出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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脂肪肝
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脂肪肝とは?

どんな病気か

 肝臓はたくさんの肝細胞の集合体ですが、脂肪滴がたまった肝細胞が全体の1割を超えたら脂肪肝と呼ぶのが一般的です。慢性の脂肪肝は肥満や糖尿病高脂血症などで起こりやすいのですが、従来これ自体は多くの場合無害と考えられてきました。

 しかし、このような変化が一部の人では肝硬変への一里塚となっていることが最近明らかになってきました。このため、今日では、「脂肪肝は万病の元」、「脂肪肝を良性の疾患として見過ごしてはいけない」というのが世界の潮流です。

 他方、急性に発症するものにはライ症候群や急性妊娠性脂肪肝がありますが、いろいろな原因により生じる全身のミトコンドリアの機能不全が原因といわれ、死亡率が高いのが特徴です。

原因は何か

 脂肪肝は、原因により栄養性、内分泌性、代謝性、中毒性に分類されます。慢性の脂肪肝は、食欲不振症のように高度の飢餓状態や、ホルモンの異常、高度の肥満に際して生じます。急性の脂肪肝は、ライ症候群や急性妊娠性脂肪肝などの代謝異常や、アセチルサリチル酸やバルプロ酸などの薬の過剰な服薬で生じます。

症状の現れ方

 全身のミトコンドリア機能不全で生じる脂肪肝では意識障害が生じることが多いのですが、慢性に生じる脂肪肝には通常、自覚症状はありません。

検査と診断

 ライ症候群や急性妊娠性脂肪肝の診断は臨床所見に基づくことが多く、重い病気で死亡率が高いので、すみやかな治療が必要です。

 処方箋を必要としない市販薬(OTC薬:オーバー・ザ・カウンター・ドラッグ)でも、重症肝障害を来すことがあるので注意が必要です。

 慢性の脂肪肝については、腹部超音波検査により肝腎コントラストの増強、深部エコーの減弱などを指標に肝臓の脂肪化を検査します。肝臓の脂肪化が見つかれば、腹部CT検査で肝臓のCT値と脾臓のCT値を測定して肝/脾比を計算し、それが0・9以下であれば脂肪肝と診断します。

 単なる脂肪肝か非アルコール性脂肪肝炎(NASH)(コラム)かを知るためには、肝生検といって、肝臓の組織検査をする必要があります。

治療の方法

 カロリーの制限と運動量の増加が大切です。予後は合併症の有無により大きく変わります。NASH、糖尿病高脂血症高血圧の合併がないかどうかを確認し、飲酒量もチェックしてみます。

病気に気づいたらどうする

 病状の正しい評価が必要です。生活習慣病では合併症が多岐にわたることが多く、診療科を選ぶ場合に混乱が生じやすいので、家庭医に相談して合併症に応じた専門医を紹介してもらうことが大切です。

(執筆者:高知大学医学部消化器内科学教授 西原 利治)

脂肪肝に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、脂肪肝に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラム軽視されていた脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)

高知大学医学部消化器内科学教授 西原利治

 ふた昔前の日本では「脂肪肝は良性で可逆性の変化だから何の心配もいらない」というのが常識でした。では、どうして今日、脂肪肝は諸悪の根元と見なされているのでしょうか。

 飽食の時代を迎えた今日では、脂肪肝は肥満、糖尿病、脂質異常症にしばしば合併するからです。肥満や生活習慣病、インスリン抵抗性という言葉が日常用語となるほどまでに、この20年間で日本人を取り巻く社会環境は大きく変化したのです。大量飲酒者は約240万人いるといわれていますが、そのほとんどが脂肪肝をもっています。そして、飲酒を続けると徐々に肝硬変に進行するのです。

 脂肪肝が諸悪の根元とみなされるようになったもうひとつの理由は、高度の脂肪肝の人は、お酒を飲まなくても、しばしばアルコール性肝障害に極めて類似する重い肝臓病を起こすことが知られてきたからです。ひとたび脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を来すと、10年で2割程度が肝硬変に進むといわれています。今日では成人の1%がNASHを患っていると言われていますので、今日の日本では、生活習慣病あるいはNASHの予備軍として、脂肪肝は無視できない存在になったのです。

 超音波検査で検出可能な程度の「肝臓の脂肪化」は成人の10人のうち3人に見つかります。しかし、この人たちがすべて危険というわけではありません。やはり、肥満が背景にある場合に前記のような病気になりやすいと考えられます。

 肥満の程度を表すにはBMIという指標(体重kg÷[身長(m)の2乗])が用いられることが多く、日本ではBMIが25を超えたものを肥満と定義しています。予防医学の観点からは、予後が良好な「肝臓の脂肪化」と生活習慣病のリスクになる「脂肪肝」とを明確に区別し、症例個々の病態理解に根ざした生活指導や治療が求められています。

 では、NASHを考えるうえで、具体的にどこまでを「肝臓の脂肪化」と呼び、どこからを「脂肪肝」と考えるのが適当でしょうか。

 このためには、脂肪肝の定義が必要になります。しかし、脂肪肝にはつい最近まで統一された定義がありませんでした。歴史的に提唱されてきたのは、脂肪肝とは肝細胞のおおむね1割以上、3割以上、あるいは5割以上に脂肪滴がみられるというものでした。このように、誰も脂肪肝を重要な病気とは考えてこなかったのです。

 検診で脂肪肝といわれたら、運動を始めて体重を3kg程度落とすようにしてはいかがでしょうか。

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