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肝がん(肝細胞がん)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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肝がん(肝細胞がん)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 肝臓から発生する肝がんのほとんどは、肝細胞に由来する肝細胞がんです。ほかに胆管の上皮細胞からできる胆管細胞がんがあります。また、ほかの臓器にできたがんが転移したものを転移性肝がんといい、頻度的には肝細胞がんや胆管細胞がんより多くみられます。

 肝がん特有の症状はありませんが、病気の初期には上腹部の痛み・不快感、部膨満感腹、食欲不振、倦怠感などの症状がみられます。原因不明の発熱がおこることもあります。

 進行すると黄疸が出たり、腹水がたまったりします。ほかの臓器に転移してはじめて症状が現れることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 わが国の肝細胞がん患者さんのうち約80パーセントがC型肝炎、約15パーセントがB型肝炎によるものです。肝炎ウイルスに感染後、慢性肝炎や肝硬変を経て肝がんとなります。ですから、肝細胞がんはC型肝炎・B型肝炎が進展した最終的な状態ということになります。

 これらの肝炎はいずれもウイルス性で、C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスに感染して発症します。なかでもC型肝炎では、ウイルスに感染して、なにも治療しなかった場合、20~30年で、約5~10パーセントの人で肝細胞がんに進展するといわれています。

 アルコールが直接、肝細胞がんの原因になることはありません。しかし、自覚症状がそれほどないためウイルスの感染に気づかないまま、肝臓に負担のかかるアルコールや薬物などを大量に飲んだことで、肝がんにまで発展した人は多くみられます。つまり、肝炎の段階で治療を行えば、肝細胞がんの発病は予防することができることになります。

 肝がんが発生すると多くの場合、アルファフェトプロテイン(AFP)と呼ばれる腫瘍マーカーの値が上昇します。すでに肝炎、肝硬変にかかっている人は、3カ月に1回程度、血液検査や超音波検査を受けましょう。ほとんどの肝細胞がんの前段階であるウイルス性肝炎の感染源は血液です。過去に輸血を受けたことのある人は感染の有無を調べる検査が必要です。

病気の特徴

 肝がんによる死亡者は年間に3万人を超えています。

 7対3の割合で男性に多く、40~70歳代に多くみられます。発症のピークは50歳代です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
ウイルス性慢性肝炎の患者さんは定期的な検査を受け、肝がんの早期発見に努める ★3 B型の慢性肝炎の患者さんを対象に、肝細胞がんを発見する目的で、AFP(腫瘍マーカー)値の測定や腹部エコーを行い、その有効性を示した臨床研究があります。その報告によると、AFPの感度は64パーセント、特異度が91パーセント、腹部エコーの感度は79~94パーセントでした。ただし、これらの検査をウイルス性慢性肝炎のない健康な人を対象にして行うことは勧められていません。とくに、AFPは妊娠や、慢性肝炎、肝硬変でも上昇するため、感度のいい検査とはいえません。CT検査はエコーで異常があれば行うべきとされています。 根拠(1)(2)
系統的切除術を行う ★4 肝臓をいくつかの区域に分け、系統的に切除します。ベースにある肝障害の程度と腫瘍の大きさによって、生存率に差があることが信頼性の高い臨床研究で報告されています。一般に、肝障害が軽度で、腫瘍径が5センチメートル以下の場合は、長期的に良好な経過が期待できると思われます。 根拠(3)~(5)
肝動脈塞栓術(TAE)を行う ★5 肝動脈を塞ぐことで、がん細胞への血流の供給を断ち、がんを死滅させる方法です。一般に、外科的切除が不能で、ほかの内科的な治療も適応外となる患者さんに対して行われます。腫瘍を縮小させる効果は非常に信頼性の高い臨床研究において認められています。また、最近の報告では、1~2年の生存率の向上が報告されています。 根拠(6)~(9)
経皮的エタノール注入療法(PEIT)を行う ★4 超音波検査でがんの正確な位置を確認し、そこに注射で濃度100パーセントのエタノール(純アルコール)を注入して、がんを死滅させる方法です。5センチメートル以下の腫瘍であれば70パーセントは完全に死滅できることが信頼性の高い臨床研究によって認められています。しかし、肝細胞がんでは局所再発する確率が高いため、適応を見きわめなければなりません。 根拠(10)(11)
ラジオ波焼灼術(RFA)を行う ★4 ラジオ波でがんを加熱し、死滅させる方法です。腫瘍径が3センチメートル以下の肝細胞がんを対象にした場合、ラジオ波焼灼術のほうが経皮的エタノール注入療法より、がんが完全に壊死しやすい傾向がありますが、統計学的には両者の効果に差はないことが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。出血、胸水貯留、胆のう炎などの合併症は、ラジオ波焼灼術のほうでより多くみられます。 根拠(12)
経皮的マイクロ波療法(PMC)を行う ★5 患部に針を刺して、波長の短いマイクロ波を照射し、がんを死滅させる方法です。ラジオ波焼灼術のほうがより少ない治療回数ですんだという非常に信頼性の高い臨床研究があります。しかし、ラジオ波焼灼術と経皮的マイクロ波療法を比較したところ、両者の効果そのものは同等であったと報告されています。 根拠(13)
再発の予防を目的としてインターフェロンを用いる ★2 がんを除去したのちに、再発を予防するためにインターフェロンを用いることが専門家の意見や経験から支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

主に使われる薬 評価 評価のポイント
インターフェロン ★2 がんを除去したのちに、再発予防を目的としてインターフェロンを用いることが専門家の意見や経験から支持されています。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

もっとも確実な治療法は外科的切除

 いずれの治療法を用いても、腫瘍の大きさと数(複数の場所からがんが発生すると考えられています)、肺や脳、骨、副腎などへの遠隔転移の有無により、治療後の経過は著しく異なります。

 現在のところ、遠隔転移がなく、切除可能な場所だけに発生している肝細胞がんにおいては、治癒が期待できる唯一の治療法は外科的切除と考えられます。

経皮的エタノール注入療法なども

 外科的切除以外の治療法としては、超音波ガイド下での経皮的エタノール注入療法(PEIT)、ラジオ波焼灼術(RFA)、経皮的マイクロ波療法(PMC)、血管造影下での肝動脈塞栓術(TAE)などがあり、さらには肝移植も可能なことがあります。しかし、いずれも切除術にまさる効果は明確ではなく腫瘍の大きさや数によって治療後の経過が決定されます。

慢性肝炎や肝硬変があれば、定期検査を

 外科的切除による治癒を可能にするためには、できるだけ早期にがんを発見することが必要です。肝がんのリスクが高い慢性肝炎(B型、C型)や肝硬変の患者さんは、3カ月に1回程度、血液検査と肝臓の超音波検査でチェックを受けるべきです。

放射線療法や化学療法は副作用のほうが大きい

 肝細胞がんについては、放射線療法や化学療法の有効性は示されておらず、副作用による不利益をもたらすのみと考えられています。また、インターフェロンの再発予防の有効性については現在臨床研究が進められていますが、現時点では結論は見極められていません。

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根拠(参考文献)

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  • (11) Livraghi T, Benedini V, Lazzaroni S, et al. Long term results of single session percutaneous ethanol injection in patients with large hepatocellular carcinoma. Cancer. 1998;83:48-57.
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  • (13) Shibata T, Iimuro Y, Yamamoto Y, et al. Small hepatocellular carcinoma: comparison of radio-frequency ablation and percutaneous microwave coagulation therapy. Radiology. 2002;223:331-337.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行