場合は水分を十分に補給する | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、脱水症状などをおこさないように水分を十分に補給することは当然の処置です。とくに口のなかが激しく痛む場合は注意が必要です。 | |
酸味の強い食べ物、高温の食べ物は避け、口当たり・のどごしのよい食べ物をとる | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、口のなかにできた発疹を刺激しないようにするのは理にかなったケアです。 | |
脱水症状が激しければ輸液を行う | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、危険な状態に陥っていれば当然行われる処置です。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
かゆみを抑える薬(抗ヒスタミン薬)
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
レスタミンコーワ(ジフェンヒドラミン) | ★2 | 手足口病の患者さんのみを対象にした臨床研究は見あたりませんが、かゆみが激しい場合は薬で抑えます。 | |
アタラックスP(パモ酸ヒドロキシジン) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
対症療法を行う
原因となるウイルスの増殖を抑制したり、体外への排泄を促したりするための特別な治療法はありません。予防ワクチンも開発されていません。
このため、いろいろな症状や苦痛を軽減することを目的とした処置を行います。
手足の発疹のかゆみには抗ヒスタミン薬を
手足の発疹のかゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬を塗ります。
口のなかに潰瘍ができて、痛みが強い場合には、副腎皮質ステロイド軟膏を塗ることもあります。
食事ができないときには、口当たりのよいものと水分補給を
口のなかの痛みが強い場合には、食事ができなくなります。アイスクリームやプリンなどの口当たりのよいものが勧められるでしょう。満足に食事ができないと、脱水症状をおこしやすいため、薄いお茶、イオン飲料、スポーツ飲料などで、水分を十分とるようにします。どうしても口から水分をとることが困難な場合には、輸液を受けたりするなどして、水分を補給します。
これらはいずれも、臨床的な観察に基づいて行われている対症療法であり、手足口病の患者さんのみを対象にした質の高い臨床研究が行われているわけではありません。
乳児の排泄物の取り扱いには注意を
発疹が消失したあとも3~4週間はウイルスが便に排泄され、感染の可能性があります。乳児の排泄物の取り扱いには注意が必要です。
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根拠(参考文献)
- 現時点では信頼性の高い研究報告は見あたりません。
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行