出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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甲状腺腫瘍
こうじょうせんしゅよう

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甲状腺腫瘍とは?

どんな病気か

 甲状腺腫瘍には良性の腫瘍とがんがあります。良性腫瘍のほとんどは濾胞腺腫です。甲状腺がんには乳頭がん、濾胞がん、未分化がん、髄様がんがあり、そのほかに悪性リンパ腫が甲状腺にできることがあります。

 甲状腺腫瘍は、甲状腺の細胞が自律的に増殖してできるものですが、外部から甲状腺が刺激されると過形成を起こして、やはり甲状腺がはれます。しかし、これは腫瘍ではないので、腺腫様甲状腺腫として区別しています。

 乳頭がんは甲状腺がんのなかで最も多いがんです。非常にゆっくりと増殖するがんで、頸部のリンパ節に転移しやすいという性質があるにもかかわらず、命に関わることの少ない予後のよいがんです。リンパ節への転移から乳頭がんに気づくこともあります。

 濾胞がんも予後は比較的よいがんですが、これは血流に乗って肺や骨に転移しやすいという性質をもっています。良性の濾胞腺腫との区別が難しいのが問題です。

 一方、未分化がんの予後は非常に悪く、1~1・5年で95%は死亡しますが、甲状腺がんのなかではまれながんです。

 髄様がんは傍濾胞細胞(C細胞)から発生するがんで、カルシトニンというホルモンを分泌します。同一家系内の多くの人が髄様がんになることがあり、その場合はRETという遺伝子に異常のあることがわかっています。

 悪性リンパ腫は、甲状腺のなかに入っているリンパ球から発生する腫瘍で、放射線や化学療法(抗がん薬療法)によく反応するので、比較的予後のよい腫瘍です。

原因は何か

 甲状腺髄様がんの一部を除いて、原因はまだわかっていません。

症状の現れ方

 予後のよい乳頭がんや濾胞がんでは甲状腺のはれ以外には自覚症状がなく、健康診断やかぜなどで医師にかかった時に偶然に指摘されることがほとんどです。また最近は、頸動脈超音波検査やPET検診の普及によって、偶然甲状腺内に腫瘍が発見されるケースが増えており、この場合は、まったく気がついていなかったということもよくあります。

 一方、悪性度の高い未分化がんでは、甲状腺のはれが急速に大きくなり、痛みや発熱が起こります。さらに進行すると、周囲を圧迫して物が飲み込みにくくなったり、呼吸困難が起こったりします。

検査と診断

 甲状腺がんは、しこりが気管に癒着していて動きが悪いので、甲状腺疾患の専門家なら触るだけでわかることもあります。一般には、超音波断層検査と腫瘍の細胞を注射器で取って調べる穿刺吸引細胞診という検査で診断されます。

 甲状腺のCTやMRI、核医学検査は、さらに腫瘍の性質や転移の有無を知りたい時に行われます。また、家族性甲状腺髄様がんでは血液の腫瘍マーカーを測定したり、がん遺伝子を調べたりすることで、がんが外から触れるようになる前に保因者を発見することができます。

治療の方法

 甲状腺腫瘍を薬で治す方法はありません。甲状腺ホルモンを服用して甲状腺刺激ホルモン(TSH)を抑えておくと腫瘍が小さくなるという考えもありましたが、甲状腺ホルモンが過剰になるために骨粗鬆症が起こるなどの副作用もあり、症例を選んで行われています。

 良性で、とくに甲状腺腫が気にならなければ、そのまま放置しておいてもかまいませんが、時に大きくなったり、濾胞腺腫だと思っていたら濾胞がんであったということもあるので、年に1回は検査を受けてください。

 乳頭がん、濾胞がんの治療は手術が基本で、日本では甲状腺がんのある側の甲状腺と周囲のリンパ節を取り除く手術が行われます。通常は化学療法や放射線療法は行いませんが、肺や骨に転移がある時は甲状腺を全部取り、大量の放射性ヨードを投与すると、がん細胞を破壊することができます。

 未分化がんでは手術や放射線治療、抗がん薬などを組み合わせた集学的治療が行われますが、まだ確実な治療法はありません。

病気に気づいたらどうする

 首のはれが甲状腺に関係するかどうかは一般の医師でもわかるので、まずかかりつけ医に診てもらって、甲状腺腫瘍とわかったら、甲状腺を専門にする外科医の診察を受けてください。

(執筆者:医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部 好文)

甲状腺癌に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、甲状腺癌に関連する可能性がある薬を紹介しています。

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 甲状腺という名前は、西洋の盾のような形をしていることに由来しています。ちょうど蝶が羽を広げたような形をしていて、蝶の羽にあたる部分は右葉と左葉と呼ばれ、胴体にあたる部分は峡部と呼ばれます(図1図1 甲状腺の位置)。

図1 甲状腺の位置

 峡部は靭帯で気管の前面に固定されていて、左葉と右葉が気管を取り囲んでいます。甲状腺は首の前にありますが、男性と女性では位置が違い、男性のほうが女性より低い位置にあります。

 男性の半数くらいでは、甲状腺の位置が低く胸骨の下に入ってしまっていて、首に触っただけではわかりません。その時は嚥下運動をしてもらうと、気管といっしょに甲状腺が上がるので指で甲状腺を触れるようになり、甲状腺腫が見つかることがあります。

 医師が首の診察をしている時に、患者さんにつばを飲んでくださいとお願いすることがありますが、それにはこのようなわけがあるのです。ちなみに、正常な大きさの甲状腺は外からは触れませんし、見えることもありません。

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医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部好文

 甲状腺の手術が必要になる病気の主なものは、甲状腺がんとバセドウ病です。

 甲状腺がんといっても、日本では乳頭がんあるいは濾胞がんという悪性度の低いがんがほとんどなので、腫瘍の部分を含む側葉の切除あるいは全摘に準じた摘出を行って、周囲のリンパ節を郭清する手術が行われます。一方、バセドウ病では甲状腺のサイズを縮小させることが目的なので、一葉は全摘して一葉は約3g残すか、両葉ともに2g程度残します。

 いずれも基本的には安全な手術ですが、反回神経を傷つけると嗄声(しわがれた声)になり、また副甲状腺を取ってしまうとカルシウムが低下して、テタニーという腕や手などに起こるけいれん発作などの合併症が生じます。

 また、首の中央に手術の跡が残るので、最近はそれを避けるために頸部小切開法や内視鏡下手術などの体への負担が少ない手術も行われています。

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