出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
こうじょうせんきのうこうしんしょう(ばせどうびょう)

  • 内科
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甲状腺機能亢進症(バセドウ病)とは?

どんな病気か

 甲状腺から甲状腺ホルモンが多量に分泌され、全身の代謝が高まる病気です。しばしば甲状腺機能亢進症とバセドウ病は同じ意味に使われていますが、厳密には違います。

 バセドウ病以外にも無痛性甲状腺炎亜急性甲状腺炎、機能性甲状腺腫(プラマー病)でも甲状腺ホルモンが過剰になります。さらに故意や事故で甲状腺ホルモンを過剰に摂取するといったこともありますが、ここではバセドウ病に限って話を進めます。

 バセドウ病とは、この病気を報告したドイツの医師の名前に由来するもので、米国や英国では別の医師の名前をとってグレーブス病と呼んでいます。

原因は何か

 血液中にTSHレセプター抗体(TRAb)ができることが原因です。この抗体は、甲状腺の機能を調節している甲状腺刺激ホルモン(TSH)というホルモンの情報の受け手であるTSHレセプターに対する抗体です。これが甲状腺を無制限に刺激するので、甲状腺ホルモンが過剰につくられて機能亢進症が起こります。

 このTRAbができる原因はまだ詳細にはわかっていませんが、甲状腺の病気は家族に同じ病気の人が多いことでもわかるように、遺伝的素因が関係しています。

症状の現れ方

 甲状腺ホルモンが過剰になると全身の代謝が亢進するので、食欲が出てよく食べるのに体重が減り(高齢になると体重減少だけ)、暑がりになり、全身に汗をかくようになります。

 精神的には興奮して活発になるわりにまとまりがなく、疲れやすくなり、動悸を1日中感じるようになります。手が震えて字が書きにくくなり、ひどくなると足や全身が震えるようになります。イライラして怒りっぽくなり、排便の回数が増えます。大きさに違いはありますが、ほとんどの症例で軟らかいびまん性の甲状腺腫が認められます。

 バセドウ病では眼球が突出するとよくいわれますが、実際には5人に1人くらいです。

検査と診断

 甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモン(遊離チロキシン:FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定することで、診断できます。

 さらにバセドウ病であることを確認するには、原因物質であるTSHレセプター抗体(TRAb)を測定します。まれにこの抗体が陰性のことがあり、無痛性甲状腺炎と区別したい時は放射性ヨード摂取率を測定します。眼球突出などバセドウ病眼症の診断のためには、眼窩CT検査やMRI検査をすることもあります。

治療の方法

 抗甲状腺薬治療、手術、アイソトープ治療の3種類がありますが、通常、抗甲状腺薬治療をまず行います。

 抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)は甲状腺ホルモンの合成を抑える薬です。この薬で合成を抑えると、4週間くらいで甲状腺ホルモンが下がり始め、2カ月もすると正常になって、自覚症状はなくなり、完全に治ったようになります。しかし、原因のTRAbが消えるのは2~3年後なので、TRAbが陽性の間は抗甲状腺薬をのみ続ける必要があります。

 いつまでもTRAbが陰性にならない時は、甲状腺を一部残して切除する甲状腺亜全摘出術をするか、放射性ヨードを投与して甲状腺を壊すアイソトープ治療をすることになります。このどちらを選ぶかは、甲状腺の大きさや年齢、妊娠の希望などを考慮して決定します。なお、抗甲状腺薬は妊娠中でも医師の指示のもとに服用することができます。

 バセドウ病は女性では100人に1人の頻度でみられる病気で、決してまれなものではありません。自覚症状がなくなっても治ったわけではなく、いつ薬をやめるか、薬物治療以外の治療に切り替えるかなど難しい点もあるので、できれば甲状腺専門医と相談しながら治療することをすすめます。

病気に気づいたらどうする

 バセドウ病を見つける簡単なチェックリストを示しておきます(表2表2 バセドウ病のチェックリスト)。これでバセドウ病の可能性があるという結果になった人は、かかりつけ医あるいは内分泌・代謝科のある病院でFT4、TSH、TRAbを測定してもらいます。

表2 バセドウ病のチェックリスト

(執筆者:医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部 好文)

甲状腺機能亢進症に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、甲状腺機能亢進症に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

・掲載している情報は薬剤師が監修して作成したものですが、内容を完全に保証するものではありません。

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コラムバセドウクリーゼ

医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部好文

 クリーゼとはクライシス(危機)のことで、バセドウクリーゼとはバセドウ病で命が危機にさらされるほどの究極の状態を指す言葉です。

 実際に明確な定義があるわけではなく、未治療のバセドウ病患者さんで感染症、手術、出産などのストレスをきっかけに、毎分120回以上の頻脈、滝のように流れる汗、頻回の下痢、高熱、精神的な不穏状態などの激しい甲状腺機能亢進症が起こったものをいいます。

 眼球の突出や甲状腺腫などの状況からバセドウ病と推定したら、血液検査の結果などは待たずに治療を始めます。治療は大量の抗甲状腺薬、β遮断薬、副腎皮質ステロイド薬、酸素吸入、身体の冷却などです。現在でも死亡率は高く、10~75%といわれています。

 しかし、バセドウ病とすでに診断されている患者さんでクリーゼが起こることは極めてまれです。医師の指示に従って治療を続けている患者さんが、クリーゼを心配することはありません。

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医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部好文

 バセドウ病では眼球が突出するとよくいわれます。事実、バセドウ病の患者さんの眼球をヘルテルの眼突度計という器具で測ってみると、健康人の分布より全体で1・5mm眼が出ており、眼球の突出がバセドウ病で起こる現象であることがわかります。

 しかし、実際に眼球が出てくるために角膜が傷ついたり、眼痛があったりする患者さんは20%くらいです。

 眼球は眼窩という狭い場所に入っていて、眼球の後ろの脂肪組織や筋肉がはれると眼球は押し出されて前に出ます。もし出ないと視神経が圧迫されてしまうので、眼球の突出は一種の安全弁のようなものと考えてください。ただし眼科的に問題がある時は、副腎皮質ステロイド薬の投与、放射線の照射、手術などの治療をすることもあるので、心配な人は医師に相談してください。

 なお、喫煙が眼の突出と関係するので、喫煙している人はぜひ禁煙してください。

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医療法人社団白寿会田名病院理事長・院長 阿部好文

 バセドウ病の患者さんで、飲酒や甘い物を大量に食べたあと、突然手足に力が入らなくなり、動けなくなることがあります。

 通常は数時間で自然に動けるようになります。時々起こるという意味で周期性という言葉が使われていますが、本当に周期的に起こるわけではありません。

 原因は、甲状腺機能亢進状態の時に血糖が増えるとインスリンの作用により血液のなかのカリウムが急激に低下し、そのために筋肉がうまく収縮できなくなるためだと考えられています。しかし、なぜ東洋人の男性に多く起こるのかなど、わかっていないことも多い病気です。

 この病気は、バセドウ病の治療により甲状腺のホルモンが正常になれば起こらなくなります。また、原則として呼吸筋など生命の維持に必要な筋肉には麻痺は起こらないので、あまり心配することはありません。

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